会社が従業員に支給する賞与は、実際に支給する前の決算で費用として計上されることがあります。
たとえば、3月決算の会社が6月に夏季賞与を支給するとします。その賞与の一部が3月までの従業員の勤務に対応するものであれば、会計上は3月期の費用として賞与引当金を計上することがあります。
ところが、会計で費用を計上したからといって、税務でも必ず同じ時期に損金になるとは限りません。
ここに会計と税務のタイミングのズレが生じます。
参考記事では貸倒引当金について、会計上費用として計上した時期と税務上損金として認められる時期が異なり、将来損金になることで税負担が軽くなると見込まれる金額を繰延税金資産として計上する例が紹介されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
賞与引当金も、この考え方を理解するための代表的な項目の一つです。
賞与引当金とは何か
賞与引当金とは、将来支給する賞与のうち、すでに提供された従業員の労働に対応する部分について、当期の費用として計上するための引当金です。
ポイントは、実際にお金を支払った時点だけで費用を考えるのではないことです。
たとえば、4月から9月までの勤務実績をもとに10月に賞与を支給する会社を考えてみます。
会社の決算日が6月30日であれば、4月から6月までの勤務に対応する賞与は、翌期に支払われるとしても当期の従業員の労働によって発生した費用と考えることができます。
そこで一定の要件を満たす場合、会計上は賞与引当金繰入額を費用として計上し、貸借対照表には賞与引当金を負債として計上します。
会計で費用になっても税務ですぐ損金になるとは限らない
ここで重要になるのが税務との違いです。
会計では、将来の賞与支給に備えて賞与引当金を計上できます。
一方、税務上は、会計上の賞与引当金を計上したという理由だけで、その金額がそのまま損金になるわけではありません。
したがって、会計上は費用になっているのに、税務上はその事業年度の損金にならないというズレが生じることがあります。
これは今回の参考記事に登場する貸倒引当金と基本的に同じ考え方です。
参考記事でも、税効果会計とは、企業会計上の資産または負債の額と課税所得計算上の資産または負債の額に一時差異がある場合、その差異に係る法人税等を適切な会計期間に配分する手続きだと説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
将来損金になれば税金を減らす効果が生まれる
では、税務上損金にならなかった賞与引当金は、永久に損金にならないのでしょうか。
そうとは限りません。
その後、実際に賞与を支給し、税務上の損金算入要件を満たせば、損金として認められることになります。
つまり、
現在は損金にならない
将来は損金になる
という時間的なズレが存在します。
将来損金になれば、その時点の課税所得を減らす方向に働きます。
その結果、将来支払う法人税等を減少させる効果が期待できます。
このように将来の課税所得を減らす一時差異が、税効果会計における将来減算一時差異です。
繰延税金資産が計上される仕組み
簡単な例で考えてみます。
決算で賞与引当金を1000万円計上し、その全額が当期の税務上の損金にならなかったとします。
仮に税効果を計算するための税率を30パーセントとすると、
1000万円掛ける30パーセント
で300万円になります。
一定の要件を満たして繰延税金資産を認識する場合、この300万円が将来の税負担を軽減する効果として計上されます。
考え方としては、
繰延税金資産300万円
法人税等調整額300万円
という関係になります。
参考記事の貸倒引当金の例でも、貸倒引当金繰入限度超過額300千円に法定実効税率40パーセントを掛けた120千円について、繰延税金資産と法人税等調整額を計上しています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
賞与引当金でも基本的な考え方は同じです。
なぜ繰延税金資産という資産になるのか
初めて税効果会計を学ぶと、税金に関するものがなぜ資産になるのか分かりにくいかもしれません。
現在の事業年度では、賞与引当金を会計上費用にしていても、税務上損金にならなければ課税所得はその分だけ減りません。
つまり、税務上はまだ節税効果を受けていない状態です。
しかし、その賞与が将来損金になれば、その時点の課税所得を減らす効果があります。
税金を将来減らす効果があるため、それを一定の条件のもとで資産として認識するわけです。
参考記事でも、将来損金として認められることによって税負担が軽くなると見込まれる金額を繰延税金資産として計上する考え方が示されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
賞与を支給すると一時差異が解消する
繰延税金資産は、一度計上すればずっと貸借対照表に残るものではありません。
実際に賞与を支給し、それが税務上損金になると、それまで存在していた会計と税務のタイミングのズレが解消していきます。
それに伴って、対応する繰延税金資産も取り崩されます。
参考記事では、繰延税金資産を計上するときには法人税等調整額を貸方に計上して税金費用を減額し、繰延税金資産を取り崩すときには法人税等調整額を借方に計上して税金費用を増額すると説明されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
つまり、税効果会計は税金そのものを消しているのではありません。
会計と税務のタイミングの違いによる税金への影響を、それぞれ適切な事業年度に配分しているのです。
貸倒引当金と賞与引当金を並べると理解しやすい
今回の参考記事では、貸倒引当金を使って繰延税金資産の仕組みが説明されています。
貸倒引当金では、会計上費用として計上した金額の一部が税務上すぐには損金として認められず、将来損金になることで税負担が軽くなるケースが示されています。 9e099b3c-c74b-430b-a3b4-371a250…
賞与引当金についても、
会計では先に費用を認識する
税務ではその時点で損金にならないことがある
将来損金になる
将来の税負担を減らす効果が生じる
繰延税金資産を認識する
という流れで考えると理解しやすくなります。
税効果会計では難しい専門用語を暗記するよりも、まず「会計と税務で認識する時期が違う」という点を押さえることが重要です。
結論
賞与引当金は、将来支給する賞与のうち当期の従業員の労働に対応する部分を、会計上当期の費用として認識するための引当金です。
一方、税務では、会計上賞与引当金を計上しただけで必ずその事業年度の損金になるわけではありません。
そのため、会計では費用になっているのに税務ではまだ損金になっていないというタイミングのズレが生じることがあります。
将来、実際の賞与支給などによって税務上損金となれば、その時点の課税所得が減少します。
この将来の税負担軽減効果を一定の要件のもとで繰延税金資産として認識し、法人税等調整額によって各事業年度の税金費用を調整するのが税効果会計です。
貸倒引当金と賞与引当金を並べて考えると、「現在は損金にならないが、将来損金になる」という将来減算一時差異と繰延税金資産の関係が理解しやすくなります。
参考
企業実務 2026年9月 なるほど納得勘定科目 会計上の利益と税金の費用を対応させるには