株式、投資信託、預金、金、暗号資産など、個人が資産運用できる商品の選択肢は広がっています。
ただし、同じように投資で利益を得たとしても、税金の計算方法は商品によって同じではありません。
株式の売却益は原則として申告分離課税、預金利子は源泉分離課税、金地金の売却益や現在の暗号資産の利益は原則として総合課税です。
さらに暗号資産については、2028年から課税方式が大きく変わる見込みです。
資産運用では、運用利回りだけでなく、税引き後にいくら手元に残るのかを見ることが重要です。
資産運用の税金には複数の課税方式がある
所得税の課税方法を大きく分けると、総合課税と分離課税があります。
総合課税とは、給与所得や事業所得など一定の所得を合算して税額を計算する仕組みです。
所得が増えるほど税率が高くなる累進課税が採用されており、所得税率は5%から45%まで段階的に上昇します。
これに対して分離課税は、対象となる所得を他の所得とは分けて税額を計算します。
さらに分離課税には、本人が確定申告する申告分離課税と、支払いの段階で税金が差し引かれる源泉分離課税があります。
資産運用では、どの商品がどの課税方式に該当するのかを理解することが第一歩になります。
預金利子は税金が差し引かれて入金される
銀行の普通預金や定期預金から受け取る利子は、原則として源泉分離課税です。
利子から所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%が差し引かれます。
合計すると20.315%です。
例えば、税引き前の利子が1万円なら、約2032円の税金が差し引かれ、手取りは約7968円となります。
銀行が税金を差し引いて納付するため、通常は預金者が確定申告する必要はありません。
預金通帳などに記載される利息は、すでに税金が差し引かれた後の金額ということになります。
上場株式の売却益は申告分離課税になる
上場株式を売却して利益が出た場合は、原則として申告分離課税です。
税率は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です。
給与が高い人でも低い人でも、株式の譲渡益について適用される税率は原則として同じです。
ただし、実際に確定申告が必要になるかどうかは証券口座の種類によって変わります。
源泉徴収ありの特定口座であれば、証券会社が利益や税額を計算し、税金を差し引いて納付します。
そのため、多くの場合、投資家自身が確定申告する必要はありません。
一方、一般口座や源泉徴収なしの特定口座では、原則として自分で利益を計算して確定申告することになります。
NISAでは運用益が非課税になる
株式や投資信託でも、NISA口座を利用すると税金の扱いが大きく変わります。
NISAでは、制度上の投資枠などの条件を満たす限り、対象商品の売却益や配当などが非課税となります。
通常の課税口座なら20.315%の税負担が生じる利益について、NISAでは税金がかかりません。
例えば投資信託を100万円で購入し、150万円で売却したとします。
通常の課税口座なら50万円の利益に対して税金が発生します。
NISA口座なら、この50万円の利益は原則として非課税です。
長期的な資産形成では、この税負担の差が運用成果にも影響してきます。
金地金の売却益は株式とは税制が違う
注意したいのが金です。
金地金などの現物を売却して得た利益は、一般的には譲渡所得として総合課税の対象になります。
給与など他の所得と合算されるため、所得が多い人ほど税負担が大きくなる可能性があります。
一方、金の譲渡所得には年間50万円の特別控除があります。
さらに所有期間が5年を超える長期譲渡所得の場合、特別控除後の金額の2分の1が課税対象になります。
そのため、金は保有期間によって税負担が大きく変わることがあります。
同じ金への投資でも、金価格に連動する上場ETFなど一定の金融商品を売買した場合には、株式と同様の申告分離課税となります。
つまり、何に投資しているかだけでなく、どのような金融商品を通じて投資しているかによって税制が変わります。
暗号資産は現在は原則として総合課税
暗号資産の税制は、株式とは大きく異なります。
現在、個人が暗号資産取引で得た利益は、原則として雑所得として総合課税の対象になります。
給与など他の所得と合算されるため、暗号資産で大きな利益を得ると高い所得税率が適用される可能性があります。
株式で1億円の利益が出た場合と、暗号資産で1億円の利益が出た場合では、現在の制度では税負担の仕組みが大きく異なるわけです。
この違いが、暗号資産について株式などと同様の税制を求める議論につながってきました。
2028年から暗号資産は申告分離課税へ
暗号資産については、2028年1月1日以降、一定の取引について申告分離課税へ移行する見込みです。
所得税率は15%となり、住民税などを合わせた税率は株式や投資信託と同様の水準になることが想定されています。
ただし、すべての暗号資産取引が対象になるわけではありません。
金融庁の登録を受けた暗号資産取引業者を通じて、対象となる特定暗号資産を売却する場合などに適用される仕組みです。
海外の暗号資産取引所を利用した取引などについては、同じ税制が適用されない可能性があります。
単純に暗号資産の税率が一律に変わると考えないことが重要です。
暗号資産は売却しなくても課税されることがある
暗号資産で特に注意したいのが、利益が確定するタイミングです。
暗号資産を売却して日本円に交換した場合だけが課税対象になるわけではありません。
暗号資産を使って商品を購入した場合や、保有している暗号資産を別の暗号資産と交換した場合にも、利益が生じていれば課税対象となることがあります。
例えば10万円で取得した暗号資産の価値が30万円になり、その暗号資産を使って30万円の商品を購入したとします。
この場合、単に暗号資産で買い物をしただけに見えても、取得時から増加した20万円について利益を認識することになります。
暗号資産は取引形態が多いため、取得価額と取引時の価額を継続的に管理する必要があります。
ウォレットへの移動と売却は区別する必要がある
暗号資産を取引所から自分のウォレットへ移動しただけなら、通常はその移動自体によって利益が確定するわけではありません。
ところが取引履歴上では、単純に出金と表示される場合があります。
同じ出金でも、自分のウォレットへの移動なのか、商品購入などに使用したのかでは税務上の意味が違います。
そのため、暗号資産では取引所が発行する履歴だけに頼らず、いつ、どの暗号資産を、どれだけ、どこへ移動し、何に使用したのかを記録しておくことが重要です。
税制が金融商品に近づいても、取引記録の管理が不要になるわけではありません。
2028年まで売却を待てば必ず得になるわけではない
暗号資産の申告分離課税への移行を考えると、2028年まで売却を待った方が有利なのではないかと考える人もいるでしょう。
しかし、必ずしもそうとは限りません。
現在の総合課税では所得税に累進税率が適用されます。
そのため、給与などを含めた課税所得が比較的少ない人の場合、現在の税率の方が申告分離課税移行後より低くなるケースも考えられます。
さらに、暗号資産そのものの価格が2028年までどう動くかは分かりません。
税率だけを理由に売却時期を決めれば、価格変動による損失の方が大きくなる可能性もあります。
税制は投資判断の重要な要素ですが、税金だけで投資判断を決めるのは適切ではありません。
暗号資産は金融商品としての規制も強まる
暗号資産を巡る変化は税制だけではありません。
金融商品取引法の改正により、投資対象としての暗号資産を金融商品として規制する方向が明確になっています。
背景には、暗号資産が単なる決済手段だけではなく、個人や機関投資家が保有する投資資産として存在感を高めていることがあります。
未公開情報を利用した取引などについて規制を設け、市場の公正性や投資家保護を強化する考え方です。
税制が株式に近づく一方で、規制についても証券市場に近い枠組みが整備されていくことになります。
資産運用では税引き後の利益を見る
投資商品を比較するとき、多くの人は値上がり率や利回りを見ます。
しかし、本当に重要なのは税引き後にいくら残るかです。
同じ100万円の利益でも、NISAなら原則として税負担はありません。
上場株式の課税口座なら原則20.315%の税負担があります。
金地金や現在の暗号資産では、他の所得や保有期間などによって税負担がさらに変わります。
投資対象を選ぶときには、期待リターン、リスク、手数料だけではなく、税制まで含めて比較する必要があります。
結論
資産運用の税金は、利益が出たら一律に同じ税率で課税されるわけではありません。
預金利子は源泉分離課税、上場株式の売却益は原則として申告分離課税、NISAは一定の範囲で非課税、金地金や現在の暗号資産は原則として総合課税と、商品によって大きく異なります。
特に暗号資産は、2028年から一定の取引について申告分離課税へ移行する見込みで、税制上の位置付けが大きく変わります。
同時に金融商品としての規制も強まり、暗号資産は税制と市場規制の両面で株式などに近づいていくことになります。
資産運用で重要なのは、表面的な運用利回りだけを見ることではありません。
どの課税方式が適用され、税金を差し引いた後にどれだけ資産が残るのか。
制度変更も含めて税引き後のリターンを確認することが、これからの資産運用では一段と重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 資産運用の税、ルール点検 暗号資産、28年に税率変更
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊 金融商品として規制