非上場株式の相続税評価を巡り、国税庁が検討している新ルール案では、簿価純資産と残余利益を使って会社の価値を計算する方向が示されています。
しかし、すべての会社に同じ計算式をそのまま適用できるとは限りません。
特に重要になるのが資産管理会社です。
国税庁の有識者会議でも、資産管理会社など特定の企業に適用する計算式について今後議論する予定とされています。
なぜ資産管理会社には、一般の事業会社とは違った扱いが必要になる可能性があるのでしょうか。
資産管理会社とは何か
資産管理会社という言葉にはさまざまな使われ方があります。
一般的には、不動産や有価証券などの資産を保有し、管理することを主な目的とする会社を指します。
例えば個人が所有していた賃貸マンションを法人へ移し、その会社が家賃収入を得るケースがあります。
株式などの金融資産を会社で保有する場合もあります。
商品を製造したりサービスを提供したりする一般的な事業会社とは、利益を生み出す仕組みが異なります。
事業会社は事業そのものが価値を生みます
一般的な事業会社では、人材や技術、設備、ブランド、顧客基盤などを組み合わせて商品やサービスを提供します。
そして事業活動によって利益を生み出します。
会社の価値を考えるときには、現在保有している資産だけでは十分ではありません。
その会社が将来も利益を生み出せるのかという収益力が重要になります。
国税庁の新ルール案で残余利益を使うのは、こうした企業の稼ぐ力を評価へ反映するためです。
資産管理会社は保有資産そのものが重要です
一方、資産管理会社では事情が異なります。
例えば会社が時価10億円相当の賃貸不動産を保有しているとします。
会社の価値を考えるうえで、その10億円相当の不動産の存在は非常に重要です。
不動産から得られる家賃収入だけを見ればよいわけではありません。
会社が保有している不動産そのものにも経済的価値があります。
株式や債券などを大量に保有する会社でも同じです。
資産管理会社では、収益力と同時に保有資産の現在価値をどのように評価するのかが重要になります。
簿価と現在価値に大きな差が生じることがあります
ここで新ルール案の簿価純資産が問題になります。
例えば30年前に1億円で取得した土地を資産管理会社が保有しているとします。
現在、その土地が5億円相当になっているとします。
会社には4億円相当の含み益があります。
新ルールで税法上の簿価を中心に評価すれば、この現在の資産価値を十分に反映できない可能性があります。
一般の事業会社であれば、事業用不動産の含み益をどこまで株価へ反映するのかという問題になります。
しかし資産を保有すること自体が中心的な機能である資産管理会社では、問題の意味がさらに大きくなります。
簿価だけなら評価額が大きく下がる可能性があります
極端な例で考えてみます。
会社の主な資産が、昔1億円で取得した現在10億円相当の土地だけだったとします。
負債はほとんどないものとします。
現在の資産価値を考えれば、会社は非常に大きな財産を保有しています。
ところが簿価だけを基礎にすれば、土地の値上がり部分を十分に反映できない可能性があります。
その結果、会社が実際に持っている経済的価値と税務上の株式評価額との間に大きな差が生じる可能性があります。
この問題が、資産管理会社に一般の事業会社と同じ計算式をそのまま適用しにくい理由の1つです。
残余利益だけでも測りにくい場合があります
では残余利益を使えば適切に評価できるのでしょうか。
これも単純ではありません。
例えば10億円相当の土地を保有していても、自社で使用しているだけなら土地そのものから家賃収入は発生しません。
また、賃貸不動産でも利回りが低ければ、資産価値の大きさに比べて毎年の利益はそれほど大きくない場合があります。
収益力だけを強く評価すると、保有する資産の価値を十分に反映できない可能性があります。
資産管理会社では、資産価値と収益力のどちらをどの程度重視するのかが難しい問題になります。
現行制度にも特定会社の仕組みがあります
現在の非上場株式評価でも、すべての会社を同じ方法で評価しているわけではありません。
例えば株式等保有特定会社や土地保有特定会社など、一定の資産を多く保有する会社については特別な取り扱いがあります。
こうした会社に一般的な評価方法をそのまま適用すると、会社の実態に合わない評価になる可能性があるためです。
新しい評価制度でも、同じように会社の性質に応じた調整が必要になる可能性があります。
相続対策との関係も重要です
資産管理会社は相続や資産承継の場面でも利用されます。
個人が直接不動産や有価証券を保有するのではなく、会社が資産を保有し、本人や家族がその会社の株式を持つ形です。
この場合、相続時には不動産そのものではなく、非上場会社の株式が相続財産になることがあります。
そのため資産管理会社の株式をどのように評価するかは、相続税額に大きな影響を与える可能性があります。
もし簿価純資産を使うことで大きな含み益が評価されなくなれば、一般の事業会社以上に評価額が変化するケースも考えられます。
制度設計ではこの点も重要な論点になります。
評価を簡単にすることとの両立が課題です
今回の新ルール案には、非上場株式評価を簡単にする狙いがあります。
現在は不動産などを相続税評価額に置き換える必要があり、評価実務が複雑になることがあります。
税法上の簿価を使えば、計算はかなり簡単になります。
しかし資産管理会社について簿価だけを使うと、現在の資産価値から大きく離れる可能性があります。
計算を簡単にすること。
会社の実際の経済的価値を適切に評価すること。
この2つをどう両立させるのかが制度設計の難しいところです。
今後の有識者会議が重要になります
現時点で資産管理会社に適用する新しい計算方法が最終決定しているわけではありません。
今後の有識者会議では、資産管理会社など特定の企業に適用する計算式についても議論される予定です。
どの会社を特別扱いするのか。
不動産や有価証券をどの程度保有していれば対象になるのか。
簿価ではなく別の評価額を使うのか。
残余利益をどのように組み合わせるのか。
こうした詳細によって、資産管理会社の株式評価は大きく変わる可能性があります。
結論
国税庁が検討している非上場株式の新ルール案では、簿価純資産と残余利益を使って企業価値を評価する方向が示されています。
しかし資産管理会社では、一般の事業会社と同じ計算式をそのまま使うことが難しい場合があります。
理由は、資産管理会社では不動産や有価証券など、保有している資産そのものが会社の価値の大きな部分を占めるからです。
昔取得した不動産に巨額の含み益がある場合、簿価だけを使えば現在の資産価値を十分に反映できない可能性があります。
一方、残余利益だけを重視しても、保有資産そのものの価値を適切に評価できるとは限りません。
新ルールで重要になるのは、事業会社と資産管理会社の違いをどのように評価制度へ反映するのかという点です。
資産管理会社を利用している人にとっては、簿価純資産と残余利益だけでなく、特定の会社に適用される別の計算方法が設けられるのかを確認することが重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 非上場株の相続巡る新ルール案 中小の5割超、評価額減少
日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 企業収益力に応じ課税 計算簡単、評価額適正に