令和8年度税制改正で創設された大胆な投資促進税制では、一定の要件を満たす設備について即時償却または税額控除を選択できます。
ただし、対象となる設備を取得すれば必ず税制優遇を受けられるわけではありません。
重要な除外要件の一つが貸付用資産です。
制度では、対象となる特定機械装置等を国内にある法人の事業の用に供することが必要とされ、貸付けの用に供した場合は原則として対象から除かれます。
では、なぜ貸付用資産は対象外なのでしょうか。
この理由を理解するためには、大胆な投資促進税制が何を促そうとしている制度なのかを考える必要があります。
大胆な投資促進税制の目的を考える
大胆な投資促進税制は、企業による一定の生産性向上につながる設備投資を税制面から後押しする制度です。
企業が新しい設備を導入し、それを自社の事業活動に利用することで生産能力や生産性を高めることが想定されています。
たとえば製造会社が新しい製造機械を導入し、生産能力を高めるケースが分かりやすいでしょう。
物流会社が事業に必要な一定の設備を導入する場合なども、設備投資と事業活動との関係を確認することになります。
つまり、税制優遇の中心にあるのは、その法人自身の事業活動のための投資です。
貸付用資産とは何か
貸付用資産とは、一般的には自社で使用するのではなく、他者へ貸し付けて使用させる資産を意味します。
たとえば企業が機械を購入し、それを別の会社へ貸して賃貸料を受け取るケースを考えると分かりやすいでしょう。
形式的には設備投資を行っています。
しかし、その機械を実際に事業活動で使用しているのは借りた会社です。
設備を購入した会社にとっては、機械そのものを使って製品を生産するというより、資産を貸し付けることによって収益を得ていることになります。
大胆な投資促進税制では、このような単純な貸付けを、自社の生産性向上のための設備投資とは区別しています。
設備を買ったことだけでは足りない
設備投資税制を考えるときには、いくら投資したのかに目が向きがちです。
しかし、税制上は取得後の使い方も重要です。
1億円の機械を購入したとしても、自社工場で製品を製造するために使用する場合と、そのまま他社へ貸して賃貸料を受け取る場合では、設備の役割が異なります。
大胆な投資促進税制では、単に企業による資産購入を増やすことだけを目的としているわけではありません。
一定の設備が法人自身の事業活動に利用されることが重要になります。
そのため、事業の用に供したかどうかという要件が設けられています。
賃貸事業との区別が必要になる
貸付用資産をすべて対象にすると、制度の対象範囲が大きく広がる可能性があります。
設備を自社で使用する企業だけでなく、設備を購入して第三者へ貸す企業にも税制優遇が広がるからです。
そこで制度上、自社の生産等活動のための設備投資と、単純な資産の貸付けを区別する必要があります。
この区別によって、税制優遇を政策目的に沿った投資へ重点的に適用する考え方になっています。
ただし、現実の企業活動では自社利用と貸付けを単純に二分できないケースがあります。
そこで今回の通達が重要になります。
委託先への設備貸与という問題
製造業では、製品の加工や部品の製造を外部企業へ委託することがあります。
その際、自社が所有する専用の機械を委託先へ貸与するケースがあります。
設備は委託先の工場に置かれています。
実際に機械を操作するのも委託先の従業員かもしれません。
形式だけを見れば、他社への設備の貸付けのように見えます。
しかし、その機械が自社製品の製造だけに使われているのであれば、単純な賃貸とは性格が異なります。
そこで問題になるのが、これを貸付用資産として税制優遇の対象外にするのかという点です。
通達は形式だけで判断しない考え方を示した
国税庁が公表した通達では、この点について重要な取扱いが示されています。
法人が取得した特定機械装置等を委託先へ貸与した場合であっても、その設備が専らその法人のためにする製品の加工等の用に供されるものであるときは、その法人の営む事業の用に供したものとするとされています。
つまり、他社に設備を渡しているという形式だけでは判断しません。
その設備が実質的に誰の事業活動のために使用されているのかを見るわけです。
これは大胆な投資促進税制を理解するうえで非常に重要なポイントです。
単純な貸付けと委託加工を区別する
たとえばA社が1億円の製造機械を購入し、B社へ貸したとします。
B社がその機械を自由に使用し、さまざまな顧客向けの商品を製造しているのであれば、単純な貸付けとの区別が問題になります。
一方、A社が自社製品の部品加工をB社へ委託し、そのための専用機械をB社へ貸与したとします。
その機械が専らA社のための加工に使用されているのであれば、実質的にはA社の生産工程の一部をB社が担当していると見ることができます。
同じ設備貸与でも経済的な実態は異なります。
今回の通達は、この違いを明確にしたものと考えることができます。
専らという言葉が重要になる
通達を読むうえで特に注目したいのが、専らその法人のためにという部分です。
委託先へ設備を貸与していれば、どのような場合でも対象になるという意味ではありません。
その設備が誰のために使われているのかが重要になります。
自社の製品加工だけに使用される専用設備なのか。
それとも委託先が他社向けの製品にも使用しているのか。
使用実態によって判断が変わる可能性があります。
したがって、委託先への設備貸与では、設備の所有者だけでなく実際の利用状況を把握しておくことが重要になります。
契約書だけでなく実態の確認も重要になる
設備貸与を伴う委託取引では、契約関係を明確にしておくことが重要です。
誰が設備を所有しているのか。
何のために貸与するのか。
どの製品の加工に使用するのか。
他社向けの製造にも使用できるのか。
こうした内容を整理しておく必要があります。
さらに、契約書に自社専用と書いてあればそれだけで十分とは限りません。
実際の使用状況が契約内容と一致しているかという視点も重要になります。
税制上の取扱いを説明するためには、設備貸与の形式だけでなく、その設備が実際にどのように使われているのかを把握できるようにしておくことが大切です。
分業が進むほど重要になる考え方
現代の企業活動では、すべての製造工程を自社内で行うとは限りません。
部品製造や加工、組立などを外部企業へ委託し、複数企業による分業で製品をつくることも一般的です。
その場合、自社の生産活動と外部委託先の活動との境界は複雑になります。
設備が自社工場に置かれているかどうかだけで税制適用を判断すると、こうした事業実態に対応できない場合があります。
今回の通達が委託先への設備貸与について具体的な取扱いを示したことには、このような分業型の事業活動にも対応する意味があります。
結論
大胆な投資促進税制では、貸付けの用に供した設備は原則として対象から除かれます。
制度が単なる資産購入や賃貸事業を支援するのではなく、法人自身の生産性向上につながる一定の設備投資を促すことを目的としているためです。
しかし、他社に設備を貸しているという形式だけで、すべて貸付用資産になるわけではありません。
委託先へ設備を貸与していても、その設備が専ら自社のための製品加工などに使用されている場合には、自社の事業の用に供したものとして扱われます。
重要なのは、誰が設備を所有しているか、どこに設備が置かれているかだけではありません。
その設備が実質的に誰の事業のために使われているのかを見る必要があります。
特に外部委託を活用している企業では、設備の用途、委託契約、実際の使用状況を整理しておくことが重要です。
貸付用資産の除外規定を理解することは、大胆な投資促進税制がどのような投資を支援しようとしているのかを理解することにもつながります。
参考
税のしるべ 2026年9月14日 8年度法人税関係法令の改正対応で措置法通達、大胆な投資促進税制関係など
国税庁 2026年9月4日 租税特別措置法関係通達 法人税編 の一部改正について