財形貯蓄制度とは何か 非課税限度額550万円の引き上げが検討される理由編

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会社員が給与から自動的にお金を積み立てる「財形貯蓄制度」が、大きな見直しを迎える可能性があります。

厚生労働省は、財形貯蓄のうち年金財形と住宅財形について、利子が非課税となる限度額を引き上げる検討に入りました。

現在は年金財形と住宅財形を合わせて元利金550万円までという非課税限度額が設けられています。しかし、この金額は1994年から据え置かれています。

その間に賃金や住宅価格、物価は大きく変わりました。

特にマンション価格の上昇は著しく、従来の550万円という基準では住宅取得を支援する制度として十分なのかという問題が出てきています。

今回は、そもそも財形貯蓄制度とはどのような制度なのか、なぜ今になって非課税限度額の引き上げが検討されるのかを整理します。

財形貯蓄制度とは何か

財形貯蓄制度は、会社員や公務員などの勤労者が給与から一定額を天引きして積み立てる仕組みです。

自分で毎月銀行口座から積み立てるのではなく、勤務先が給与から控除し、金融機関などに払い込むことが大きな特徴です。

制度が始まったのは1971年です。

勤労者が計画的に財産を形成できるようにすることを目的としており、その後、住宅取得や老後資金づくりを支援する制度も追加されました。

現在の財形貯蓄には、大きく三つの種類があります。

一般財形貯蓄

財形年金貯蓄

財形住宅貯蓄

同じ財形という名前が付いていますが、目的や税制上の扱いは異なります。

一般財形は使い道が自由

最も基本的なのが一般財形貯蓄です。

一般財形には、積み立てたお金の使い道について基本的な制限がありません。

旅行に使うこともできますし、自動車購入や教育費、老後資金などに使うこともできます。

一方で、一般財形には年金財形や住宅財形のような利子に対する非課税措置はありません。

通常の預貯金などと同じように、利子には原則として税金がかかります。

それでも給与天引きによって自動的に貯蓄できるため、自分でお金を貯めるのが苦手な人にとっては強制的な貯蓄の仕組みとして利用できます。

財形貯蓄残高の中心となっているのも一般財形です。

2025年度末の財形貯蓄全体の残高は約12兆5000億円で、このうち一般財形が約9兆2000億円と7割程度を占めています。

年金財形は老後資金を準備する制度

財形年金貯蓄は、老後の生活資金を準備するための制度です。

一定期間積み立てた資金を、原則として60歳以降に年金形式で受け取ります。

一般財形との大きな違いが税制優遇です。

一定の要件を満たして積み立てれば、財形住宅貯蓄と合わせて元利金550万円まで、その元利金から生じる利子などが非課税になります。

通常の預貯金の利子には税金がかかります。

そのため、金利が高くなればなるほど、利子を非課税で受け取れる効果も大きくなります。

長く続いた超低金利時代には、利子そのものが非常に少なかったため、非課税メリットを実感しにくい状況が続いていました。

しかし、金利が上昇すれば事情は変わります。

「金利ある世界」では、財形の非課税制度が再び注目される可能性があります。

住宅財形は住宅購入やリフォームに使う

もう一つが財形住宅貯蓄です。

こちらは住宅の購入や一定のリフォームなどに資金を使うことを目的としています。

年金財形と同様に税制優遇が設けられており、両制度を合わせて元利金550万円まで、その元利金から生じる利子などが非課税となります。

例えば、年金財形で300万円、住宅財形で250万円というように利用すれば、合計550万円になります。

注意したいのは、それぞれ550万円ではないことです。

年金財形と住宅財形を合計した非課税限度額が基本的に550万円となっています。

今回、この550万円という基準そのものを引き上げることが検討されています。

なぜ550万円では足りなくなったのか

大きな理由がインフレです。

現在の非課税限度額は1994年から据え置かれてきました。

30年以上、同じ550万円という基準が使われていることになります。

しかし、その間に賃金や住宅価格は変化しています。

一般労働者の所定内給与は2025年に月約34万600円となり、1994年当時と比べて約2割増えています。

さらに大きく動いたのが住宅価格です。

記事によると、2025年までの15年間で戸建て住宅の価格は約1.2倍、マンション価格は約2.2倍になっています。

住宅価格が2倍になっているのに、住宅資金づくりを支援する非課税限度額が変わらなければ、制度の実質的な支援効果は小さくなります。

550万円という数字を変えなくても、物価や住宅価格が上がれば実質的な価値は低下するのです。

インフレでは金融資産の実質価値も減る

今回の見直しを考えるうえで重要なのが、お金の「名目価値」と「実質価値」の違いです。

例えば550万円を持っていたとします。

口座残高だけを見れば550万円は550万円です。

しかし、物価が上昇すれば、その550万円で購入できる商品やサービスは少なくなります。

これが金融資産の実質的な目減りです。

住宅価格が大きく上昇すれば、さらに分かりやすくなります。

3000万円だった住宅が6000万円になった場合、550万円の頭金が占める割合は大幅に低下します。

制度上の金額が変わっていなくても、住宅取得を支援する力は弱くなっているわけです。

非課税限度額の引き上げは、このインフレによる制度の実質的な縮小を修正する意味を持っています。

金利上昇で非課税メリットも大きくなる

もう一つ見逃せないのが金利です。

低金利時代には、550万円を積み立てても発生する利子が少なかったため、利子非課税のメリットも限定的でした。

例えば金利が年0.1%なら、550万円に対する年間利子は単純計算で5500円です。

これに対して年2%なら、年間利子は11万円になります。

金利が上昇すると、同じ元本でも受け取る利子が大きくなります。

当然、利子にかかる税金も増えるため、非課税制度の価値も高まります。

財形制度の見直しには、インフレだけではなく、日本経済が長い超低金利時代から「金利ある世界」へ移行していることも関係しています。

55歳未満という年齢制限も見直しへ

今回の検討では非課税限度額だけではなく、加入できる年齢についても見直しが検討されています。

一般財形には契約開始時の年齢制限がありません。

一方、年金財形と住宅財形は原則として契約時に55歳未満であることが要件となっています。

しかし、働く期間そのものが長くなっています。

60歳で完全に引退するという従来型の働き方から、65歳、70歳まで働く人が増えれば、50代以降でも資産形成を続ける必要があります。

住宅についても、若い時に購入して終わりとは限りません。

50代で住宅を購入したり、リフォームしたりする人もいます。

実際、2025年の調査では50歳以上の加入者が、年金財形で8.3%、住宅財形で5.3%を占めています。

高齢就業が一般的になるなかで、「55歳未満」という制度設計が現在の働き方に合っているのかも問われています。

財形貯蓄の利用者は大幅に減っている

一方、財形貯蓄制度そのものは長期的に縮小しています。

三つの財形を合わせた契約件数は、ピークだった1989年度には1955万件ありました。

2025年度には約526万件まで減少しています。

ピーク時の3分の1以下です。

残高も2025年度には約12兆5000億円となり、ピークだった2000年度から約3割減少しています。

制度を導入している事業所の割合も2024年には28.9%となり、20年間で約26ポイント低下しました。

NISAやiDeCoなど、個人が利用できる資産形成制度が広がったこともあり、財形の存在感は以前より小さくなっています。

今回の制度見直しには、こうした財形離れを食い止めたいという狙いもあると考えられます。

NISAやiDeCoとは役割が違う

財形制度を考えるときには、NISAやiDeCoとの違いも重要です。

NISAは投資によって資産を増やすための制度です。

iDeCoは税制優遇を受けながら老後資金を準備する制度です。

これに対して財形は、給与天引きを利用して計画的に貯蓄するという性格が強い制度です。

大きな運用益を狙うというより、給与を受け取る段階で先に貯蓄してしまうことに意味があります。

つまり、

給与を受け取る

財形分が自動的に天引きされる

残った金額で生活する

という仕組みにすることで、貯蓄を習慣化できます。

資産形成制度が多様化した現在でも、この強制貯蓄に近い仕組みには独自の役割があります。

結論

財形貯蓄制度は、会社員や公務員などが給与天引きによって計画的に資産を形成する制度です。

一般財形、財形年金、財形住宅の三種類があり、年金財形と住宅財形については、合計550万円までの元利金から生じる利子などが非課税となる優遇措置があります。

しかし、この550万円という非課税限度額は1994年から30年以上据え置かれてきました。

その間に賃金は上昇し、特に住宅価格は大きく上昇しています。

インフレによって550万円の実質的な価値も低下しました。

さらに金利が上昇すれば、利子を非課税とするメリットそのものも大きくなります。

そこで厚生労働省は、2027年度税制改正に向けて非課税限度額の引き上げや加入年齢の見直しを検討します。

財形貯蓄は契約件数や残高が長期的に減少してきました。

それでも、給与天引きによって半ば自動的に資産を形成できるという特徴は、NISAやiDeCoとは異なります。

今回の見直しは単なる「550万円の引き上げ」ではありません。

インフレ、住宅価格上昇、高齢就業、そして金利上昇という経済環境の変化に合わせて、1970年代から続く財形貯蓄制度を現代型の資産形成制度へ修正できるかが問われています。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 厚労省、財形の非課税限度額上げ インフレ対応で検討

日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 財形貯蓄制度とは

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