ストックオプションの2次流通とは何か IPO前でも従業員が株式報酬を現金化できる仕組み編

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

スタートアップが優秀な人材を採用するための代表的な仕組みの一つがストックオプションです。

会社が将来大きく成長すれば、従業員はあらかじめ決められた価格で株式を取得し、その後の値上がりによって大きな利益を得られる可能性があります。

しかし未上場企業のストックオプションには大きな問題があります。

会社が成長して株式の価値が上昇しても、IPOしなければ簡単に現金化できないことです。

創業からIPOまで10年以上かかる企業であれば、従業員は長期間待つ必要があります。

そこで注目されているのが、ストックオプションを行使して取得した未上場株を2次流通市場で売却する仕組みです。

IPOだけに依存せず株式報酬を現金化できるようになれば、スタートアップの人材戦略そのものを変える可能性があります。

ストックオプションとは何か

ストックオプションとは、一定の条件で会社の株式を取得できる権利です。

例えば従業員に、一株1000円で1万株を取得できるストックオプションが付与されたとします。

その後会社が成長し、株式の価値が一株5000円になったとします。

従業員は権利を行使すれば、一株1000円で株式を取得できます。

単純化すると、一株当たり4000円の値上がり分が存在することになります。

1万株なら4000万円です。

会社の成長が従業員自身の経済的利益につながるため、会社と従業員の利害を一致させやすい仕組みです。

ストックオプションは株式そのものではない

ここで重要なのが、ストックオプションと株式は同じものではないことです。

ストックオプションは株式を一定の条件で取得できる権利です。

従業員がストックオプションを持っているだけでは、通常はまだその株式を所有しているわけではありません。

権利を行使し、定められた行使価格を払い込むことで株式を取得します。

例えば一株1000円で1万株を取得できるストックオプションなら、権利を行使するためには1000万円が必要になります。

権利行使によって初めて、従業員は株主になります。

行使後は未上場株になる

会社がまだIPOしていなければ、ストックオプションを行使して取得する株式も未上場株です。

ここに問題があります。

例えば一株1000円で取得した株式について、直近の資金調達では一株5000円という評価が付いていたとします。

帳簿上あるいは評価上は大きな含み益があるように見えます。

しかし証券取引所で売却することはできません。

一株5000円という評価が付いていても、その価格で実際に購入してくれる人がいるとは限りません。

つまり資産価値はあっても現金がない状態になります。

従来はIPOが大きな換金機会だった

未上場スタートアップの従業員にとって、株式報酬を現金化する代表的な機会がIPOでした。

会社が証券取引所へ上場すれば株式に市場価格が付きます。

一定の売却制限などを考慮する必要はありますが、その後は市場で売却できる可能性が生まれます。

会社が大きく成長してIPOすれば、ストックオプションを持っていた従業員が大きな資産を得ることもあります。

この成功体験がスタートアップで働く魅力の一つになってきました。

しかしIPOまでの期間が長くなると、この仕組みに問題が生じます。

会社が成長するほどIPOが遅くなる可能性もある

企業にとって早くIPOすることが常に最善とは限りません。

例えば創薬、宇宙、人工知能などでは、長期間の研究開発や巨額の先行投資が必要になる場合があります。

未上場市場で十分な資金を調達できるなら、企業価値をさらに高めてからIPOした方がよいと経営者が判断することもあります。

会社にとっては合理的です。

しかし従業員から見ると別の問題が生じます。

会社がIPOを5年間延期すれば、従業員の株式報酬を現金化できる時期も5年間遅れる可能性があるからです。

企業にとって最適なIPO時期と、従業員が報酬を受け取りたい時期が一致するとは限りません。

2次流通で何が変わるのか

そこで未上場株の2次流通が重要になります。

従業員がストックオプションを行使して株式を取得します。

その株式を機関投資家などが購入します。

従業員は売却代金を受け取ります。

会社はIPOしません。

会社自身に新しい資金が入る取引でもありません。

従業員が保有している既存株式を別の投資家へ移すセカンダリー取引です。

これによって会社のIPO時期と従業員の現金化時期を切り離せるようになります。

例えば一部だけ現金化する

従業員が保有株式をすべて売却する必要はありません。

例えばストックオプションを行使して1万株を取得した従業員がいるとします。

2次流通の機会に2000株だけ売却します。

残り8000株は保有し続けます。

これなら現在の経済的利益を一部確定しながら、会社がさらに成長した場合の値上がりにも参加できます。

住宅購入や教育費などのために一部を現金化し、残りは長期保有するという選択も考えられます。

株式報酬を全部売るか全部持つかという二者択一ではなくなるのです。

テンダーオファーを利用する方法

多数の従業員が株式を保有している場合には、テンダーオファーのような仕組みが利用できます。

会社や投資家などが一定の条件を示し、売却を希望する株主を募ります。

例えば一株5000円で、一人当たり保有株式の20パーセントまで売却できるといった条件を設定します。

売却したい従業員が応募し、機関投資家などがまとめて株式を取得します。

一人ずつ買い手を探す必要がありません。

会社側も誰が新しい株主になるのかを把握しながら取引を進めやすくなります。

優秀な人材を採用しやすくなる

2次流通の大きな効果として期待されるのが人材採用です。

スタートアップは大企業ほど高い現金給与を提示できない場合があります。

そこで給与に加えてストックオプションを付与し、将来の企業価値上昇を従業員と分け合います。

しかし求職者から見れば、いつ現金化できるか分からない報酬には不確実性があります。

会社がIPOしなければ価値を実感できない可能性もあります。

数年ごとに未上場株を売却できる機会がある会社なら状況が変わります。

ストックオプションが遠い将来の期待だけではなく、途中で経済的利益を実現できる報酬になります。

人材の定着にも影響する

2次流通は従業員を会社に縛り付けるための仕組みではありません。

むしろ長期間働くことへの納得感を高める可能性があります。

例えば10年間勤務しなければ株式報酬をほとんど現金化できない会社と、数年ごとに一部を現金化できる会社を比べます。

後者では従業員が会社の成長成果を途中で実感できます。

会社の企業価値が上昇する。

株式報酬の価値が上がる。

一部を売却して実際に利益を得る。

さらに会社の成長に参加する。

こうした循環をつくることができれば、株式報酬への信頼も高まりやすくなります。

人材の流動性を高める意味もある

今回の参考記事では、従来は会社がIPOしないとストックオプションの権利を行使して利益を実現することが難しく、人材の流動性を阻害していたことも指摘されています。

従業員が会社を辞めたいと思っても、近い将来IPOする可能性があれば、ストックオプションを理由に退職をためらうことがあります。

これは企業にとって人材を引き留める効果がある一方、労働市場全体では人材が動きにくくなる要因にもなります。

IPO前に一定の換金機会があれば、従業員は株式報酬と転職を完全に一体として考える必要がなくなります。

スタートアップ間で人材が移動しやすくなる可能性もあります。

会社にお金が入らなくてもメリットがある

従業員株式の2次流通では、基本的に売却代金は従業員へ支払われます。

会社に新しい資金が入るわけではありません。

それでも会社にはメリットがあります。

株式報酬の魅力が高まります。

採用競争力が高まる可能性があります。

従業員が会社の成長成果を実感できます。

IPOを急ぐ必要性も小さくなります。

会社自身への資金供給ではなく、人材面から企業成長を支える効果が期待できるのです。

実際の売却価格には注意が必要

ただし、ストックオプションから取得した株式を売却できるようになれば、直近の資金調達価格と同じ価格で売れるとは限りません。

例えば直近の増資で優先株が一株1万円だったとします。

従業員が保有している普通株には、VCの優先株と同じ権利が付いていない場合があります。

さらに未上場株には流動性ディスカウントがあります。

そのため普通株の2次流通価格が一株8000円や7000円になる可能性があります。

ストックオプションの価値を見るときには、直近の企業価値だけではなく、実際にどの種類の株式をいくらで売却できるのかが重要になります。

権利行使や税金も考える必要がある

ストックオプションの現金化では、売却価格だけを見ればよいわけではありません。

権利を行使するために資金が必要になる場合があります。

ストックオプションの種類によって税務上の扱いも異なります。

さらに株式を売却したときの課税関係も確認する必要があります。

一株いくらで売れるかだけではなく、行使に必要な資金や税負担などを考え、最終的に手元へいくら残るのかを見ることが重要です。

2次流通が普及するほど、こうした実務面の整備も重要になっていきます。

IPOだけが報酬実現の瞬間ではなくなる

ストックオプションの2次流通が広がる最大の変化は、IPOの位置付けです。

従来はIPOが、会社、VC、従業員にとって大きな換金イベントになっていました。

VCは株式を売却する。

従業員は株式報酬を現金化する。

会社は上場企業になる。

三つの出来事がIPOへ集中していました。

2次流通市場が発達すれば、それぞれのタイミングを分けられます。

VCは必要な時期に売却する。

従業員も必要な時期に一部を現金化する。

会社は会社にとって最適な時期まで未上場で成長する。

IPOに多くの役割を集中させる必要がなくなるのです。

結論

ストックオプションの2次流通とは、従業員がストックオプションを行使して取得した未上場株を、IPO前に機関投資家などへ売却する仕組みです。

ストックオプションは株式そのものではなく、一定の条件で株式を取得できる権利です。

権利を行使すると従業員は株主になりますが、会社が未上場であれば取得する株式も未上場株です。

従来は、その株式を現金化する代表的な機会がIPOでした。

そのため会社が上場時期を遅らせるほど、従業員も株式報酬の実現を待つ必要がありました。

2次流通市場が整えば、この関係を変えられます。

従業員は保有株式の一部を売却し、残りを将来の成長に期待して保有することもできます。

会社側にとっても、ストックオプションをより現実的な報酬として提示できれば、人材採用や人材定着に活用しやすくなります。

一方で、直近の資金調達価格と従業員が実際に売却できる価格が同じとは限りません。普通株と優先株の違い、流動性ディスカウント、権利行使に必要な資金、税負担なども考える必要があります。

会社が上場しなければ従業員も報われないという構造から、会社が未上場でも成長成果の一部を従業員へ還元できる構造へ変わる。

未上場株の2次流通は、スタートアップの資金市場だけでなく、人材市場を変える可能性も持っているのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

タイトルとURLをコピーしました