未上場株の流動性とは何か 企業価値が高くてもすぐ現金化できない理由編

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企業価値1000億円のスタートアップの株式を持っていると聞くと、大きな資産を持っているように感じます。

しかし未上場株では、評価上は数千万円や数億円の価値があっても、必要なときにその金額を現金へ換えられるとは限りません。

ここで重要になるのが流動性です。

流動性とは、資産を大きく値下げすることなく、必要なときにどれだけ容易に現金へ換えられるかを表す考え方です。

上場株なら証券取引所で日々多くの売買が行われています。

一方、未上場株には通常、いつでも売買できる市場がありません。

買い手を探すだけでも時間がかかり、希望する価格では売れないこともあります。

日本で未上場株の2次流通市場を整備する意味を理解するには、この流動性の問題を理解することが重要です。

流動性とは何か

流動性とは、資産を現金へ換えやすい程度を表します。

最も流動性が高い資産は現金です。

100万円の現金なら、そのまま100万円の支払いに利用できます。

普通預金も比較的流動性が高い資産です。

必要になれば預金を引き出したり、振り込んだりできます。

上場株にも比較的高い流動性があります。

証券取引所が開いていれば売却注文を出すことができ、通常は市場で買い手を見つけられます。

これに対して不動産などは流動性が低くなります。

売却しようとしても買い手を探し、価格交渉や契約を行う必要があるからです。

未上場株も流動性の低い資産の代表例です。

上場株はなぜ売りやすいのか

上場株を売りやすくしている最大の理由が証券取引所です。

例えばある上場企業の株式を1000株持っているとします。

株価が一株2000円なら、評価額は200万円です。

売却したければ証券会社を通じて注文を出せます。

その価格で買いたい投資家がいれば取引が成立します。

売り手自身が買い手を一人ずつ探す必要はありません。

証券取引所に多数の投資家の注文が集まっているからです。

さらに市場価格が表示されています。

現在いくらで取引されているのかを売り手と買い手の双方が確認できます。

買い手がいることと価格が見えること。

この二つが上場株の高い流動性を支えています。

未上場株には取引所がない

未上場株では状況が大きく異なります。

証券取引所に上場していないため、売りたいと思っても市場へ売却注文を出すことができません。

まず購入してくれる投資家を探す必要があります。

さらに株価も毎日表示されていません。

売り手は一株1万円が妥当だと考えていても、買い手は一株7000円でなければ購入しないかもしれません。

会社の企業価値や事業計画を確認し、株式の種類や権利内容を調べ、価格交渉を行います。

場合によっては会社側の承認なども必要になります。

売却したいと思った日から実際に現金を受け取るまで長期間かかる可能性があります。

企業価値が高くても売れるとは限らない

流動性を考えるときに重要なのが、企業価値と換金可能性は別だということです。

例えば企業価値1000億円のスタートアップがあるとします。

ある株主が会社の1パーセントに相当する株式を持っていれば、単純計算では1000億円の1パーセントで10億円の価値になります。

しかし、この株主が明日10億円を受け取れるわけではありません。

10億円で株式を購入してくれる投資家を見つける必要があります。

買い手が5億円でしか購入しないと言えば、10億円という評価額があっても現金化できません。

企業価値は評価の数字です。

流動性は、その評価を実際の現金へ変えられるかという問題です。

買い手を探すことが難しい

未上場株の流動性が低い最大の理由の一つが買い手の少なさです。

上場株には個人投資家、投資信託、年金基金、海外投資家など幅広い参加者がいます。

一方、未上場株では誰でも簡単に投資できるわけではありません。

企業情報も上場会社ほど豊富ではありません。

将来IPOできる保証もありません。

購入後に自分自身も売却できなくなる可能性があります。

そのため投資できる投資家は限定されます。

買い手候補が少なければ、売りたい株主がいても取引が成立しにくくなります。

売却価格を下げれば流動性は高まる

価格と流動性には密接な関係があります。

例えばある未上場株について、売り手は一株1万円を希望しているとします。

しかし、その価格では買い手が一人もいません。

一株9000円なら一社が興味を示します。

一株8000円なら5社が購入を検討します。

一株7000円なら10社が購入したいとします。

価格を下げれば買い手が増える可能性があります。

つまり早く売りたいほど、価格を下げなければならない場合があります。

この換金の難しさが未上場株の流動性ディスカウントにもつながります。

売りたい時期と買いたい時期が一致しない

未上場株では、売り手と買い手が存在していてもタイミングが一致しないことがあります。

例えばVCが今年中に保有株式を売却したいとします。

一方、その会社に興味を持っている機関投資家は、来年の事業計画を確認してから投資したいと考えているかもしれません。

上場市場なら別の投資家が取引相手になる可能性があります。

しかし参加者の少ない未上場市場では、数少ない買い手とのタイミングが合わなければ取引できません。

市場参加者の厚みが流動性に大きく影響するのです。

株式譲渡の制限もある

未上場会社では、株式を自由に売却できない場合があります。

多くの会社では株式の譲渡について会社の承認を必要とする仕組みを設けています。

さらにスタートアップでは株主間契約などによって、既存株主が株式を第三者へ売却する場合の手続きを定めていることがあります。

例えば他の株主に先に購入機会を与える先買権などが設定されている場合があります。

売り手と買い手が合意すればすぐ取引できるとは限りません。

こうした契約上や制度上の手続きも流動性に影響します。

VCにとって流動性は特に重要

VCファンドには一定の運用期間があります。

投資先企業が成長して企業価値が上昇していても、ファンドの期限までに株式を売却できなければ資金を回収できません。

例えばVCが1億円で取得した株式が評価上10億円になっていたとします。

大きな投資成果に見えます。

しかし買い手がいなければ10億円を出資者へ返すことはできません。

含み益と実現利益は違います。

VCにとって重要なのは企業価値が上がることだけでなく、その企業価値で株式を売却できる市場が存在することなのです。

従業員にとっても同じ問題がある

ストックオプションを持つ従業員にも流動性の問題があります。

会社が大きく成長し、ストックオプションを行使して取得した株式の評価額が3000万円になったとします。

それでもIPOしていなければ、その3000万円を自由に使えるわけではありません。

住宅購入の頭金にも、教育費にも、そのままでは利用できません。

実際に株式を売却して初めて現金になります。

2次流通市場が整備されれば、従業員がIPO前に株式の一部を現金化できる可能性が生まれます。

流動性の向上はVCだけでなく、従業員の株式報酬の実効性にも関係します。

証券会社が仲介する意味

未上場株専門の証券会社が登場する大きな意味が、買い手と売り手を結び付けることです。

従来、VCが自分で株式の売却先を探そうとすると、接触できる投資家には限界がありました。

証券会社が仲介すれば、機関投資家、事業会社、CVC、クロスオーバー投資家など複数の買い手候補へ取引を紹介できます。

売り手は一社ずつ買い手を探す負担を減らせます。

買い手側も、自分だけでは見つけにくかった未上場企業への投資機会を得られます。

取引相手を探すコストを下げることが、流動性向上につながります。

証券会社は価格形成にも関わる

証券会社の役割は買い手を紹介するだけではありません。

複数の投資家が取引に参加すれば、それぞれが企業価値を評価します。

一社しか買い手がいなければ、一社の提示価格に大きく左右されます。

10社が買い手候補になれば、複数の価格が提示されます。

その中から売り手と買い手が納得できる条件を探せます。

流動性が高まることで価格発見機能も高まるわけです。

そして価格が見えやすくなれば、新しい投資家も参加しやすくなります。

流動性と価格発見は互いに強め合う

未上場株市場では、流動性と価格発見は密接に関係しています。

買い手が増える。

取引が増える。

取引価格の情報が蓄積される。

企業価値を判断しやすくなる。

新しい投資家が参加する。

さらに買い手が増える。

この循環が生まれれば市場は成長します。

反対に取引が少ない市場では価格が分かりません。

価格が分からないため投資家が参加しません。

投資家が参加しないため、さらに取引が少なくなります。

日本の未上場株市場を育てるには、この悪循環を好循環へ変える必要があります。

流動性が高まっても上場株と同じにはならない

ただし、2次流通市場が発達すれば未上場株が上場株と同じようにいつでも売れるようになるとは限りません。

未上場企業は上場企業ほど情報開示が多くありません。

取引できる投資家も限定されます。

株式譲渡の制限が設けられていることもあります。

企業ごとに株式の種類や投資契約も異なります。

したがって未上場株には、上場株とは異なる流動性リスクが残ります。

重要なのは流動性をゼロか百かで考えることではありません。

現在より売却しやすくすることに意味があります。

企業側にも流動性向上のメリットがある

2次流通で株式を売却しても、その売却代金は基本的に既存株主へ支払われます。

会社に直接資金が入るわけではありません。

それでも会社にはメリットがあります。

VCがファンド期限を理由にIPOを急ぐ必要が小さくなります。

従業員が株式報酬を現金化できるようになります。

企業の成長段階に適した新しい機関投資家を株主に迎えることもできます。

株式の流動性は株主だけの問題ではありません。

会社が長期的な成長戦略を選べるかどうかにも関係しているのです。

結論

未上場株の流動性とは、保有している株式を必要なときにどれだけ容易に現金へ換えられるかという問題です。

企業価値が1000億円あっても、その株式を購入する投資家がいなければ株主は現金化できません。

上場株には証券取引所があり、多数の売り手と買い手が参加し、市場価格も常に形成されています。

未上場株には通常そのような市場がないため、買い手探し、企業価値の評価、価格交渉、株式譲渡の手続きなどが必要になります。

そのため早く現金化しようとすると、価格を引き下げなければ買い手が見つからない場合があります。

これが流動性ディスカウントにもつながります。

専門の証券会社が未上場株の売買を仲介する意味は、買い手と売り手を効率的につなぐことにあります。

機関投資家やCVCなど多くの買い手が参加すれば取引が増え、価格情報も蓄積されます。

価格が分かれば、さらに投資家が参加しやすくなります。

企業価値があることと、その価値を現金に変えられることは同じではありません。

未上場株市場を発展させるうえでは、企業を高く評価することだけでなく、必要なときに株主が交代できる流動性をつくることが重要なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

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