VCファンドの償還期限とは何か 成長途中のスタートアップがIPOを急ぐ理由編

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スタートアップは、会社自身が望んでいるタイミングで必ずIPOするとは限りません。

本当はもう数年間研究開発を続けたいのに、上場を急がなければならない場合があります。

その背景の一つに、ベンチャーキャピタルが運営するVCファンドの運用期間があります。

VCがスタートアップへ投資するお金は、VC自身のお金だけとは限りません。金融機関や事業会社、機関投資家などから集めた資金をファンドとして運用し、その資金を複数のスタートアップへ投資します。

しかしVCファンドは永久に続くわけではありません。

一定の運用期間が終われば、投資先企業の株式などを現金化し、ファンドへ出資した投資家へ資金を返す必要があります。

この期限とスタートアップの成長に必要な時間が一致しないことが、日本でIPOを急がせる一因になってきました。

VCファンドとは何か

VCとはベンチャーキャピタルのことです。

将来大きく成長する可能性がある未上場企業へ投資し、企業価値が上昇した後に株式を売却して利益を得ることを目指します。

VCが投資するための資金を集めたものがVCファンドです。

例えば金融機関、事業会社、機関投資家などから合計100億円を集めたとします。

VCはその100億円を一社へすべて投資するのではなく、複数のスタートアップへ分散して投資します。

一社が成功しなかったとしても、別の会社が大きく成長することでファンド全体として収益を上げることを目指します。

VCは単に株式を購入するだけではありません。

経営戦略、人材採用、次回の資金調達、取引先の紹介などを支援しながら投資先企業の成長を後押しすることもあります。

VCファンドには運用期間がある

VCファンドを理解するうえで重要なのが運用期間です。

VCファンドは一般的に一定期間を設定して組成されます。

例えば10年間のファンドであれば、その期間内で投資を行い、最終的には投資先株式などを売却して資金を回収していきます。

新聞記事でも、VCファンドが10年程度の運用期限内に資金を回収する必要があることが、スタートアップに上場をせかす要因になってきたと指摘されています。

ファンドの前半ではスタートアップへの新規投資を進めます。

その後は投資先企業を育てながら、IPOやM&Aなどによる資金回収を進めていきます。

最終的にはファンドを終了し、得られた資金を出資者へ分配します。

なぜ期限を設けるのか

VCファンドへ資金を提供する投資家から考えると、期限が必要な理由が分かります。

例えば機関投資家がVCファンドへ10億円を出資したとします。

その10億円が永久にファンドの中に残ってしまえば、投資家は投資成果を確定できません。

そこでファンドを組成するときに運用期間を定めます。

VCは一定期間スタートアップへ投資し、企業価値を高め、最終的に株式を売却します。

売却によって得た資金を出資者へ返します。

つまりVCはスタートアップを永久保有する株主ではありません。

一定期間後には投資資金を回収することを前提とした株主なのです。

スタートアップの成長には期限がない

ここで問題になるのが、VCファンドの時間と企業成長の時間の違いです。

ファンドには10年などの期限があります。

しかし会社が何年で成長するのかは事前に決められません。

例えばインターネットサービスなら数年間で急成長できる場合があります。

一方、創薬では研究開発、臨床試験、承認などに長い期間が必要です。

宇宙産業でもロケットや人工衛星などの技術開発に長期間を要することがあります。

ディープテック企業では、創業から事業が本格的に収益を生み出すまで10年以上かかることも考えられます。

企業には技術や市場に応じた成長時間があります。

ファンドの期限とは無関係です。

創業からIPOまで10年程度という現実

今回の参考記事では、東証グロース市場へ上場した新興企業について、創業からIPOまでの平均年数は10年程度とされています。

ここでVCファンドの運用期間との関係が問題になります。

例えば創業直後に10年間のVCファンドから出資を受けた会社があるとします。

会社がIPOできる程度まで成長するのに10年かかれば、ちょうどファンドの終了時期と重なります。

VC側では資金回収を急ぐ必要があります。

会社側が本当はあと3年未上場で成長したいと思っていても、VCには待てない事情が生じます。

この時間軸のずれが早期IPOへの圧力につながります。

VCはどうやって投資資金を回収するのか

VCが投資資金を回収することをエグジットと呼びます。

代表的な方法がIPOです。

投資先企業が証券取引所へ上場すれば、それまで売却が難しかった株式を市場で売れるようになります。

もう一つの代表的な方法がM&Aです。

投資先企業が他社に買収されれば、VCは保有株式を買収企業などへ売却して資金を回収できます。

日本では未上場株の2次流通市場が十分に発達していなかったため、VCの出口がIPOやM&Aに集中しやすい構造がありました。

会社が独立したまま成長を続けたい場合、実質的にIPOが重要な出口になっていたのです。

IPOを急ぐと何が起きるのか

IPOそのものが悪いわけではありません。

上場すれば資金調達の選択肢が増え、知名度や信用力が高まるメリットがあります。

問題は企業の成長段階に合わないIPOです。

例えば会社がまだ研究開発中心の段階にあり、安定した収益基盤が完成していないとします。

それでも既存株主の資金回収などを背景にIPOを急げば、上場後に十分な成長を実現できない可能性があります。

市場から期待された成長率を達成できず、株価が低迷することもあります。

上場したものの時価総額が小さいまま成長できない小粒上場や、IPO後に成長が鈍化する上場ゴールという問題にもつながります。

重要なのはIPOの早さではなく、企業が上場企業として成長し続けられる段階まで育っているかです。

ファンドを延長すればよいとは限らない

それならVCファンドの運用期間を延長すればよいと思うかもしれません。

実際にはファンド契約などに基づき一定期間延長できる場合もあります。

しかし無期限に延長できるわけではありません。

ファンドへ資金を提供した投資家にも資金計画があります。

いつ投資資金が戻るのか分からなければ、新しいファンドへの投資もしにくくなります。

またVC自身も次のファンドを組成し、新しいスタートアップへ投資していかなければなりません。

一つの会社のためだけにファンドを長期間存続させることには限界があります。

そこで別の出口が必要になります。

2次流通で何が変わるのか

その新しい出口として期待されるのが未上場株の2次流通です。

例えば10年前に投資したVCのファンド期限が迫っているとします。

投資先企業は順調に成長していますが、会社はあと5年間未上場で事業を拡大したいと考えています。

従来であればIPOを急ぐか、M&Aを検討する必要がありました。

しかし2次流通市場があれば、VCは保有株式を別の投資家へ売却できます。

長期保有を希望する機関投資家やクロスオーバー投資家、事業会社、CVCなどが買い手になります。

会社はIPOしません。

変わるのは株主です。

VCは資金を回収し、会社は未上場のまま成長を続けられます。

投資家をバトンタッチできる

この仕組みは、投資家のバトンタッチと考えると分かりやすいでしょう。

創業直後にはリスクの高い企業へ投資できるVCが必要です。

企業価値が数百億円規模まで成長すれば、より大きな資金を運用する機関投資家が投資できるようになります。

IPOが近づけば、未上場株と上場株の双方へ投資するクロスオーバー投資家も参加できます。

企業が一人の投資家に最後まで支えてもらう必要はありません。

成長段階に応じて株主を交代させればよいのです。

2次流通市場は、この株主交代を可能にする市場です。

VCも長期的な企業へ投資しやすくなる

2次流通市場の存在は、VCの新規投資にも影響します。

例えば投資先企業が創薬会社だったとします。

実用化まで15年かかる可能性がある一方、自分たちのファンド期間は10年です。

IPOやM&Aしか出口がなければ、投資する段階から期限の問題を考えなければなりません。

しかし10年後に別の長期投資家へ株式を売却できる市場があれば、投資判断は変わります。

自分たちが会社の最終的な成長まで保有し続ける必要がないからです。

出口が増えることで、時間のかかるディープテックなどにも資金が流れやすくなる可能性があります。

資金が次のスタートアップへ循環する

VCの資金回収は、単にVCが利益を得るためだけに必要なのではありません。

回収された資金はVCファンドの出資者へ戻ります。

そこで十分な投資成果が得られれば、投資家は次のVCファンドにも資金を提供しやすくなります。

新しいファンドが組成されれば、その資金が次世代のスタートアップへ投資されます。

投資。

成長。

売却。

資金回収。

次の投資。

この循環がスタートアップ市場には必要です。

エグジットが難しい市場では資金が途中で止まってしまいます。

2次流通は資金循環を速める役割も持つのです。

企業の時間とファンドの時間を分ける

VCファンドの償還期限問題の本質は、会社と投資家の時間軸が違うことにあります。

会社は事業が完成するまで成長を続けたい。

VCはファンドの期限までに資金を回収したい。

どちらが間違っているわけでもありません。

これまでは両者をIPOという一つのイベントで解決しようとしていました。

そのためVCの期限が企業のIPO時期に影響しやすくなっていました。

2次流通市場が発達すれば、この二つを切り離すことができます。

会社は会社にとって最適な時間軸で成長する。

VCはVCにとって必要な時期に株式を売却する。

その間を別の投資家がつなぐのです。

結論

VCファンドの償還期限とは、VCがスタートアップへ投資した資金を一定期間内に回収し、ファンドへ出資した投資家へ返していく必要があることを意味します。

VCファンドには一般的に一定の運用期間があり、新聞記事でも10年程度の運用期限がスタートアップのIPOを急がせる一因として指摘されています。

一方、企業の成長に必要な時間は10年と決まっているわけではありません。

特に宇宙や創薬などのディープテックでは、研究開発から事業化まで長期間を必要とします。

ここにVCファンドの時間と企業成長の時間のずれが生まれます。

従来の日本ではVCが資金を回収する方法がIPOやM&Aに偏っていたため、ファンドの期限が迫ると企業がIPOを急ぐ構造が生まれやすくなっていました。

未上場株の2次流通市場が発達すれば、この関係を変えることができます。

VCは保有株式を機関投資家やクロスオーバー投資家などへ売却して資金を回収できます。

会社はIPOする必要がなく、未上場のまま成長を続けられます。

投資家には期限があります。

しかし企業の成長には同じ期限を設ける必要はありません。

投資家を途中でバトンタッチできる市場をつくることで、ファンドの時間と企業の時間を切り離す。

それが未上場株の2次流通市場が日本のスタートアップに与える重要な変化なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株、初の売買仲介 専業証券が年内に事業開始

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株式の売買 流動性乏しく小粒上場招く

日本経済新聞 2026年8月22日朝刊 未上場株の2次流通、買い手広がる フェアな価格形成課題

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