会社が成長するためには、設備投資が必要になることがあります。
新しい製造設備を導入する。
店舗を改装する。
生産能力を増強する。
老朽化した設備を更新する。
こうした投資にはまとまった資金が必要になるため、銀行融資を利用する企業も少なくありません。
しかし、金融機関が確認するのは「設備がいくらするのか」だけではありません。
その設備を導入することで事業がどう変わり、売上や利益、将来キャッシュフローにどのような効果が生まれるのか。
事業性評価では、この投資効果を説明することが重要になります。
設備の価格と設備の価値は同じではない
たとえば、5,000万円の設備を購入するとします。
見積書を提出すれば、5,000万円という購入価格は確認できます。
しかし、それだけでは金融機関が知りたいことの一部しか説明していません。
金融機関にとって重要なのは、その5,000万円の設備が会社の事業にどのような効果をもたらすのかという点です。
設備導入によって生産能力が増えるのか。
生産効率が改善するのか。
新しい製品を作れるようになるのか。
これまで断っていた注文を受けられるようになるのか。
そして、それが売上や利益にどうつながるのか。
設備そのものの価格ではなく、設備が生み出す事業上の価値を説明する必要があります。
なぜ今その設備が必要なのか
設備投資を説明するときには、まず投資の必要性を整理します。
単に「設備が古くなったから」では、投資の背景が十分に伝わらない場合があります。
たとえば現在の設備では生産能力が限界に近づき、受注を増やせない状況にあるのかもしれません。
設備の老朽化によって修繕費が増えている場合もあります。
新しい顧客からの注文に対応するため、これまでとは異なる設備が必要になるケースもあるでしょう。
重要なのは、現在の事業上の課題と設備投資を結びつけることです。
何が問題になっていて、その問題を解決するためになぜこの設備が必要なのか。
ここが設備投資の説明の出発点になります。
投資前と投資後を比較する
設備投資の効果を説明する方法の1つが、投資前と投資後を比較することです。
現在の生産能力はどの程度なのか。
設備導入後にはどう変わるのか。
現在どの程度の受注に対応しているのか。
導入後にはどこまで対応できるのか。
売上はどう変わるのか。
利益はどう変わるのか。
こうした変化を整理すると、設備投資の意味が見えやすくなります。
「最新設備を導入します」という説明ではなく、「この設備によって事業がこのように変化します」という説明にすることが重要です。
売上増加だけでは投資効果にならない
設備投資の効果として、
「売上が年間5,000万円増える予定です」
と説明したとします。
これは重要な情報ですが、金融機関が確認したいのは売上だけではありません。
売上が増えれば、材料費や仕入費用なども増える可能性があります。
人員を増やす必要があるかもしれません。
設備を取得すれば減価償却費も発生します。
したがって、売上増加額だけでなく、その結果として利益がどの程度増えるのかを見る必要があります。
資料でも、将来キャッシュフローを説明するために、売上、粗利、営業利益、減価償却費などを整理することが示されています。
設備投資では「いくら売れるか」と同時に、「いくら利益が残るか」を考えることが重要です。
最終的にはキャッシュフローを見る
融資で設備投資を行う場合、最終的に重要になるのは返済可能性です。
そのため、投資効果は将来キャッシュフローまでつなげて考える必要があります。
設備を導入する。
生産能力が増える。
受注が増える。
売上が増える。
利益が増える。
キャッシュフローが増える。
そのキャッシュフローから借入金を返済する。
この流れが説明できれば、金融機関は設備投資と返済原資との関係を理解しやすくなります。
事業性評価では、過去の決算書だけでなく、将来どの程度のキャッシュフローを生み出せるのかという視点が重要です。
売上が増えると運転資金も増えることがある
設備投資によって売上が増える場合には、もう1つ考えておきたいことがあります。
運転資金です。
設備を導入して生産量が増えれば、原材料や商品の仕入れが増える可能性があります。
在庫も増えるかもしれません。
売上が増えれば売掛金も増えることがあります。
売上代金を回収する前に仕入代金を支払うのであれば、その間の資金が必要です。
資料では、将来キャッシュフローを考える際に、在庫回転期間、売掛金回収期間、買掛金支払期間などを確認することが示されています。
設備代金だけを調達して安心していると、設備稼働後に運転資金が不足する可能性があります。
設備投資と運転資金は一緒に考える必要があるのです。
受注の裏付けも重要になる
設備を導入すれば自動的に売上が増えるわけではありません。
そこで重要になるのが、売上計画の根拠です。
既存顧客から受注増加の見込みがあるのか。
すでに新規の引き合いがあるのか。
現在は生産能力不足によって断っている注文があるのか。
新しい設備によって対応可能になる市場があるのか。
資料では、将来性を金融機関に説明する情報として、受注状況、顧客別売上、商品別利益などを整理することが示されています。
設備の性能だけではなく、その設備を使って実際に何を売るのかという視点が欠かせません。
自社の強みと設備投資を結びつける
企業価値を高める設備投資を考える場合には、自社の強みとの関係も重要です。
独自技術を持っている会社であれば、その技術と新しい設備を組み合わせることで何が可能になるのかを説明できます。
顧客基盤が強い会社なら、その顧客からの需要に設備投資によってどう対応できるのかを示せます。
ノウハウが競争力になっている会社なら、新設備によってそのノウハウをさらに生かせる可能性があります。
企業価値担保権では、設備だけを単独で評価するのではなく、顧客基盤、知的財産、ブランド、ノウハウなどを含めた事業全体の価値を捉えます。
したがって設備投資も、会社がすでに持っている強みと組み合わせて考えることが重要です。
借入によって企業価値がどう高まるのか
資料の実践チェックリストでは、資金使途だけでなく、投資効果についても確認することが示されています。
借入によって企業価値や担保余力がどのように高まるのかを説明できるかという視点です。
これは企業価値担保権を考えるうえで特に重要になります。
たとえば設備投資によって新しい顧客を獲得できれば、顧客基盤が広がる可能性があります。
新しい製品を作れるようになれば、収益源が増えるかもしれません。
生産効率が改善すれば、収益力が高まる可能性があります。
つまり、設備投資の効果は購入した機械そのものの価値だけではありません。
その設備によって事業全体の価値がどう変わるのかまで考える必要があります。
投資後の実績確認までが設備投資
設備を購入して稼働を開始すれば、投資計画が終了するわけではありません。
当初想定した効果が実際に出ているかを確認する必要があります。
受注は計画どおり増えたのか。
売上は増えたのか。
利益率はどうなったのか。
資金繰りはどう変化したのか。
事業計画と実績に差があるのであれば、その原因は何なのか。
資料では、金融機関は融資後も事業計画と実績との差異、主要KPI、資金繰りなどを継続的に確認するとされています。
企業側も月次で実績を確認し、必要に応じて対応策を講じることが重要です。
計画未達なら理由を説明する
設備投資では、当初の計画どおりに進まないこともあります。
設備の稼働開始が遅れる。
受注が予定ほど増えない。
原材料価格が上昇する。
利益率が計画を下回る。
こうしたことは起こり得ます。
重要なのは、計画から外れたことを隠すことではありません。
なぜ差が生じたのかを把握し、今後どのように対応するのかを金融機関に説明することです。
事業性評価では、計画を作成したことだけではなく、計画と実績を継続的に管理する体制も重視されます。
設備投資についても、投資後のPDCAまで含めて考える必要があります。
経理担当者は投資効果を数字にする
設備投資では、経営者や現場だけでなく経理担当者の役割も重要です。
現場は、新しい設備によって何ができるようになるのかを理解しています。
経営者は、その設備を使ってどのように事業を成長させるかを考えます。
経理担当者は、それを数字に変換します。
投資額はいくらなのか。
売上はいくら増えるのか。
粗利や営業利益はどう変わるのか。
減価償却費はいくら増えるのか。
運転資金はいくら必要になるのか。
キャッシュフローはどう変化するのか。
そして借入金をどのように返済するのか。
この一連の数字を整理することで、設備投資を金融機関が評価できる事業計画に変えることができます。
結論
設備投資の融資で金融機関が確認するのは、設備の価格だけではありません。
なぜその設備が必要なのか。
設備を導入すると何が変わるのか。
売上はいくら増えるのか。
利益はいくら増えるのか。
運転資金はいくら必要になるのか。
将来キャッシュフローはどう変わるのか。
そして借入金をどのように返済するのか。
これらを一連の流れとして説明することが重要です。
さらに企業価値担保権では、その投資によって顧客基盤や収益力などを含む事業全体の価値がどう高まるのかという視点も重要になります。
設備投資で問われるのは、「5,000万円の機械を買う価値があるか」だけではありません。
「5,000万円を投じることで、この会社の事業価値がどう変わるのか」です。
設備の価格を説明するだけの融資交渉から、設備が生み出す未来を数字で説明する融資交渉へ。
それが、事業性評価の時代に求められる設備投資の考え方なのです。
参考
企業実務 2026年10月号 金融機関はあなたの会社をこう見ている「事業性評価」の本音と建前