人生100年時代を迎え、70代まで働き続けることが珍しくなくなっています。
かつては60歳で定年退職し、その後は年金と退職金を活用しながら余生を楽しむという人生設計が一般的でした。しかし、平均寿命が延び、物価上昇が続く現在、70代になっても収入を確保することの重要性が高まっています。
一方、70代になっても現役時代と同じように週5日働き続けることが、本当に理想的なのでしょうか。
2026年10月11日付の日本経済新聞では、作家の林真理子氏が70代の生き方について語り、働くことによって社会とのつながりを維持する重要性を指摘しています。
しかし、仕事に多くの時間を費やしすぎれば、趣味や旅行、家族との交流など、人生後半だからこそ楽しめる時間が失われる可能性もあります。
そこで注目したいのが、週3日程度働きながら、残りの時間を自由に使うという働き方です。
週3日勤務であれば、一定の収入を確保しながら、健康管理や趣味、社会参加の時間も確保しやすくなります。
ただし、週3日勤務がすべての人に適しているわけではありません。
収入水準、仕事内容、健康状態、年金受給額、家族構成などによって、理想的な働き方は異なります。
今回は、70代における週5日、週3日、週1日の働き方を比較し、収入と自由時間を両立するための具体的な方法について考えてみます。
70代の働き方は収入だけで決める時代ではない
現役時代の働き方では、給与収入を確保することが重要な目的になります。
住宅ローンの返済や子どもの教育費、生活費などを賄うためには、一定の収入が必要だからです。
そのため、週5日勤務を基本として、長時間働くことが一般的でした。
しかし、70代になると生活環境が変化します。
住宅ローンの返済が終わり、子どもが独立している場合には、現役時代ほど多くの生活費を必要としないこともあります。
また、公的年金を受給できるため、給与収入だけで生活費のすべてを賄う必要がない人もいます。
例えば、夫婦の公的年金収入が年間300万円、生活費が年間360万円の場合を考えます。
この場合、年間60万円の不足額を補うことができれば、金融資産を取り崩さずに生活できる計算です。
毎月5万円の手取り収入を確保できれば、年間60万円になります。
もちろん、税金や社会保険料、医療費、介護費などを考慮する必要がありますが、現役時代と同じ年収を目指す必要はないかもしれません。
重要なのは、必要な生活費と年金収入を把握したうえで、不足する金額をどのように補うかを考えることです。
70代の働き方では、年収を最大化することよりも、収入と自由時間のバランスを重視することが重要になります。
週5日勤務は収入面で有利だが自由時間が少ない
まず、70代になっても週5日働く場合を考えてみます。
例えば、1日8時間、週5日勤務であれば、週40時間の労働になります。
年間50週間働くと仮定すれば、年間労働時間は2,000時間です。
時給2,000円の場合、年間給与収入は400万円になります。
時給3,000円であれば、年間600万円です。
このように、週5日勤務は一定の収入を確保しやすい働き方です。
また、職場での役割が明確で、同僚や顧客との交流が継続するというメリットもあります。
一方、70代では体力や健康状態に個人差が大きくなります。
毎日決まった時間に出勤することが負担になる人もいるでしょう。
通勤時間が長い場合には、実際に仕事へ費やす時間がさらに増えます。
例えば、往復2時間の通勤が必要であれば、週5日勤務では通勤だけで週10時間になります。
年間50週間では500時間です。
労働時間と通勤時間を合わせると、年間2,500時間を仕事に費やす計算になります。
これでは、趣味や旅行、家族との交流に十分な時間を確保することが難しくなる場合があります。
70代で週5日働くことが悪いわけではありません。
仕事そのものが生きがいであり、健康状態にも問題がなければ、十分に合理的な選択です。
ただし、収入の多さだけでなく、仕事に費やす時間と生活の充実度を比較する必要があります。
週3日勤務は収入と自由時間のバランスを取りやすい
次に、週3日勤務の場合を考えてみます。
例えば、1日6時間、週3日勤務であれば、週18時間の労働になります。
年間50週間働くと仮定すれば、年間労働時間は900時間です。
時給2,000円の場合、年間給与収入は180万円になります。
時給3,000円であれば、年間270万円です。
週5日勤務と比較すると収入は減少しますが、自由時間は大幅に増加します。
週3日勤務であれば、平日に4日間の自由時間を確保できます。
その時間を健康管理や趣味、家族との交流、地域活動などに充てることができます。
例えば、月曜日、水曜日、金曜日に働き、火曜日と木曜日は自由時間とする方法があります。
週末も含めれば、仕事と余暇を交互に組み合わせる生活が可能です。
また、仕事のない日に十分な休息を取ることで、体力的な負担を抑えられる場合があります。
ただし、週3日勤務であっても、仕事内容によっては負担が大きくなることがあります。
特に、責任の重い管理職や顧客対応業務では、勤務日以外にも連絡や判断を求められる可能性があります。
そのため、週3日勤務を実現するには、勤務日数だけでなく、業務範囲や責任の所在を明確にすることが重要です。
週1日勤務でも社会とのつながりは維持できる
70代後半や80代に近づくと、週3日勤務でも負担を感じる場合があります。
そのような場合には、週1日勤務という選択肢もあります。
例えば、1日6時間、週1日勤務であれば、年間50週間で300時間の労働になります。
時給3,000円の場合、年間給与収入は90万円です。
収入面では週3日勤務より少なくなりますが、仕事を通じて社会とのつながりを維持することができます。
また、専門知識や経験を必要とする仕事であれば、短時間でも価値を提供できる可能性があります。
例えば、企業の顧問として月に数回相談に応じる方法があります。
オンライン講師として月に数回講義を行うことも考えられます。
また、専門分野の記事執筆や資料作成など、自分のペースで進められる仕事もあります。
ただし、短時間で高い収入を得るためには、専門性や顧客からの信頼が必要です。
誰もが簡単に実現できるわけではありません。
週1日勤務の大きな価値は、収入そのものよりも、社会との接点や役割を維持できることにあります。
70代後半以降は、仕事の量を減らしながら、社会参加を継続するという考え方も重要になるでしょう。
週5日と週3日と週1日の収入差を比較する
ここで、3つの働き方を同じ条件で比較してみます。
時給3,000円、年間50週間勤務と仮定します。
週5日勤務は1日8時間、週3日勤務と週1日勤務は1日6時間とします。
この場合、週5日勤務では年間2,000時間働き、年間給与収入は600万円になります。
週3日勤務では年間900時間働き、年間給与収入は270万円です。
週1日勤務では年間300時間働き、年間給与収入は90万円になります。
週5日勤務と週3日勤務では、年間給与収入に330万円の差が生じます。
一方、労働時間は年間1,100時間減少します。
つまり、週3日勤務を選択することで、年間1,100時間を自由に使えることになります。
この時間を旅行や趣味、健康管理、家族との交流などに充てることができます。
ただし、給与収入の差額330万円が、そのまま手取り収入の差額になるわけではありません。
所得税や住民税、社会保険料の負担が異なるためです。
また、年金受給者の場合には、在職老齢年金による支給停止が生じる可能性もあります。
そのため、働き方を比較する際には、給与の額面だけでなく、年金を含めた可処分所得を確認する必要があります。
70代の仕事は時間単価を高めることが重要
70代まで働くことを考える場合、労働時間を増やすだけで収入を確保する方法には限界があります。
体力や健康状態を考慮すると、現役時代と同じように長時間働き続けることが難しくなる場合があるからです。
そこで重要になるのが、時間当たりの収入を高めるという考え方です。
例えば、時給1,500円で年間300万円を稼ぐためには、2,000時間の労働が必要になります。
一方、時給5,000円であれば、600時間の労働で年間300万円になります。
年間600時間であれば、年間50週間として週12時間です。
このように、時間単価を高めることができれば、少ない労働時間でも一定の収入を確保できます。
ただし、高い時間単価を実現するためには、顧客が対価を支払うだけの価値を提供する必要があります。
長年の経験や専門知識を持つ人であれば、その能力を生かせる可能性があります。
例えば、経理、財務、金融、人事、法務などの専門分野では、実務経験に基づいた助言が求められる場合があります。
ただし、資格が必要な独占業務については、法律上の業務範囲を守る必要があります。
また、専門家としての相談業務では、相談時間だけでなく、資料の確認や調査、回答作成などにも時間が必要です。
そのため、相談料金を単純に相談時間で割った金額が、実際の時間当たり収入になるわけではありません。
業務全体に必要な時間を把握したうえで、適切な料金体系を設計することが重要です。
オンライン業務は70代の働き方と相性がよい
70代の働き方を考えるうえで、オンライン業務の活用は有力な選択肢です。
例えば、顧客との連絡をメール中心にし、必要に応じてオンライン会議を利用する方法があります。
このような働き方であれば、通勤時間や移動費を抑えることができます。
また、自宅を拠点として仕事を進められるため、体力的な負担も比較的小さくなります。
例えば、週3日勤務であっても、毎回往復2時間の通勤が必要であれば、週6時間を移動に費やすことになります。
年間50週間では300時間です。
オンライン業務に移行できれば、この移動時間を削減できる可能性があります。
さらに、資料の作成や顧客との情報共有にクラウドサービスを活用すれば、業務の効率化も期待できます。
生成AIを利用して文章の下書きや資料の整理を支援する方法も考えられます。
ただし、生成AIの回答には誤りが含まれる可能性があるため、専門家として提供する情報については必ず確認する必要があります。
また、顧客情報や機密情報を取り扱う場合には、情報セキュリティーへの配慮が欠かせません。
オンライン業務は便利ですが、すべての仕事に適しているわけではありません。
仕事内容や顧客の希望に応じて、対面とオンラインを適切に使い分けることが重要です。
年金を受給しながら働く場合は手取り収入で判断する
70代の働き方を考える際には、公的年金との関係も重要です。
2026年4月から、在職老齢年金の支給停止調整額は月額65万円に引き上げられました。
在職老齢年金は、老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が一定額を超えた場合に、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止される制度です。
この制度では、老齢基礎年金は支給停止の対象になりません。
また、70歳以降は原則として厚生年金の被保険者ではなくなりますが、一定の要件を満たす70歳以上被用者については、在職老齢年金による支給調整が行われます。
例えば、週5日勤務で高額な給与収入を得る場合には、老齢厚生年金の一部が支給停止される可能性があります。
一方、週3日勤務に変更することで給与収入が減少し、年金の支給停止額が小さくなる場合もあります。
ただし、年金の支給停止がなくなることだけを目的として勤務時間を減らすことが、必ずしも有利とは限りません。
給与収入の減少額と年金支給額の増加額を比較する必要があります。
さらに、所得税や住民税、社会保険料の負担も考慮しなければなりません。
70代の働き方は、給与収入だけでなく、年金を含めた世帯全体の手取り収入で判断することが重要です。
週3日勤務でも社会保険の加入対象になる場合がある
週3日勤務を選択する場合には、社会保険の加入条件にも注意が必要です。
勤務日数が少ないからといって、必ずしも社会保険の加入対象外になるわけではありません。
70歳未満で厚生年金の適用事業所に勤務する場合、労働時間や勤務日数などによっては厚生年金への加入が必要になります。
また、短時間労働者についても、企業規模や週の所定労働時間など、一定の要件を満たす場合には社会保険の加入対象となります。
ただし、70歳以降は原則として厚生年金の被保険者資格を喪失します。
一方、健康保険については、原則75歳になるまで、加入要件を満たす場合に被保険者となることがあります。
75歳になると、原則として後期高齢者医療制度へ移行します。
このように、70代の社会保険制度は年齢によって取り扱いが異なります。
そのため、週3日勤務に変更する際には、給与収入だけでなく、健康保険料や医療保険制度への影響も確認する必要があります。
特に、74歳から75歳になる時期には、医療保険制度が変わるため、家計への影響を把握しておくことが重要です。
仕事を減らして得られる自由時間にも価値がある
70代の働き方では、収入だけでなく、自由時間の価値を考える必要があります。
例えば、週5日勤務から週3日勤務に変更することで、年間1,100時間の自由時間が増えるとします。
この時間をどのように使うかによって、人生の充実度は大きく変わるでしょう。
健康維持のために運動する時間を増やすことができます。
夫婦で旅行を楽しむこともできます。
友人との交流や趣味、地域活動に参加する時間も確保できます。
また、新しい知識を学び、資格取得や創作活動に挑戦することも考えられます。
70代では、時間をお金に換えることだけでなく、お金を使って時間を豊かにすることも重要になります。
ただし、自由時間が増えれば自動的に生活が充実するわけではありません。
仕事を減らした結果、生活の目的を失い、孤独を感じる人もいるかもしれません。
そのため、勤務日数を減らす際には、増えた自由時間をどのように使うかを考えておくことが大切です。
仕事と余暇を組み合わせることで、生活に適度な緊張感と楽しみを持たせることができます。
70代前半と後半では理想の働き方が変わる
70代といっても、70歳と79歳では健康状態や体力に違いが生じる場合があります。
そのため、70代全体を同じ働き方で考えることは適切ではありません。
例えば、70歳から74歳までは週3日勤務を基本とし、75歳以降は週2日勤務に減らす方法があります。
さらに、78歳以降は週1日程度の相談業務や執筆活動を中心にすることも考えられます。
もちろん、これは一つのモデルケースにすぎません。
健康状態が良好で、仕事に強いやりがいを感じている人であれば、80歳近くまで週5日働くこともあるでしょう。
一方、70歳前半でも健康上の理由から仕事を減らす必要がある人もいます。
重要なのは、年齢だけで勤務日数を決めるのではなく、健康状態や生活環境に応じて柔軟に変更することです。
また、配偶者や家族の介護が必要になった場合には、働き方を見直す必要が生じることもあります。
そのため、70代の仕事では、勤務日数を減らしたり、仕事を終了したりできる仕組みを整えておくことが望ましいでしょう。
65歳から70歳までに働き方を変える準備をする
70代で週3日勤務を実現するためには、65歳から70歳までの準備が重要になります。
例えば、65歳まで週5日勤務を続け、その後すぐに週3日勤務へ移行できるとは限りません。
勤務先の制度や仕事内容によっては、短時間勤務が認められない場合もあります。
そのため、現役時代から将来の働き方について考えておく必要があります。
企業に勤務し続ける場合には、再雇用制度や短時間勤務制度を確認することが重要です。
一方、独立して仕事をする場合には、少ない業務量でも一定の収入を確保できる仕組みを構築する必要があります。
例えば、専門分野の知識を整理し、顧客に提供できるサービスを明確にすることが考えられます。
また、単発の仕事だけでなく、継続的な契約を確保することで、収入の安定化を図る方法もあります。
ただし、顧客数を増やしすぎると、週3日勤務のつもりでも、実際には毎日問い合わせに対応することになりかねません。
そのため、契約時に業務範囲や対応時間、回答期限などを明確にしておくことが重要です。
70代で自由時間を確保するためには、65歳から仕事の量を自分で調整できる環境を整えておくことが大切です。
結論
人生100年時代において、70代まで働き続けることは、経済的な安心と社会とのつながりを維持するための重要な選択肢です。
しかし、70代になっても現役時代と同じように週5日働き続けることが、すべての人にとって理想的とは限りません。
週5日勤務は収入面で有利ですが、仕事に費やす時間が長くなり、趣味や家族との交流に使える時間が少なくなる可能性があります。
一方、週3日勤務であれば、一定の収入を確保しながら、自由時間を増やすことができます。
さらに、週1日勤務であっても、専門知識や経験を生かすことで、社会とのつながりを維持することが可能です。
ただし、理想的な勤務日数は、収入水準、健康状態、年金受給額、家族構成などによって異なります。
重要なのは、何日働くかという形式ではなく、どの程度の収入が必要で、どのような生活を送りたいのかを明確にすることです。
例えば、公的年金だけで生活費の大部分を賄える人であれば、週1日から週3日程度の仕事でも十分かもしれません。
一方、老後資金に不安がある人は、健康状態が許す範囲で、より多く働くことが必要になる場合もあります。
また、70代の仕事では、労働時間を増やすことよりも、専門性を高めて時間当たりの収入を確保することが重要になります。
オンライン業務や相談業務などを活用すれば、移動時間や体力的な負担を抑えながら働ける可能性があります。
そして、70代前半と後半では、働き方を柔軟に変えていくことも必要です。
70歳から74歳までは週3日、75歳以降は週2日、80歳に近づいたら週1日というように、健康状態や生活環境に応じて仕事を減らしていく方法も考えられます。
人生100年時代の理想は、できるだけ長時間働くことではありません。
仕事を通じて社会に貢献しながら、自分自身の人生を楽しむ時間も確保することです。
週3日勤務は、その両立を実現するための有力な選択肢の一つといえるでしょう。
70代の働き方で本当に重要なのは、収入の多さだけではなく、仕事と自由時間の両方に満足できる生活を実現することではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月11日付 「70代こそ働くのをやめるな 作家・林真理子氏『卒婚も選択肢に』」
内閣府 令和6年度高齢者の経済生活に関する調査
厚生労働省 高年齢者雇用安定法の概要
日本年金機構 在職老齢年金制度
日本年金機構 厚生年金保険の適用と70歳以上被用者に関する制度資料