米国株を日本の昼間も売買できる時代へ 23時間取引が変える日本人の投資行動

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米国株といえば、日本の投資家にとって「夜に取引するもの」というイメージがありました。

ニューヨーク証券取引所やナスダックの通常取引時間は日本の夜間に当たるため、米国株をリアルタイムで売買しようとすると、どうしても生活時間とのずれが生じます。

ところが、この常識が大きく変わろうとしています。

米国市場では2026年12月から取引時間が大幅に延長され、実質的な23時間取引が始まる予定です。日本の大手ネット証券もこれに対応し、日本時間の昼間に米国株をリアルタイムで売買できる環境を整えようとしています。

単に米国株を売買できる時間が長くなるだけの話ではありません。

日本株と米国株を同じ時間帯に比較して資金を動かせるようになることで、日本の個人投資家の投資行動そのものが変わる可能性があります。

米国株の23時間取引とは何か

現在、ニューヨーク証券取引所やナスダックの通常取引時間は、米東部時間の午前9時30分から午後4時までです。

これに通常取引前後の時間外取引を加えると、実質的には16時間程度の取引が可能になっています。

2026年12月6日から予定されている取引時間の延長では、夜間の取引時間がさらに拡大されます。

1日1時間程度のメンテナンス時間を除き、ほぼ一日中売買できる23時間取引となります。

この意味は、日本の投資家にとって非常に大きなものです。

これまで日本の昼間は米国株の主要な取引時間ではありませんでした。

23時間取引が実現すれば、東京証券取引所で日本株が取引されている時間帯にも、米国株をリアルタイムで売買できるようになります。

つまり、

日本株は昼間

米国株は夜間

という時間による市場のすみ分けが崩れていくことになります。

ネット証券が一斉に対応する理由

日本のネット証券各社も対応を急いでいます。

SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券は、取引時間延長の初日から対応する方針とされています。

三菱UFJeスマート証券も、需要を確認しながら段階的に対応する方向で検討しています。

さらにPayPay証券は、もともと米国株を原則24時間取引できるサービスを提供しており、システム改修によって新しい取引環境にも対応する予定です。

ネット証券が積極的なのは、米国株への個人投資家の関心が急速に高まっているからです。

新NISAの普及もあり、S&P500や全世界株式など海外株式を組み入れた投資信託を通じて、海外企業へ投資することは珍しくなくなりました。

財務省によると、投資信託を経由した海外株の売買代金は2025年に77兆円となり、5年前の約2倍に増えています。

投資信託から海外投資を始め、その先で米国の個別株へ関心を広げる投資家も増えていくと考えられます。

日本株と米国株を同時に比較できるようになる

23時間取引の最大の変化は、取引時間そのものよりも「比較」が容易になることかもしれません。

例えば日本時間の午前10時。

これまでは東京証券取引所で日本株を売買する時間でした。

ところが23時間取引が普及すると、同じ時間帯に米国株もリアルタイムで売買できます。

投資家は、

日本の半導体株

米国の半導体株

日本のIT企業

米国の巨大テック企業

などを同じ時間帯に比較できるようになります。

投資家からすれば、投資対象を「日本株の中から選ぶ」必要がなくなります。

世界の企業の中から最も魅力的だと思う企業を選ぶという発想が、これまで以上に広がる可能性があります。

日本株にとっては厳しい競争になる

この変化は、日本企業にとって必ずしも歓迎できるものではありません。

日本株は米国株と投資資金を直接奪い合うことになるからです。

特に若い世代ほど、この傾向が強くなる可能性があります。

スマートフォンで証券口座を開き、新NISAを利用してS&P500などに投資してきた世代にとって、米国企業への投資にはそれほど心理的な抵抗がありません。

楽天証券の楠雄治社長も、23時間取引が始まれば、日本株を取引していた若年層の一定数が米国株に流れる可能性を指摘しています。

日本企業だから投資するのではなく、

成長率

収益力

株主還元

経営戦略

将来性

などを比較し、魅力的な企業へ資金を振り向ける。

こうした企業選別が国境を越えて進むことになります。

日本株の100株単位という問題

日本市場には、もう一つ大きな課題があります。

売買単位です。

米国株は基本的に1株単位で購入できます。

例えば株価が100ドルなら、100ドル程度から投資できます。

一方、日本株は100株単位での売買が基本です。

株価が5000円なら、最低投資金額は50万円になります。

もちろん単元未満株サービスも普及していますが、取引所における基本的な売買単位は依然として100株です。

世界中の企業をスマートフォンから簡単に比較できる時代に、数十万円単位の資金を必要とする日本株の仕組みが個人投資家にとって魅力的なのかという問題が、改めて問われることになります。

取引時間の差も大きい

取引時間についても、日本市場と米国市場との差は大きくなります。

東京証券取引所の現物株の取引時間は1日5時間30分です。

これに対して米国市場が23時間取引へ移行すれば、その差は圧倒的です。

もちろん取引時間が長ければ市場として優れているという単純な話ではありません。

長時間取引にはシステムコストや市場監視の負担が伴います。

それでも世界の投資家がほぼ一日中米国株を売買できるようになれば、市場としての利便性の差は無視できなくなります。

日本市場も取引時間や売買単位などについて、さらなる改革を迫られる可能性があります。

23時間取引には注意点もある

もっとも、取引できる時間が長くなることを、そのまま投資家のメリットと考えるべきではありません。

最大の問題は流動性です。

通常の取引時間には世界中から大量の売買注文が集まります。

ところが夜間など参加者が少ない時間帯では、売買注文が少なくなる可能性があります。

その結果、

売値と買値の差が広がる

少ない注文で株価が大きく動く

希望する価格で売買しにくくなる

といった問題が起こりやすくなります。

23時間「売買できる」ことと、23時間「同じ条件で売買できる」ことは別です。

個人投資家はこの違いを理解しておく必要があります。

いつでも取引できることが投資家を幸せにするとは限らない

もう一つ考えておきたいのが、投資家自身の行動です。

株式をほぼ一日中売買できるようになると、ニュースが出るたびに株価を確認し、頻繁に売買する誘惑も強くなります。

しかし長期投資では、売買回数を増やすことが必ずしも収益向上につながるわけではありません。

新NISAを利用して長期的な資産形成を目指す投資家であれば、23時間取引が始まったからといって投資方法まで変える必要はありません。

むしろ重要なのは、

いつでも売買できる

ことではなく、

必要なときに適切な価格で売買できる

市場になることです。

利便性向上と短期売買の増加は分けて考える必要があります。

日本の資本市場にも影響する

今回の変化は証券会社だけの問題でもありません。

日本の資本市場全体に関わる問題です。

政府は「資産運用立国」を掲げ、家計の預貯金を投資へ振り向けようとしています。

しかし投資へ向かった資金が日本企業ではなく海外企業へ流れる可能性もあります。

投資家に国内企業への投資を強制することはできません。

だからこそ重要になるのは、日本株そのものを魅力的にすることです。

企業の収益力を高める。

資本効率を改善する。

株主還元を充実させる。

成長分野への投資を増やす。

さらに取引制度についても国際競争力を高める。

資産運用立国を実現するには、投資する側の制度だけでなく、投資される側である日本企業と日本市場の改革も必要になります。

市場そのものが国境を越えて競争する時代へ

かつて株式市場は国ごとにかなり分断されていました。

日本人は東京市場が開いている昼間に日本株を売買し、米国株はニューヨーク市場が開く夜間に売買する。

時間帯そのものが市場を分けていました。

23時間取引は、この境界線を薄くします。

東京市場が開いている時間に、

トヨタを買うのか。

ソニーグループを買うのか。

米国の巨大テック企業を買うのか。

世界の企業が同じスマートフォンの画面上で比較されるようになります。

これは企業だけの競争ではありません。

証券取引所そのものの競争でもあります。

投資家にとって使いやすい市場はどこなのか。

資金を集めやすい市場はどこなのか。

企業が上場したい市場はどこなのか。

米国株の23時間取引は、日本市場にもこうした問いを突きつけることになります。

結論

米国株の23時間取引は、単なる取引時間延長ではありません。

日本の昼間にも米国株をリアルタイムで売買できるようになることで、日本株と米国株がこれまで以上に直接比較される時代が始まります。

特に新NISAをきっかけに海外投資へ慣れた若い投資家にとって、企業の国籍は以前ほど重要ではなくなっています。

一方で、23時間取引には流動性の低下や価格変動の拡大といった注意点があります。いつでも売買できることが、いつでも有利に売買できることを意味するわけではありません。

そして最も大きな変化を迫られるのは、日本の株式市場かもしれません。

100株単位という売買制度、比較的短い取引時間、企業の成長力や資本効率など、日本市場の競争力が世界の市場と直接比較されるようになります。

投資家のお金には国境がありません。

米国株を日本の昼間にも売買できる時代は、投資家に選択肢を増やすと同時に、日本企業と東京市場に「世界の投資家から選ばれる理由」をこれまで以上に求める時代の始まりといえそうです。

参考

日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「米国株を日本の昼間も売買 ネット証券5社、23時間取引に対応」

日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「米国株の23時間取引 テック株への関心高く」

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