税務調査という言葉を聞くと、多くの人は税務署職員が会社や自宅を訪問し、帳簿や領収書を一枚一枚確認する姿を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、その風景はこれから大きく変わるかもしれません。
国税庁は近年、e-Taxの普及、電子帳簿保存法の整備、オンライン面談の導入、そしてAI活用の研究を急速に進めています。税務行政は今、紙と対面を前提とした時代から、データとオンラインを前提とする時代へ移行しようとしているのです。
人生100年時代においては、長く働き、長く事業を続ける人ほど、この変化を理解しておく必要があります。
税務調査はなぜ変わるのか
税務行政がDXを進める最大の理由は、人手不足です。
日本全体で人口減少が進む中、国税職員の数も無限に増やせるわけではありません。
一方で、
電子取引
ネット通販
暗号資産
海外送金
フリーランス取引
など、確認すべき取引は年々増加しています。
従来のように人海戦術で全てを確認することは現実的ではなくなっています。
そこで必要になるのがAIとデジタル技術です。
限られた人員で効率的な税務行政を行うためには、データ分析による選別とオンライン化が不可欠なのです。
AIはどこを見ているのか
AIが税務調査を行うわけではありません。
しかし、AIは調査対象の選定に大きな力を発揮します。
例えば、
業種平均と比較して利益率が極端に低い
売上と仕入のバランスが不自然
消費税還付額が異常に大きい
役員報酬の変動が極端
申告内容に継続性がない
といった特徴をAIが発見する可能性があります。
従来は調査官の経験や勘に依存していた部分が、今後はデータ分析によって補強されるでしょう。
つまり、
「目立たなければ大丈夫」
という時代ではなく、
「データ上の違和感がないか」
が重要な時代になるのです。
オンライン面談は当たり前になるのか
国税庁はすでにTeamsを利用したオンライン面談を全国展開し始めています。
税務調査は原則として現地確認が必要ですが、全てを対面で行う必要はありません。
例えば、
事前説明
資料確認
追加質問
税理士との打合せ
結果説明
などはオンラインで十分対応できる場合があります。
これにより、
移動時間の削減
日程調整の容易化
資料共有の迅速化
が期待できます。
地方企業や高齢の納税者にとっても大きなメリットとなるでしょう。
紙の領収書は消えるのか
税務DXが進むと、紙の証拠書類は徐々に減少していくと考えられます。
現在でも、
クレジットカード明細
電子請求書
ネットバンキング
クラウド会計
電子契約
など、多くの取引がデジタル化されています。
将来的には税務調査でも、
紙の箱を積み上げる光景より、
パソコン画面を共有しながら確認する光景の方が一般的になるかもしれません。
ただし重要なのは、紙がなくなることではありません。
証拠がデータに変わるだけなのです。
保存義務そのものは今後も続きます。
税理士の役割はどう変わるのか
税理士の役割も大きく変化します。
過去は、
帳簿を作る
申告書を作る
税務署へ提出する
ことが中心でした。
しかしAIやクラウド会計が普及すると、これらの作業は自動化されていきます。
一方で価値が高まるのは、
税務リスクの分析
経営判断の助言
税務調査対応
資産承継対策
人生設計の相談
といった高度な支援です。
単なる計算業務ではなく、「考える仕事」の比重が高まるでしょう。
人生100年時代に求められる新しい納税者像
これからの納税者には、新しい能力が求められます。
税法知識だけではありません。
電子データを整理する力
クラウドを活用する力
証拠を保存する力
オンラインで説明する力
が重要になります。
税務調査の現場も、
「帳簿を見せる」
から
「データを説明する」
へ変わっていく可能性があります。
人生100年時代では、70歳を超えても事業を続ける人が増えるでしょう。
だからこそ、早いうちからデジタル対応力を身につけることが大切なのです。
結論
税務調査は今後も人間が行います。
しかし、その周辺業務はAIとオンラインによって大きく変わります。
調査対象の選定はデータ分析が中心となり、資料の受け渡しや面談はオンライン化が進むでしょう。
人生100年時代において重要なのは、税務知識だけではありません。
データを適切に管理し、オンライン環境で説明できる能力こそが、新しい時代の納税者に求められる力です。
税務調査のDXは単なる効率化ではありません。
それは、納税者と税務行政の関係そのものを変える大きな転換点なのかもしれません。
参考
税のしるべ 2026年6月15日
「税務行政におけるオンラインツールの利用に関するQ&Aを改訂、一定の場合は税務署からメール等で資料提供も」