社長を交代すればガバナンスは改善するのか

会計
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企業で大きな不祥事が起きると、経営トップが辞任することがあります。

責任の明確化という意味では重要です。しかし、社長が交代しただけで企業のガバナンスが改善したと考えることはできません。

ニデックでは会計不正を受け、2025年末に創業者の永守重信氏が代表取締役を辞任しました。さらに内部統制の立て直しを主導していた岸田光哉前社長も2026年9月29日付で辞任し、戒田理夫氏が社長に就任しました。

短期間に経営トップが相次いで交代したことになります。

それでも2026年3月期の有価証券報告書について、PwCジャパン監査法人は「意見不表明」としました。

ガバナンス改革で本当に必要なのは、誰を社長にするかだけではありません。

社長交代には大きな意味がある

もちろん、経営トップの交代に意味がないわけではありません。

企業文化や意思決定の仕組みには、経営トップの姿勢が大きく影響します。

不適切な会計処理を容認しない。

監査法人へ正確な情報を提供する。

悪い情報ほど早く経営会議や取締役会へ報告する。

内部監査部門の指摘を尊重する。

内部通報者を保護する。

こうした姿勢を経営トップが明確に示せば、組織の行動は変わる可能性があります。

内部統制では、経営トップがどのような姿勢を示すかが非常に重要です。

問題はトップだけで起きているとは限らない

一方、企業不祥事の原因を社長個人だけに求めると、本当の問題を見落とす可能性があります。

例えば業績目標が極端に高かったとします。

目標未達を報告すると強く責任を追及される。

悪い情報を報告した担当者が評価を下げられる。

上司の指示に反対できない。

数字を達成した部門だけが高く評価される。

このような組織文化が長期間続いていれば、社長を交代させても現場の行動がすぐに変わるとは限りません。

企業文化は人事制度、評価制度、権限構造などによって形成されるからです。

財務報告は多数の人が関与して作られる

大企業の決算は社長1人で作るものではありません。

各事業部門が数字を作成します。

子会社から財務情報が集まります。

経理部門が連結決算を行います。

経営企画部門が事業計画を作ります。

経営陣が重要な会計上の見積もりを判断します。

内部監査部門が業務を確認します。

取締役会や監査委員会なども監督します。

監査法人はこれらの情報を基に監査します。

つまり財務報告は、会社全体の仕組みとして作られています。

問題が長期間にわたっていたのであれば、その仕組み全体を確認する必要があります。

人を替えるだけでは再発防止にならない

例えば不適切な会計処理を指示した役員がいたとします。

その役員を退任させることは必要かもしれません。

しかし、その人物がなぜ不適切な指示を出せたのかを確認する必要があります。

承認権限が1人に集中していなかったか。

他の役員が異議を唱えられなかったのか。

経理部門が拒否できなかったのか。

内部監査部門は把握できなかったのか。

取締役会は監督できなかったのか。

問題を知っていた社員が通報できなかったのか。

これらを改善しなければ、人物が変わっても同じ構造が残る可能性があります。

社外取締役の役割も重要になる

ガバナンス改革では社外取締役の役割も重要です。

社外取締役には、経営陣から一定の距離を置いて監督することが期待されています。

業績が悪化しているのに楽観的な事業計画が続いていないか。

巨額の減損が突然発生した理由は何か。

監査法人と経営陣の間でどのような問題が起きているのか。

内部監査から重大な報告は出ていないか。

経営トップ自身に関係する問題がある場合、社内の役員だけでは対応が難しくなることがあります。

そのとき独立した社外取締役がどこまで機能するかが問われます。

監査法人との関係を正常化できるか

ニデックの場合、特に重要になるのが監査法人との関係です。

PwCジャパン監査法人は、会計監査人に虚偽の説明をした役職員の一部が、会社やグループ会社の財務報告プロセスで責任ある立場を担当していると指摘しました。

新しい経営体制では、監査法人が必要とする情報を正確かつ迅速に提供できる仕組みを構築する必要があります。

誰が監査法人への説明を担当するのか。

重要な質問に対する回答をどのように確認するのか。

子会社から得た情報の正確性をどう検証するのか。

監査法人から指摘された事項を誰が管理するのか。

経営トップまで適切に情報が届くのか。

こうした実務的な仕組みまで変える必要があります。

内部監査を強くする必要がある

企業内部で問題を早期に発見する役割を担うのが内部監査です。

しかし内部監査部門が存在しているだけでは十分ではありません。

経営陣に対して問題を指摘できる独立性があるか。

重要な子会社まで監査できる人員がいるか。

会計やITなど必要な専門知識を持っているか。

監査結果を取締役会などへ直接報告できるか。

こうした点が重要です。

内部監査部門が経営トップに遠慮して重大な問題を指摘できないのであれば、組織としてのチェック機能は弱くなります。

子会社管理も見直す必要がある

グローバル企業では子会社管理も大きな課題になります。

本社の規程を海外子会社へ送っただけでは、内部統制が機能しているとはいえません。

子会社の経営者に権限が集中していないか。

本社が定期的に財務情報を確認しているか。

異常な利益率や売上増加を検知できるか。

内部監査が現地まで確認しているか。

現地社員が本社へ直接通報できるか。

こうした仕組みが必要です。

企業規模が大きくなればなるほど、社長1人の管理能力ではなく組織としての管理能力が重要になります。

評価制度が不正を生むこともある

ガバナンス改革では、人事評価制度も見逃せません。

例えば売上高や利益目標の達成率だけで評価される制度があるとします。

目標未達によって報酬や昇進に大きな影響が出る場合、数字を良く見せようとする圧力が強くなる可能性があります。

もちろん高い目標を設定すること自体が問題なのではありません。

重要なのは、数字を達成する過程が適切だったかも評価することです。

コンプライアンスを守ったか。

部下からの問題提起を適切に扱ったか。

内部統制を機能させたか。

こうした要素も人事評価に組み込まなければ、現場の行動は変わりにくくなります。

悪い情報が上がる会社にできるか

企業統治を見るうえで非常に重要なのが、悪い情報が経営トップまで上がる仕組みです。

良いニュースは自然に上へ伝わります。

問題は悪いニュースです。

大型案件が失敗している。

売掛金を回収できない。

子会社で不適切な会計処理の疑いがある。

監査法人から重大な指摘を受けた。

こうした情報を早く報告した社員が不利益を受ける会社では、問題が隠される可能性があります。

逆に早期報告を評価する会社であれば、問題が小さい段階で対応できます。

ガバナンス改革とは、悪い情報を隠さない組織を作ることでもあります。

新体制の評価には時間が必要

新しい社長が就任すると、企業はさまざまな改革策を発表します。

しかし内部統制の有効性は、発表した時点では判断できません。

新しい承認制度が実際に機能したのか。

内部監査が問題を発見できたのか。

監査法人へ必要な資料が提出されたのか。

子会社から正確な情報が集まったのか。

取締役会が経営陣を適切に監督したのか。

一定期間運用して初めて分かります。

そのためガバナンス改革では、体制変更の発表と実際の改善を区別して見る必要があります。

投資家はトップ交代後を見る

企業不祥事のニュースでは、社長辞任が大きく報じられます。

しかし投資家にとって重要なのは、その後です。

後任社長はどのような改革を行ったのか。

問題に関係した役職員についてどのような対応をしたのか。

取締役会の構成は変わったのか。

内部監査は強化されたのか。

監査法人の意見は変わったのか。

内部統制上の重要な不備は解消されたのか。

社長交代はガバナンス改革のスタートになることはあっても、ゴールではありません。

結論

企業不祥事が起きたとき、経営トップの交代には大きな意味があります。

経営責任を明確にし、組織文化を変える契機になるからです。

しかし、社長を交代しただけでガバナンスが改善するわけではありません。

承認権限、内部監査、子会社管理、取締役会、人事評価、内部通報、監査法人への情報提供など、企業全体の仕組みを見直す必要があります。

さらに、その仕組みが実際に機能していることを一定期間の運用によって示さなければなりません。

ニデックでも、新しい経営体制を作ること自体より、その体制の下で信頼できる財務報告を継続して作れるかが重要になります。

企業統治の本当の強さは、不祥事が起きたときに誰が辞任したかだけでは分かりません。

問題を早期に発見し、悪い情報を隠さず、経営トップ自身を含めて適切にチェックできる仕組みがあるか。

そこにガバナンス改革の本質があります。

参考

日本経済新聞 2026年10月1日 朝刊「ニデック監査、再び不表明 前期有報 上場維持厳しさ増す 最終赤字5646億円」

日本経済新聞 2026年10月1日 朝刊「ニデック統治、再構築急ぐ PwC『適切な監査証拠入手できず』 東証報告、月末に迫る」

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