企業が取引先に対して持つ売掛金や貸付金は、相手先の経営悪化によって回収できなくなることがあります。しかし、「経営状態が悪い」というだけで貸倒損失として処理できるわけではありません。
前回は、法的整理や債権の切捨てなど、法律上の事実によって貸倒損失が認められるケースを紹介しました。
今回は、それとは異なる「実質基準による貸倒れ」について解説します。裁判所の手続きがなくても貸倒損失が認められる場合があり、実務では非常に重要な考え方です。
実質基準による貸倒れとは
実質基準による貸倒れとは、法律上の倒産手続きは行われていないものの、債権の全額が回収できないことが客観的に明らかになった場合に、貸倒損失として処理できる制度です。
法人税基本通達9-6-2では、債務者の資産状況や支払能力などからみて、債権の全額が回収不能であることが明らかである場合には、貸倒損失として損金算入できるとしています。
つまり、「形式」ではなく「実態」で判断するのが、この制度の特徴です。
倒産手続きがなくても貸倒れになる理由
現実の経済では、経営破綻していても破産や民事再生を申し立てない会社は少なくありません。
事業を停止したまま放置されている会社や、代表者と連絡が取れなくなっている会社もあります。
こうした場合に、法的整理を待たなければ貸倒処理ができないとすると、企業は何年も資産として計上し続けなければならなくなります。
そのため税務では、実際に回収が不可能であることが客観的に確認できれば、貸倒損失を認める考え方を採用しています。
重要なのは回収不能が明らかであること
実質基準で最も重要なのは、「回収が困難」ではなく、「回収不能が明らか」であることです。
例えば、
・会社が事業を完全に停止している
・資産が全く残っていない
・金融機関からの借入も返済不能となっている
・債権回収会社や弁護士が回収不能と判断している
など、複数の客観的事実から回収不能が裏付けられる必要があります。
単に業績が悪化しているだけでは、貸倒損失は認められません。
税務調査では何を確認されるのか
実質基準による貸倒れは、税務調査でも特に慎重に確認される項目です。
調査官は、
「なぜ回収不能と判断したのか」
という根拠を確認します。
そのため、
・決算書
・信用調査会社の調査報告書
・現地調査の記録
・内容証明郵便
・督促状
・弁護士とのやり取り
などの資料が重要になります。
企業側が十分な調査を行い、その結果として回収不能と判断したことを説明できなければなりません。
一部でも回収可能なら貸倒損失は限定される
実質基準では、債権全額が回収不能であることが前提になります。
例えば、1,000万円の債権があり、資産の処分によって300万円は回収できる見込みがある場合、全額を貸倒損失とすることはできません。
回収可能額を適切に見積もった上で、回収できない部分について判断する必要があります。
過大な貸倒処理は税務調査で否認される原因になります。
貸倒引当金との違い
貸倒引当金は、「将来回収できなくなる可能性」に備える制度です。
一方、実質基準による貸倒損失は、「回収不能という事実が確定した」と判断される場合の処理です。
つまり、
可能性への備えなのか、
確定した損失なのか、
という違いがあります。
この違いを理解することが、適切な税務処理につながります。
安易な貸倒処理は税務リスクになる
利益を圧縮する目的で貸倒損失を計上すると、税務調査で否認される可能性があります。
貸倒損失は法人税額にも大きな影響を与えるため、税務当局はその判断を慎重に確認します。
実質基準を適用する場合には、「回収できないだろう」という推測ではなく、「回収できないことが客観的に証明できる」ことが重要です。
企業は十分な調査を行い、判断の根拠を資料として残しておくことが求められます。
結論
実質基準による貸倒れは、法的整理が行われていない場合でも、回収不能が客観的に明らかであれば貸倒損失として認められる制度です。
しかし、その判断には厳格な基準があり、経営者の主観だけでは足りません。債務者の資産状況や事業実態、回収努力の経緯などを総合的に確認し、十分な証拠を残すことが重要です。
貸倒損失は企業の利益や税額に大きく影響するため、実質基準の考え方を正しく理解し、慎重かつ適切に判断することが、税務リスクを回避する第一歩となるでしょう。
参考
税のしるべ
2026年7月20日
連載「不良債権に係る税務上の取扱いの再確認」税理士・東辻 淳次
第3回/通達で貸倒損失の計上可否が明らかに