産金国が金を囲い込む時代へ 資源ナショナリズムが金価格を押し上げる理由

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金価格の上昇というと、これまでは米国の金利、ドル相場、インフレ、地政学リスクなどが主な材料として語られてきました。

しかし、今後はもう一つ重要な視点が加わりそうです。

それが、金を産出する国そのものの政策です。

ラオス、インドネシア、中国、マダガスカル、ガーナなどの産金国では、自国で採掘した金をそのまま国外へ輸出するのではなく、自国内で精錬したり、中央銀行が買い取ったり、外貨準備として保有したりする動きが広がっています。

これは単なる金投資の話ではありません。

金を「輸出する資源」から「国力を高める戦略資産」へ変えようとする動きです。

これまで産金国は金を国外へ送り出してきた

金の国際市場では、ロンドンやニューヨークなど欧米の金融市場が大きな役割を果たしてきました。

一方、実際に金を採掘している国を見ると、新興国や資源国の存在感は非常に大きくなっています。

問題は、産金国が必ずしも金から十分な付加価値を得てきたわけではないことです。

金鉱石の状態で国外へ輸出すれば、国内に残るのは採掘による収入が中心です。

ところが、自国内で精錬し、地金に加工し、金融商品として流通させるところまで行えば、より大きな付加価値を国内に残すことができます。

産金国がこの点に気づき始めています。

ラオスは金を経済成長の柱にしようとしている

象徴的なのがラオスです。

ラオスの2025年の金鉱山産出量は約12トンとされ、アジアで6位です。

さらに埋蔵量は500~1,000トンと推計されています。

これまでは金鉱石の状態で国外へ流出するケースも多く、豊富な金資源が十分に国内経済へ還元されていないという問題がありました。

そこでラオス政府は2024年、現地企業との共同出資によって金を専門に扱うラオ・ブリオンバンクを設立しました。

さらに精錬所などのインフラを整備し、自国内に金市場をつくろうとしています。

つまり、金を掘って輸出するだけではありません。

採掘、精錬、流通、保有という一連の仕組みを国内に構築しようとしているのです。

金を国内に残す国も増えている

同様の動きはラオスだけではありません。

インドネシアは世界有数の産金国ですが、国内の金投資需要も大きいため、国内供給が不足しています。

そこで金の輸出に最大15%の課税を行い、国外への流出を抑えようとしています。

中国も特徴的です。

中国は年間380トン余りを生産する世界最大の産金国でありながら、大量の金を輸入しています。

さらに国外への金の持ち出しも制限されています。

つまり、国内で生産した金を国内に残しながら、海外からも金を取り込む構造になっています。

マダガスカルでも中央銀行が自国産の金を購入し、正規の買い取りルートを整備しています。

ガーナでも違法採掘対策やサプライチェーンの健全化を進め、金資源から得られる利益を国内経済へ還元しようとしています。

産金国の金に対する考え方そのものが変わり始めているのです。

なぜ各国は金を手元に置きたがるのか

背景には金価格の上昇があります。

金価格が大きく上昇すれば、自国で採掘した金を単純に原料として輸出することへの疑問が生まれます。

それならば、自国で精錬して付加価値を高めたり、中央銀行が保有したりした方が国益につながります。

さらに重要なのが、外貨準備に対する考え方の変化です。

従来、各国の外貨準備ではドル建て資産が中心でした。

しかし、国際情勢によって海外資産が凍結される事例などを目の当たりにした新興国にとって、特定国の通貨に依存すること自体がリスクとして意識されるようになりました。

そこで注目されるのが金です。

金には発行国がありません。

特定の政府や中央銀行の信用だけに依存する資産でもありません。

この特徴が、世界情勢が不安定になるほど重要になります。

中央銀行が金を買う構造も定着してきた

金市場では需要構造そのものも変化しています。

かつては欧州などの中央銀行が金を売却することも珍しくありませんでした。

ところが2000年代後半以降、新興国を中心として中央銀行が金を積み増す流れが強まりました。

中国人民銀行も金保有を増やしています。

こうした中央銀行による継続的な買いは、金市場に大きな意味を持ちます。

個人投資家の場合、価格が上昇すれば利益確定のため売却することがあります。

一方、中央銀行が外貨準備の分散を目的として金を購入する場合、短期的な値上がりだけを理由に売却するとは限りません。

そのため、中央銀行による買いが構造的な需要になる可能性があります。

金は宝飾品から金融資産へ変わっている

もう一つ見逃せないのが投資需要です。

かつて金需要では宝飾品など実物需要の存在感が大きく、投資需要は現在ほど大きくありませんでした。

ところが、金地金や金貨に加え、金ETFが普及したことで個人や機関投資家が金へ投資しやすくなりました。

金の総需要に占める地金、金貨、ETFによる投資需要の割合は、1990年代前半には平均1割余りでした。

これが2025年までの5年間では4割近くまで拡大しています。

金は装飾品として消費される商品だけではなく、株式や債券と並ぶ金融資産としての性格を強めているわけです。

産金国の囲い込みは供給面から価格に影響する

ここで重要なのが、これまでの金価格上昇との違いです。

中央銀行や投資家による金購入は、主として需要を増加させる要因です。

ところが産金国による金の囲い込みは、国際市場に出回る供給量を減少させる可能性があります。

たとえば産金国が輸出税を引き上げたり、自国の中央銀行に優先的に売却させたり、国内精錬を義務付けたりすれば、従来の国際的な精錬業者が調達できる原料が減る可能性があります。

金市場では、

需要面では中央銀行や投資家が買う。

供給面では産金国が国外への流出を抑える。

という2つの動きが同時に起こる可能性があるのです。

これは中長期的な金価格を考えるうえで重要な変化です。

資源ナショナリズムは金にも広がるのか

石油や天然ガス、レアメタルなどでは、自国資源を国家戦略に利用する動きは珍しくありません。

金でも同じことが起こり始めていると考えることができます。

しかも金には、通常の資源とは異なる特徴があります。

石油は使えばなくなります。

天然ガスも消費されます。

しかし金は基本的に消費されず、長期間にわたって資産として蓄積されます。

産金国からすれば、価格が上昇している金を国外へ送り出し続けるよりも、自国の資産として保有するという選択肢が生まれます。

金をめぐる資源ナショナリズムが広がれば、世界の金の流れそのものが変わる可能性があります。

日本にとって金リサイクルが重要になる

日本は世界有数の産金国ではありません。

しかし、別の強みがあります。

都市鉱山です。

スマートフォン、パソコン、電子部品、基板などには微量の金が使われています。

日本企業はこうした電子機器スクラップから金などの貴金属を回収する高度な技術を持っています。

産金国が金の国外流出を抑えるようになれば、新たに採掘される金だけに依存しない供給体制の重要性は高まります。

その意味では、リサイクルによって金を再資源化する技術そのものが戦略的な価値を持つ可能性があります。

さらに日本が持つ精錬、品質管理、取引市場、リサイクルなどのノウハウを、新たに金市場を整備しようとしている産金国へ提供する余地もあります。

金価格の上昇は、単なる投資テーマだけではありません。

資源外交や産業政策にもつながる問題になりつつあります。

結論

これまで金価格を見るときには、米国の金利、ドル相場、インフレ、地政学リスクなどが注目されてきました。

これからは「産金国が自国の金をどう扱うのか」という視点も重要になります。

ラオスでは国内精錬や金市場の整備が進み、インドネシアでは輸出抑制策が打ち出されています。中国やマダガスカルでは中央銀行などによる金の保有が進み、ガーナでも金資源の利益を国内へ還元する取り組みが強化されています。

一方、需要側では中央銀行や投資家による金購入が拡大しています。

つまり世界の金市場では、需要が増えるだけでなく、国際市場へ供給される金が減る可能性まで出てきました。

金高騰によって産金国が自国資源の価値に目覚めれば、金をめぐる資源ナショナリズムはさらに広がる可能性があります。

金は単なる商品でも、単なる投資対象でもありません。

外貨準備、国家安全保障、資源政策、産業政策まで絡む戦略資産へと、その位置付けが変わりつつあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月28日 朝刊 「金高騰、産金国目覚める」

日本経済新聞 2026年9月28日 朝刊 「日本、技術強みに協力築け」

日本経済新聞 2026年9月28日 朝刊 「変わる金の需要構造」

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