地震や豪雨、火災などによって企業が大きな被害を受けると、その事業年度が赤字になることがあります。
工場や店舗が損壊し、商品や原材料を廃棄し、復旧のための費用も発生するからです。
法人税には、こうした災害によって生じた損失について、通常の欠損金とは異なる特別な仕組みがあります。
それが災害損失欠損金額の繰戻還付です。
一定の要件を満たせば、災害によって赤字になった企業が過去に納めた法人税の還付を受けられる可能性があります。
災害直後の企業にとって、税務上の制度であると同時に資金繰りを支える仕組みでもあります。
欠損金とは法人税でいう赤字
まず欠損金の基本から確認します。
法人税では、益金から損金を差し引いて所得金額を計算します。
損金の方が大きくなり所得金額がマイナスになれば、欠損金が生じます。
一般的にいう会社の赤字に近いものですが、会計上の赤字と法人税上の欠損金は必ずしも同じ金額になるわけではありません。
法人税独自の調整を行ったうえで計算されるからです。
災害による損失を含む欠損金には特別な制度がある
通常の営業活動によって赤字になった場合と、地震や豪雨などによって突然巨額の損失が発生した場合では、企業が置かれている状況が大きく違います。
災害時には、事業を再開するために多額の資金が必要になります。
そこで法人税には、一定の災害によって棚卸資産や固定資産などに生じた損失を含む欠損金について、過去に納めた法人税を繰り戻して還付を受ける仕組みがあります。
この制度で重要になるのが災害損失欠損金額です。
対象になる災害は地震や豪雨だけではない
災害損失欠損金額の対象となる災害には、地震や風水害などがあります。
火災などによって資産に損失が発生する場合も対象になり得ます。
重要なのは、企業の通常の経営活動によって生じた損失ではなく、災害によって棚卸資産や固定資産などに損失が発生していることです。
自然災害だけをイメージするのではなく、制度上の災害に該当するかを確認する必要があります。
商品や原材料の損失も対象になる
災害損失というと、工場や店舗などの建物が壊れたケースを思い浮かべるかもしれません。
しかし、対象となるのは固定資産だけではありません。
例えば豪雨によって倉庫が浸水し、商品や原材料が販売や使用できなくなった場合があります。
こうした棚卸資産に生じた損失も重要です。
小売業や卸売業、製造業などでは、建物より商品や原材料の損失の方が大きくなることもあります。
固定資産の損失も対象になる
工場、店舗、機械設備などの固定資産が災害によって損壊する場合もあります。
地震で建物が倒壊したり、豪雨で機械設備が浸水したりするケースです。
災害によって資産が滅失した場合だけでなく、損壊によって価値が大きく低下することもあります。
災害損失欠損金額を計算するときには、どの資産にどの程度の損失が発生したのかを整理する必要があります。
他人の固定資産を利用するための繰延資産も対象になる
災害損失欠損金額の対象は、自社が所有する商品や固定資産だけとは限りません。
他人の固定資産を利用するために支出した一定の繰延資産についても、災害によって損失が生じれば対象となる場合があります。
例えば借りている施設を利用するために企業が一定の支出をしているケースです。
災害によってその施設が使用できなくなれば、その支出に対応する資産価値にも影響が生じることがあります。
災害時には、自社所有資産だけを確認するのではなく、こうした資産についても確認する必要があります。
青色申告法人だけの制度ではない
災害損失欠損金額の制度で重要な特徴の一つが、青色申告法人だけに限定された制度ではないことです。
通常の欠損金の繰戻還付では、青色申告との関係が重要になります。
一方、災害損失欠損金額の繰戻還付については、災害による特別な損失に対応する制度として異なる仕組みが設けられています。
災害時には、通常の欠損金制度だけを見て還付の可否を判断しないことが重要です。
大法人にも重要な制度になる
通常の青色欠損金の繰戻還付については、法人の規模によって適用制限が問題になることがあります。
これに対して災害損失欠損金額の繰戻還付は、通常の制度とは異なる取扱いがあります。
そのため、通常の欠損金の繰戻還付を利用できない法人でも、災害損失について還付を検討できる場合があります。
災害時には会社の規模だけで制度の利用を諦めず、災害損失欠損金額に該当するかを確認することが重要です。
災害後1年以内に終了する事業年度が重要になる
災害損失欠損金額の繰戻還付には、対象となる事業年度について期間の要件があります。
災害が発生した日から1年以内に終了する事業年度などが重要になります。
例えば3月決算の会社が年度途中で大規模災害に遭った場合には、その災害がどの事業年度の損失として扱われるのかを確認します。
災害発生日と決算日の関係を早い段階で整理しておく必要があります。
中間申告でも利用できる場合がある
災害損失欠損金額の繰戻還付には、通常の欠損金の繰戻還付とは異なる特徴があります。
その一つが、中間期間に生じた災害損失について、仮決算による中間申告を通じて還付を請求できる場合があることです。
災害直後の企業は復旧工事、商品の再調達、従業員への給与支払いなど多額の資金を必要とします。
決算まで長期間待つのではなく、一定の場合に早い段階で還付を受けられる仕組みは、資金繰りの面で大きな意味があります。
保険金で補填される金額にも注意する
災害によって1億円の資産被害が発生したからといって、必ず1億円すべてを災害損失欠損金額として考えられるわけではありません。
損害保険金などによって補填される金額がある場合には、その影響を確認する必要があります。
例えば1億円の損失に対して8,000万円の保険金を受け取る場合と、保険に加入しておらず全額を会社が負担する場合では、実質的な災害損失の状況が異なります。
被害額だけでなく、保険金などの補填額も整理しておくことが重要です。
通常の赤字と災害損失を分けて把握する
災害に遭った事業年度には、災害以外の理由による赤字も発生することがあります。
例えば売上減少による営業赤字と、災害による商品廃棄損が同じ年度に発生するケースです。
会社全体として5,000万円の欠損金が発生していても、その全額が災害によるものとは限りません。
災害損失欠損金額の制度を利用するためには、災害によって生じた損失を区分して把握することが重要になります。
過去に納めた法人税が復旧資金になる
災害損失欠損金額の制度が重要なのは、単に将来の税負担を減らす制度ではないからです。
一定の要件を満たせば、過去の事業年度に納付した法人税について還付を受けられる可能性があります。
災害によって突然資金が必要になった企業にとって、過去に納付した法人税が戻ってくることには大きな意味があります。
税制を通じて企業の早期復旧を支える仕組みと考えることができます。
結論
災害損失欠損金額とは、地震、風水害、火災など一定の災害によって棚卸資産や固定資産などに生じた損失に関係する法人税上の特別な仕組みです。
通常の営業赤字とは区別して災害による損失を把握し、一定の要件を満たせば過去に納付した法人税の繰戻還付を請求できる可能性があります。
対象となるのは建物や機械だけではありません。
商品や原材料などの棚卸資産や、他人の固定資産を利用するための一定の繰延資産についても確認が必要です。
また、青色申告かどうか、法人の規模、災害発生日と事業年度との関係、中間申告の利用、保険金による補填など、通常の欠損金制度とは異なる重要なポイントがあります。
災害発生時には単に会社全体の赤字額を見るのではなく、そのうち災害によって生じた損失はいくらなのかを早い段階から区分して把握することが重要です。
参考
税のしるべ 2026年9月21日 特集 災害発生 そのとき法人税務はどうなる? 災害に伴う支援と損失処理
法人税法 第80条
法人税法施行令 第155条の2
租税特別措置法 第66条の12