海外の大手投資ファンドが日本のマンションを数百億円、1000億円という規模で購入しています。
では、ファンドはマンションを購入した後、何をするのでしょうか。
単に保有して家賃を受け取り続けるだけとは限りません。
投資ファンドの基本的な考え方は、取得した不動産の収益力を高め、その価値を引き上げ、最終的には売却などによって投資成果を確定することにあります。
そのためマンションを購入した時点は、投資の終わりではなく始まりです。
マンション取得、稼働率向上、賃料上昇、収益改善、そして売却という流れを理解すると、海外ファンドがなぜ日本の都市部の賃貸マンションを大量に購入するのかが見えてきます。
最初にマンションを取得する
投資の出発点は物件の取得です。
ファンドは、どんなマンションでも購入するわけではありません。
重要になるのは、
立地
築年数
入居率
現在の家賃
周辺の家賃水準
修繕状況
将来の人口や世帯数
売却のしやすさ
などです。
今回、カナダの大手投資ファンド、ブルックフィールドが取得したのは、首都圏、大阪圏、名古屋市、福岡県にある50棟、約3700戸です。
主に単身者向けで、交通アクセスの良い都市部の物件が多く、平均築年数は4年未満とされています。
こうした物件は入居需要が見込みやすく、将来売却する際にも買い手を見つけやすいという特徴があります。
つまりファンドは購入時点から、現在の収益だけでなく数年後の姿まで考えているのです。
購入価格より将来の収益力を見る
投資ファンドが重視するのは、単に物件を安く買えるかどうかではありません。
将来どれだけ収益を増やせるかが重要です。
例えば現在の年間NOIが1億円のマンションがあったとします。
このマンションを20億円で取得すれば、単純化したキャップレートは5%です。
しかしファンドが、
周辺より家賃が安い
空室が多い
管理方法を改善できる
修繕によって競争力を高められる
と判断したとします。
NOIを1億円から1億2000万円へ増やすことができれば、同じ物件でも投資価値は大きく変わります。
ファンドは現在のマンションを買うと同時に、将来の収益力を買っているともいえます。
稼働率を高める
収益改善の基本となるのが稼働率です。
100戸あるマンションで10戸が空室なら、稼働率は90%です。
これを95%や98%へ引き上げれば、家賃を変えなくても収入が増えます。
そのためファンドや物件の運用会社は、
入居者募集の強化
設備の改善
インターネット環境の整備
共用部分の改修
募集条件の見直し
管理サービスの改善
などを行うことがあります。
特に複数のマンションをまとめて保有するファンドでは、管理方法を標準化することで効率を高めることもできます。
50棟、3700戸という規模になると、わずかな稼働率改善でも全体では大きな収益増加につながります。
賃料を引き上げる
次に重要になるのが賃料です。
ファンドが注目するのは、現在の家賃だけではありません。
周辺の市場家賃と比較して、現在の家賃がどの程度の水準にあるかを調べます。
例えば周辺の同程度のマンションが月12万円で募集されているのに、保有物件の家賃が10万円だったとします。
契約更新や入居者の入れ替わりなどを通じて市場水準に近づけることができれば、収益を増やせる可能性があります。
仮に100戸のマンションで、平均家賃を月1万円引き上げられたとします。
単純計算すると、
1万円掛ける100戸掛ける12カ月
で年間1200万円の増収になります。
数千戸を保有するファンドなら、わずかな賃料上昇でも収益への影響は非常に大きくなります。
家賃上昇は物件価値そのものを高める
賃料上昇が重要なのは、毎年受け取る家賃が増えるからだけではありません。
不動産そのものの評価額にも影響するからです。
例えば年間NOIが1億円で、キャップレートが4%のマンションを考えます。
単純化すると評価額は25億円です。
その後、賃料引上げや稼働率改善によってNOIが1億2000万円になったとします。
キャップレートが4%のままであれば、評価額は30億円になります。
NOIが2000万円増えたことで、理論上の不動産価値は5億円上昇したことになります。
これが収益不動産の特徴です。
家賃を増やすことは、単なる増収ではなく資産価値そのものを高める可能性があります。
運営コストを減らす方法もある
収益改善には家賃を増やす方法だけでなく、支出を減らす方法もあります。
不動産から得られるNOIは、収入から運営費用を差し引いて求めます。
そのため、
建物管理費
清掃費
設備管理費
保険料
修繕費
エネルギー費用
などを効率化できればNOIは増えます。
大量の物件を保有する大手ファンドには規模のメリットがあります。
例えば50棟の管理契約をまとめて見直したり、設備やサービスを一括調達したりすれば、一棟だけを所有する場合よりコストを削減できる可能性があります。
これも大型ファンドがマンションをまとめて取得する理由の一つです。
改修によってマンションの商品力を高める
物件によってはリノベーションや設備投資を行うこともあります。
例えば、
宅配ボックス
高速インターネット
防犯設備
共用スペース
内装
水回り
省エネ設備
などを改善します。
投資には費用がかかりますが、それ以上に家賃を引き上げたり、空室期間を短くしたりできれば収益改善につながります。
ファンドにとって重要なのは、改修費そのものではありません。
1億円を投資することで、将来的に何億円の物件価値向上につながるのかという投資採算です。
数年間で資産価値を高める
投資ファンドには一定の運用期間が設定されていることがあります。
そのため購入した不動産を永久に保有することを前提としているとは限りません。
取得後、
稼働率を高める
賃料を引き上げる
運営コストを削減する
必要な改修を行う
NOIを増やす
という流れによって物件価値を高めていきます。
いわばマンションという資産の経営改善を行うわけです。
企業買収を行う投資ファンドが企業の収益力を改善して企業価値を高めるのと、基本的な考え方は似ています。
最後は売却によって利益を確定する
そして重要になるのが出口です。
例えば20億円で取得したマンションについて、収益改善によってNOIを増やし、数年後に30億円で売却できれば、保有期間中の賃料収入に加えて売却益を得られます。
もちろん実際には、
取得費用
借入金利
管理費
修繕費
税金
売却費用
などがあります。
それらを差し引いたうえで投資家へのリターンを確保します。
投資ファンドでは、購入時点から「最終的に誰に、いくらで売れるのか」を想定して投資判断することが重要になります。
誰に売却するのか
マンションの売却先にはいくつかの選択肢があります。
例えば別の海外ファンドです。
収益が安定したマンションであれば、より長期保有を目的とする機関投資家が購入することもあります。
J REITや私募REITなどが取得する可能性もあります。
複数のマンションを一括して別の投資家へ売却することもできます。
つまり不動産市場では、
ファンドが取得する
収益力を改善する
別の投資家へ売却する
その投資家がさらに運用する
という資産の循環が起きています。
ファンドにとって値上がりだけが利益ではない
投資ファンドが利益を得る方法は、不動産価格そのものの値上がりだけではありません。
大きく分ければ、
保有期間中の賃料収入
運営改善による収益増加
売却時の価格上昇
という複数の収益源があります。
さらに借入金を利用すれば、自己資金に対する投資収益率を高めることもできます。
そのためファンドは単純に「マンション価格が上がりそうだから買う」のではありません。
購入後に自ら収益力を高められるかどうかも重要な投資判断になります。
日本の賃貸マンションが注目される理由
現在、日本の都市部では家賃上昇が続いています。
特に東京23区や福岡市などでは、単身者向けマンションの賃料上昇が目立っています。
海外ファンドから見れば、
現在の入居需要が強い
将来の賃料上昇が期待できる
稼働率を維持しやすい
物件をまとめて取得できる
将来の売却先も期待できる
という条件がそろえば、投資対象として魅力が高まります。
日本人から見ればすでに高くなったマンションでも、ファンドは現在価格だけではなく、購入後にどれだけ収益を増やせるかという視点で見ています。
結論
海外ファンドにとって、マンションを購入することは投資のゴールではありません。
むしろそこから本格的な運用が始まります。
物件を取得し、稼働率を高め、賃料を市場水準へ近づけ、運営コストを効率化し、必要に応じて改修を行います。
その結果としてNOIを増やせれば、毎年の収益が増えるだけでなく、マンションそのものの資産価値を高めることができます。
そして一定期間保有した後、別のファンドやREITなどへ売却することで投資成果を確定します。
つまり海外ファンドが購入しているのは、単なるマンションの建物ではありません。
そこから将来生み出される賃料と、改善できる収益力、そして最終的な売却価値をまとめて購入しているのです。
1000億円を超える巨額資金が日本の賃貸マンションへ向かう理由を理解するには、「いくらで買ったのか」だけでなく、「買った後にどう収益を増やし、最後にどう売るのか」という一連の投資戦略を見ることが重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「マンション、海外マネー増勢 カナダファンドが1000億円 資金流入で高値続く」
日本経済新聞 2026年8月15日朝刊「投資ファンド 不動産や企業買収活発に」