飲食店で顧客がクレジットカードを使って1万円を支払ったとします。
顧客から見れば支払いは完了しています。店舗も料理を提供しているため、売上もすでに発生しています。
それなら店舗は必ず1万円を受け取れるように思えます。
ところが、キャッシュレス決済では顧客が支払った時点と店舗へ売上代金が入金される時点が同じとは限りません。
その間に決済に関係する事業者が存在するため、その事業者が経営破綻すると、店舗が予定していた売上代金を受け取れなくなる場合があります。
今回の参考記事では、クレジットカード売上の早期決済代行サービスを手がけていた全東信が2026年7月に破産手続き開始決定を受け、そのサービスを利用していた加盟店の中に最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。
顧客が支払いを終えていることと、店舗が売上代金を回収していることは別なのです。
顧客の支払いと加盟店への入金は同時ではない
現金決済であれば、お金の流れは比較的単純です。
顧客が店舗に1万円を支払えば、店舗はその場で1万円を受け取ります。
商品やサービスの提供と代金回収がほぼ同時に行われます。
しかしクレジットカード決済では違います。
顧客がカードを利用すると、その決済に関する情報が処理され、売上代金は後から加盟店へ入金されます。
つまり、
顧客が支払う時点
店舗に売上が発生する時点
店舗が売上代金を受け取る時点
は必ずしも一致しません。
この時間差があるため、店舗には入金を待っている売上代金が存在することになります。
決済会社を経由して資金が動くことがある
今回の参考記事で取り上げられた全東信は、飲食店を中心とするクレジットカード加盟店に対して、カード会社に先行して売上代金を入金するサービスを提供していました。
つまり店舗は、通常の入金を待つのではなく、全東信のサービスを利用することで早く資金を受け取ることができました。
店舗にとっては資金繰りを改善できる便利な仕組みです。
しかし、この仕組みを別の角度から見ると、店舗が売上代金を受け取る過程に別の会社が関係することになります。
現金決済なら顧客から直接受け取っていたお金について、キャッシュレス決済では複数の事業者が関係する場合があります。
そのため、決済に関係する会社の経営状態が加盟店の資金繰りにも影響する可能性が生まれます。
決済代行会社が倒産すると何が起きるのか
決済代行会社などが正常に事業を続けている間は、契約に従って加盟店へ売上代金が入金されます。
店舗も、その入金予定を前提に資金繰りを組むことができます。
問題は、途中にいる事業者が経営破綻した場合です。
今回の参考記事では、全東信が2026年7月に大阪地裁から破産手続き開始決定を受けました。
破産申請時の負債総額は、金融機関からの借入金を中心に約1151億6400万円にのぼったとされています。
そして破産による影響は全東信だけでは終わりませんでした。
同社のサービスを利用していた加盟店にも影響が及んだのです。
最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗も
参考記事では、全東信のサービスを利用していた加盟店の中に、最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出ているとされています。
この問題の大きさを理解するため、月商1000万円の飲食店を考えてみます。
仮に1カ月分に相当する売上代金1000万円が予定通り入ってこなければ、店舗の銀行口座には大きな穴が開きます。
しかし、その間にも支払いは続きます。
食材の仕入代金があります。
従業員への給与があります。
店舗の家賃があります。
水道光熱費なども必要です。
売上がなくなったわけではありません。
顧客も代金を支払っています。
それでも店舗に現金が届かなければ、資金繰りに支障が生じる可能性があります。
顧客にもう一度支払ってもらうことはできない
ここで店舗にとって難しい問題があります。
顧客はすでにカードを使って代金を支払っています。
そのため、決済に関係する会社から店舗へお金が入らなかったからといって、通常は顧客に対して同じ代金をもう一度払ってほしいとはいえません。
顧客から見れば支払いは終わっているからです。
店舗も商品や料理を取り戻すことはできません。
すでに提供してしまっています。
つまり店舗には、
商品やサービスは提供済み
顧客は支払い済み
しかし店舗には現金が入っていない
という状態が生じる可能性があります。
キャッシュレス決済における未入金問題の怖さはここにあります。
加盟店が債権者になる可能性
決済に関係する会社が破産し、加盟店への未払いが残っている場合、加盟店がその会社に対して金銭を請求する立場になる可能性があります。
一般的には、会社が破産すると、持っている財産を換価し、法律上の手続きに従って債権者への配当などが行われます。
ただし、今回の参考記事では、全東信の破産手続きにおいて各加盟店の未入金代金が法的にどのような債権として扱われるのか、また実際にいくら回収できるのかまでは説明されていません。
したがって、全東信の加盟店が最終的にどの程度回収できるのかをこの記事だけから判断することはできません。
重要なのは、決済会社が破産したからといって、未入金となった売上代金が直ちに全額加盟店へ支払われるとは限らないという点です。
破産手続きの中で扱われることになれば、店舗が実際に現金を受け取るまで時間がかかったり、結果として全額を回収できなかったりする可能性も考える必要があります。
未入金は資金繰りを直撃する
会計上の損失だけでなく、より早く問題になるのが資金繰りです。
仮に飲食店が月末に800万円を支払わなければならないとします。
銀行口座には400万円あります。
その前にカード売上500万円が入ってくる予定なら、
400万円に500万円を加えて900万円となり、800万円を支払うことができます。
ところが予定していた500万円が入らなければ、400万円しかありません。
400万円不足します。
将来、破産手続きを通じて一定額を回収できる可能性があったとしても、目の前の給与や仕入代金の支払いには間に合わないかもしれません。
企業経営では、最終的に回収できるかどうかだけではなく、必要な日に現金を受け取れるかどうかも重要なのです。
決済サービスが使えなくなる影響もある
決済会社の破産による影響は、すでに発生している売上代金の未入金だけではありません。
参考記事では、カード決済が利用できなくなることで客離れを招き、資金繰りに支障を来す事業者が多数出てくる可能性も指摘されています。
現在では、現金をほとんど持ち歩かない消費者も珍しくありません。
いつもカードで支払っていた店舗で突然カードが使えなくなれば、別の店を利用する人が出てくる可能性があります。
つまり決済会社の問題によって、
過去の売上代金が入らない
今後のカード決済ができない
その結果として将来の売上まで減る
という複数の問題が重なる可能性があります。
だからこそ参考記事では、小規模、零細の飲食店を中心とする二次被害の広がりに注意が必要だと指摘しているのです。
結論
決済代行会社などが倒産すると、顧客がすでに支払いを終えていても、店舗が予定していた売上代金を受け取れなくなる場合があります。
キャッシュレス決済では、顧客の支払いと店舗への入金が必ずしも同時ではないからです。
今回の参考記事では、全東信の破産によって、サービスを利用していた加盟店の中に最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。
店舗はすでに商品やサービスを提供しています。
顧客も支払いを済ませています。
それでも店舗に現金が入らなければ、仕入代金や給与、家賃などを支払えなくなる可能性があります。
また、破産した会社に対して未払い代金を請求する立場になったとしても、参考記事からは最終的な回収額や回収時期までは分かりません。
キャッシュレス決済では、売れたかどうかだけではなく、売上代金がどの会社を経由し、最終的に自社へ入金されるまでどのようなリスクがあるのかを見る必要があります。
顧客が支払ったことと、店舗がお金を受け取ったことは同じではない。
この違いを理解することが、キャッシュレス時代の資金繰り管理では重要なのです。
参考
企業実務 2026年9月 キャッシュレス時代の盲点 懸念される小規模飲食店の連鎖倒産