ストックオプションの仕組みと税務 税制適格と税制非適格で手取りはどう変わるのか

経営

未上場企業のストックオプションを現金化する仕組みが、日本でも本格的に動き始めています。

2026年10月16日、エヌストックが未上場スタートアップの従業員や役員が保有するストックオプションに由来する株式の売買仲介を始めると発表しました。

これまで株式上場まで待たなければ実現しにくかった経済的利益を、未上場段階でも受け取れる可能性が広がります。

しかし、ここで注意したいのが税金の問題です。

ストックオプションは、同じ金額の利益が発生しても、税制適格か税制非適格かによって税負担が大きく変わります。

場合によっては、数百万円単位の差が生じることもあります。

今回は、ストックオプションの基本的な仕組みから、権利行使時と株式売却時の課税関係、税制適格要件、未上場株式特有の注意点まで、具体的な計算例を交えて解説します。

ストックオプションは将来の株式購入権

ストックオプションとは、会社の役員や従業員などが、あらかじめ定められた価格で自社株式を購入できる権利です。

例えば、スタートアップ企業が従業員に対して、1株1,000円で自社株式を取得できる権利を1,000株分付与したとします。

この場合、権利行使に必要な資金は100万円です。

その後、企業が成長し、株式の価値が1株10,000円になったとします。

従業員は100万円を支払って1,000株を取得できます。

取得した株式の価値は1,000万円ですから、900万円の経済的利益が生じます。

さらに、その株式を1,000万円で売却できれば、100万円の取得資金を差し引いた900万円が、税金や諸費用を控除する前の利益となります。

ただし、権利行使によって株式を取得した段階と、その株式を売却して現金を受け取った段階は、税務上区別する必要があります。

この違いを理解することが、ストックオプションの税務を考える出発点です。

税制適格ストックオプションの仕組み

税制適格ストックオプションは、租税特別措置法に定められた一定の要件を満たすことで、税制上の優遇を受けられる制度です。

最大の特徴は、原則として権利行使時に課税されないことです。

通常、時価より安い価格で株式を取得すると、その差額が経済的利益になります。

しかし、税制適格ストックオプションでは、一定の条件を満たせば、この利益について権利行使時の課税が繰り延べられます。

そして、取得した株式を売却した段階で、株式等の譲渡所得として課税されます。

先ほどの例で考えます。

権利行使価格が1株1,000円、権利行使時の株式価値が1株10,000円、株式数が1,000株の場合です。

従業員は100万円を支払って、時価1,000万円の株式を取得します。

この時点では、税制適格要件を満たしていれば、900万円の経済的利益に対する課税は原則として発生しません。

その後、株式を1,000万円で売却した場合、売却代金から取得費100万円を差し引いた900万円が譲渡所得になります。

株式等の譲渡所得に対する税率は、所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%を合わせて原則20.315%です。

900万円に20.315%を乗じると、税額は182万8,350円になります。

したがって、税金を差し引いた利益は717万1,650円です。

なお、この計算では売買手数料などを考慮していません。

税制適格ストックオプションの魅力は、権利行使時の資金負担を抑えられるだけでなく、利益を株式等の譲渡所得として課税できる点にあります。

税制非適格ストックオプションでは課税時期が異なる

一方、税制非適格ストックオプションでは、税務上の取扱いが異なります。

一般的な従業員向けの税制非適格ストックオプションでは、権利行使時に発生した経済的利益が給与所得として課税されます。

先ほどと同じ条件で考えます。

権利行使価格は100万円、権利行使時の株式価値は1,000万円です。

この場合、900万円の経済的利益が給与所得として課税される可能性があります。

給与所得には所得税の累進税率が適用されます。

所得税率は課税所得に応じて5%から45%まで段階的に上昇します。

さらに、復興特別所得税と住民税も考慮する必要があります。

例えば、ほかの給与所得が多く、追加的な900万円の利益に対して所得税33%の税率区分が適用される部分があるとします。

その部分に対する所得税、復興特別所得税、住民税の合計負担率は約43.7%になります。

ただし、900万円全体に同じ税率が適用されるとは限りません。

実際の税額は、ほかの所得、給与所得控除、所得控除、課税所得の税率区分などによって変わります。

ここでは比較のため、900万円全体に約43.7%の負担率が適用されると仮定します。

この場合、税負担は約393万円です。

税制適格の場合の約183万円と比較すると、約210万円の差になります。

これは一定の条件を置いた試算ですが、税制上の区分によって手取り額が大きく変わることを示しています。

税制非適格でも二重課税されるわけではない

税制非適格ストックオプションについて、よくある誤解があります。

権利行使時に給与所得として課税され、株式売却時にも同じ利益に課税されるのではないかという疑問です。

通常、そのような二重課税が生じないように取得費が調整されます。

例えば、100万円で権利行使し、その時点の株式価値が1,000万円だったとします。

権利行使時には900万円が給与所得として課税されます。

その後、株式を1,200万円で売却した場合を考えます。

この場合、株式の税務上の取得費は原則として権利行使時の時価1,000万円となります。

したがって、売却時の譲渡所得は200万円です。

この200万円に対して、株式等の譲渡所得として原則20.315%の税率が適用されます。

つまり、権利行使時までの値上がり益900万円と、権利行使後の値上がり益200万円を分けて課税する仕組みです。

ただし、ストックオプションの種類や付与条件によって課税関係が異なる場合があるため、個別の確認が必要です。

税制適格となるための主な要件

税制適格ストックオプションの優遇を受けるためには、法律に定められた要件を満たす必要があります。

まず、付与対象者について一定の制限があります。

原則として、会社の取締役、執行役、使用人などが対象となり、一定の大口株主などは対象から除外されます。

また、一定の社外高度人材についても、所定の条件を満たせば対象となる制度があります。

次に、権利行使期間の要件があります。

原則として、付与決議の日から2年を経過した日以降、10年を経過する日までの間に権利行使する必要があります。

ただし、一定の設立後間もない企業については、権利行使期間の上限が15年となる特例があります。

年間の権利行使価額にも上限があります。

従来の年間1,200万円という枠に加えて、一定の要件を満たす企業については、年間2,400万円または3,600万円まで拡大されています。

さらに、権利行使価格が契約締結時の株式価値以上であること、権利の譲渡が禁止されていることなども重要な要件です。

取得した株式の保管や管理についても、法令に定められた条件を満たさなければなりません。

これらの要件を一つでも満たさない場合、税制適格としての取扱いが認められない可能性があります。

未上場株式の売却では税制適格要件の維持が重要

今回のエヌストックのサービスでは、未上場企業の従業員がストックオプションに由来する株式を売却できる機会が広がります。

ここで重要なのは、ストックオプションそのものの譲渡と、権利行使によって取得した株式の譲渡は異なるという点です。

税制適格ストックオプションでは、原則として権利自体の譲渡が禁止されています。

したがって、税制適格要件を維持しながら換金する場合には、権利を行使して取得した株式を売却するという手順が基本になります。

ただし、権利行使から売却までの手続きが税制適格要件に適合していることが必要です。

特に、取得株式の保管や管理、権利行使の記録、売却代金の決済方法などについて確認する必要があります。

単に株式を売却できるサービスを利用しただけで、税制上の優遇が自動的に維持されるわけではありません。

企業と従業員は、取引を行う前に税務上の条件を確認することが重要です。

株式の売却価格と税務上の時価は必ずしも一致しない

未上場株式では、売却価格の妥当性も重要な問題です。

上場株式には市場価格がありますが、未上場株式には日々形成される市場価格がありません。

企業価値を評価する際には、純資産、将来の収益力、類似企業の株価、直近の資金調達価格などを参考にすることがあります。

しかし、これらの評価方法によって算出される金額が必ず一致するとは限りません。

例えば、直近の資金調達で投資家が1株20,000円を支払っていたとしても、従業員が保有する普通株式の価値が同じとは限りません。

投資家が取得した株式に優先分配権などの特別な権利が付いている場合には、株式の種類によって価値が異なるためです。

また、売却価格が税務上の時価から大きく乖離している場合には、所得税や法人税などの課税関係が問題になることがあります。

特に、会社、役員、従業員、既存株主などの関係者間で取引する場合には注意が必要です。

取引価格を決定した根拠を記録し、合理的な説明ができるようにしておくことが望まれます。

権利行使に必要な資金と納税資金を確認する

ストックオプションの利益を考える際には、税額だけでなく資金繰りも重要です。

例えば、1,000株を1株1,000円で取得する場合、権利行使には100万円が必要です。

税制適格ストックオプションであれば、通常、権利行使時に課税されないため、当面の資金負担は権利行使代金が中心になります。

一方、税制非適格ストックオプションでは、株式を取得した段階で給与所得課税が生じる可能性があります。

この場合、株式を売却できなければ、現金収入がないにもかかわらず納税資金が必要になることがあります。

未上場株式では、この問題が特に深刻です。

今回のようなセカンダリー取引によって、権利行使と株式売却を円滑に進められれば、資金負担を軽減できる可能性があります。

ただし、取引の成立時期、決済日、源泉徴収の有無、確定申告の必要性などを事前に確認することが欠かせません。

従業員が確認しておきたい税務上の実務

ストックオプションを保有する従業員は、自分の権利がどのような条件で付与されているかを把握する必要があります。

特に重要なのは、税制適格か税制非適格かという区分です。

加えて、付与日、権利行使価格、権利行使期間、行使可能株数、退職時の取扱いなども確認する必要があります。

税制適格であると説明されていても、実際の権利行使方法や株式管理方法が要件に適合していなければ、想定した税務上の取扱いにならない可能性があります。

また、株式を売却した場合には、原則として譲渡所得の申告が必要になることがあります。

未上場株式の譲渡所得は、一般株式等の譲渡所得として取り扱われ、上場株式等の譲渡所得とは原則として別の区分で計算されます。

損失が発生した場合にも、上場株式等との損益通算には制限があります。

税金を含めた手取り額を把握してから、権利行使と売却の判断を行うことが重要です。

結論

ストックオプションは、企業の成長成果を従業員と分かち合うための重要な報酬制度です。

しかし、実際に受け取れる利益は、株式の値上がり額だけでは決まりません。

税制適格か税制非適格かによって、課税時期、所得区分、適用税率が大きく異なります。

同じ900万円の経済的利益であっても、税制適格で株式等の譲渡所得として課税される場合と、税制非適格で給与所得として課税される場合では、手取り額に大きな差が生じる可能性があります。

また、未上場株式の場合には、売却価格の合理性や株式の管理方法など、上場株式とは異なる注意点があります。

今後、未上場株式のセカンダリー市場が拡大すれば、ストックオプションは従来以上に実用的な報酬制度になると考えられます。

一方で、税務上の判断を誤れば、期待していた利益が大きく減少することもあります。

企業側は制度設計の段階から税務要件を確認し、従業員側も権利行使前に税負担と資金繰りを把握することが重要です。

ストックオプションの本当の価値は、権利を保有していることではなく、適切な税務処理を行いながら、その経済的利益を確実に実現できることにあります。

参考

日本経済新聞 2026年10月17日 未上場ストックオプション取引、エヌストックが仲介 社員の換金手軽に

国税庁 ストックオプションに対する課税

国税庁 税制適格ストックオプションの要件

国税庁 株式等を譲渡したときの課税

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