会社が取引先に商品を渡して代金を後から受け取る場合、必ず考えなければならない問題があります。
相手が本当に代金を支払ってくれるのかという問題です。
取引先の経営が悪化して倒産すれば、商品を販売して売上を計上していても、その代金を回収できない可能性があります。
このように、取引相手の事情によって予定していたお金を受け取れなくなる可能性を考えるときに重要になるのが信用リスクです。
そしてキャッシュレス決済が普及すると、信用リスクを考える相手は商品の販売先だけとは限らなくなります。
今回の参考記事では、クレジットカード売上の早期決済代行サービスを手がける会社が破産し、そのサービスを利用していた加盟店に売上代金が入金されない問題が発生しています。
自社の商品やサービスが順調に売れていても、決済に関係する事業者の経営状態によって資金繰りに影響が及ぶ可能性があるのです。
信用リスクとは何か
信用リスクとは、取引相手が契約通りに支払いなどを行えなくなるリスクを考える言葉です。
企業間取引では、商品を渡した瞬間に現金を受け取るとは限りません。
商品を先に納品し、代金は翌月に振り込んでもらうといった取引が広く行われています。
この場合、商品を販売した会社は相手が後から代金を支払ってくれることを前提として取引しています。
ところが相手企業の経営が悪化すれば、予定していた日に代金が支払われない可能性があります。
最悪の場合には、相手企業が倒産して代金の全部または一部を回収できなくなることもあります。
そこで会社は、取引相手に支払能力があるのかを確認する必要があります。
相手を信用して後払いを認める以上、その信用が失われるリスクも考えなければならないのです。
取引先が倒産すると売上代金を回収できないことがある
たとえば会社が取引先へ1000万円の商品を販売したとします。
代金は1カ月後に受け取る契約です。
商品を販売すれば売上は発生します。
しかし、その時点では1000万円の現金を受け取っているわけではありません。
1カ月後に取引先が代金を支払って初めて、売上代金を現金として回収できます。
ところが入金前に取引先が倒産したらどうなるでしょうか。
商品はすでに渡しています。
売上も発生しています。
それでも1000万円を予定通り回収できない可能性があります。
その会社自身の営業成績とは別のところで、資金繰り問題が発生するわけです。
これが信用リスクの怖さです。
キャッシュレス決済では決済事業者も関係する
信用リスクというと、通常は商品を販売した取引先について考えがちです。
しかし今回の参考記事は、それだけではないことを示しています。
記事で取り上げられた全東信は、飲食店を中心とするクレジットカード加盟店に対して、カード会社に先行して売上代金を入金するサービスを提供していました。
さらにカード会社から加盟店の募集業務も受託し、ピーク時の加盟店数は20万店に達していました。
店舗から見れば、顧客への商品やサービスの提供は終わっています。
顧客もカードを使って支払いをしています。
しかし、店舗が実際に売上代金を受け取るまでには決済に関係する事業者が存在します。
つまり店舗にとっては、商品を購入した顧客だけでなく、売上代金の入金に関係する事業者の信用も重要になる場合があるのです。
決済事業者の経営悪化が加盟店へ波及する
今回の参考記事では、全東信の経営が悪化していった経緯も紹介されています。
スマートフォン決済の普及を背景に、キャッシュレス決済を提供する新興の決済サービス会社が相次いで市場に参入しました。
競争が激しくなったことで、全東信は加盟店をつなぎとめるために手数料率を引き下げ、その結果として収益率が低下しました。
さらに2020年以降は新型コロナウイルス感染症の拡大によって、加盟店である飲食店が時短や休業を余儀なくされました。
2021年3月期の年収入高は約50億円まで減少し、その後も加盟店の維持や獲得に支障を来して大幅な赤字が続いたとされています。
決済サービスを利用する店舗からすれば、自分の店が繁盛しているかどうかだけでなく、売上代金の入金を担う事業者の経営状態も無関係ではないということです。
信用問題が資金調達にも影響する
企業の信用力が低下すると、その影響は顧客との取引だけにとどまらない場合があります。
参考記事では、2024年1月、飲食店の加盟店契約を他人名義で結んだとして全東信の社員らが逮捕され、その後、会社も組織犯罪処罰法違反の疑いで書類送検されたとされています。
その後も信用は回復せず、資金調達にも支障を来すなかで先行きの見通しが立たなくなり、2026年7月に自己破産に追い込まれました。
ここから分かるのは、企業にとって信用そのものが資金調達や事業継続に関係するということです。
業績だけではなく、信用問題によって金融機関などから必要な資金を調達しにくくなれば、経営状態がさらに悪化する可能性があります。
そして決済事業者の場合、その影響がサービスを利用する多数の加盟店へ広がることがあります。
加盟店自身が健全でも被害を受ける
今回の事例で重要なのは、決済サービスを利用していた加盟店自身に問題がなくても影響を受ける可能性があることです。
参考記事では、全東信のサービスを利用していた加盟店の中に、最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗が出たとされています。
さらにカード決済が利用できなくなることで客離れを招き、資金繰りに支障を来す事業者が多数出てくる可能性も指摘されています。
飲食店自身が赤字だったから売上代金が入らなくなったわけではありません。
飲食店の顧客が代金を支払わなかったわけでもありません。
決済に関係する別の事業者が経営破綻したことによって影響を受けています。
自社が健全であれば安全とは限らないところに、企業間取引における信用リスクの難しさがあります。
キャッシュレス時代は信用リスクの対象が広がる
現金商売であれば、お金の流れは比較的単純です。
顧客が店舗へ現金を支払い、店舗がその現金を受け取ります。
ところがキャッシュレス決済では、顧客と店舗の間に複数の事業者が関係する場合があります。
便利な仕組みである一方、自社の売上代金が第三者を経由することになります。
そのため店舗経営者は、決済手数料や入金スピードだけを見るのではなく、誰が売上代金の入金に関係しているのかを把握することが重要になります。
ただし、今回の参考記事には、加盟店が決済事業者の信用力を具体的にどのような指標で確認すべきかまでは記載されていません。
少なくとも今回の事例からは、売上代金の流れに関係する会社の経営悪化が、加盟店の資金繰りにまで波及する可能性があることが分かります。
信用リスクは連鎖する
信用リスクが怖い理由の一つは、一社だけの問題で終わらないことです。
ある会社が倒産します。
その会社から代金を受け取る予定だった会社にお金が入らなくなります。
その会社も仕入先への支払いや給与の支払いが難しくなります。
こうして一社の経営破綻が別の会社の資金繰りへ波及することがあります。
今回の参考記事でも、全東信の破産によって、小規模、零細の飲食店を中心に連鎖倒産の発生が懸念されています。
特に物価高や人手不足などによって、もともと厳しい経営環境にある小規模事業者では、予定していた売上代金が入らない影響が大きくなる可能性があります。
信用リスクとは、単に取引相手を信用できるかという問題ではありません。
自社の資金繰りを守るための重要な経営管理の問題なのです。
結論
信用リスクとは、取引相手が契約通りに支払いなどを行えなくなり、予定していたお金を受け取れなくなる可能性を考えるものです。
従来は、商品を掛け売りする取引先の経営状態を確認することが代表的な信用管理でした。
しかしキャッシュレス決済が普及すると、自社の売上代金に関係する事業者も重要になります。
店舗が商品やサービスを販売し、顧客がすでに代金を支払っていたとしても、決済に関係する事業者が経営破綻すれば、店舗への入金に影響する場合があります。
今回の参考記事は、決済サービス会社の破産が多数の加盟店の資金繰り問題へ波及する可能性を示しています。
キャッシュレス化によって決済が便利になるほど、その裏側では多くの事業者がお金の流れに関係するようになります。
自社が順調に経営できているかを見るだけではなく、自社のお金が誰を経由して入ってくるのかを見ることも重要です。
キャッシュレス時代には、信用リスクを考える範囲も広がっているのです。
参考
企業実務 2026年9月 キャッシュレス時代の盲点 懸念される小規模飲食店の連鎖倒産