残業時間というと、労務管理のための数字というイメージがあります。
時間外労働の上限を超えていないかを確認し、問題があれば是正する。もちろん、法令を守ることは企業にとって重要です。
しかし、参考記事が示しているのは、残業時間を単なる法令順守の数字として見るだけでは不十分だということです。
残業時間には、現在の組織がどれだけ仕事を抱えているのか、そして新しい仕事を引き受ける余力がどれだけ残っているのかという情報も表れます。
残業時間を経営の視点から見ることで、労務データは経営判断の材料へ変わります。
残業時間は労務管理だけの数字ではない
労務担当者にとって、残業時間の管理は重要な仕事です。
長時間労働を防ぎ、法律で定められたルールを守る必要があります。
ところが、経営者が残業時間の上限規制ができた背景まで理解していなければ、残業時間が大幅に増えていると報告されても、その問題の深刻さを十分に認識できないことがあります。
参考記事では、経営者の頭の中に労務を理解するための枠組みがなければ、残業時間の問題について危機意識を持ちにくく、短絡的な対症療法に向かう可能性が指摘されています。
そこで必要になるのが、残業時間という数字を経営の言葉に置き換えることです。
上限規制だけを説明しても伝わりにくい
残業時間について、
上限を超えてはいけません。
法律で決まっています。
という説明だけをすれば、経営者には会社の行動を制限するルールとして受け取られる可能性があります。
参考記事では、労務が経営者にとって、やってはいけないことを並べたもののように見えてしまう問題が取り上げられています。
これでは、労務を積極的に経営課題として議論しようという発想につながりにくくなります。
重要なのは、なぜ長時間労働を放置してはいけないのかまで伝えることです。
長時間労働には人の心身への弊害があり、場合によっては訴訟リスクにもつながるため、規制の背景まで理解すれば経営者も問題を認識しやすくなるというのが参考記事の考え方です。
残業時間から組織の余力を見る
さらに一歩進めると、残業時間は組織の余力を見るための情報になります。
たとえば、ある部署の残業時間が継続的に増えているとします。
その原因として、人員が足りていない可能性があります。
仕事そのものが増えている可能性もあります。
一部の社員に仕事が集中している可能性もあるでしょう。
こうした状態でさらに新しい仕事を増やせば、組織への負担は一段と大きくなります。
つまり残業時間を見ることで、
現在の組織にどれだけ余裕があるのか。
さらに仕事を増やせるのか。
という経営上の問題を考えることができます。
人手不足との関係を考える
残業時間の増加を考えるとき、人手不足との関係も重要です。
人が足りなければ、一人当たりの仕事が増えます。
仕事が増えれば、残業時間が長くなる可能性があります。
現場が疲弊すれば、人材の定着にも影響します。
そして人が辞めれば、残された社員の仕事がさらに増えることになります。
参考記事では、人材の採用や定着を図れない企業では現場が疲弊し、離職率が上がれば採用コストもさらに膨らむという問題意識が示されています。
残業時間の増加は、それだけで完結する問題ではありません。
人手不足や離職など、ほかの労務問題と結びついている可能性があるのです。
新規事業を始められる状態なのか
経営者が新しい事業への進出を考えているとします。
市場環境だけを見れば、大きなビジネスチャンスかもしれません。
しかし、その事業を実行するのは人です。
既存事業を担当する社員がすでに長時間働いているのであれば、新規事業の仕事を追加することで組織がさらに疲弊する可能性があります。
そこで残業時間が経営判断の材料になります。
社員に十分な余力があるのであれば、新しい事業へ人を配置できるかもしれません。
余力がなければ、新しい人材を採用する必要があるかもしれません。
社内で人材を育成するという方法も考えられます。
参考記事では、新しい分野へ進出する際、外部から即戦力を採用するのか、社内の人材に必要な能力を身につけてもらうのか、外部企業との連携を使うのかといった選択肢が示されています。
これらは事業戦略であると同時に、人に関する経営判断でもあります。
残業を減らせばよいとは限らない
ここで注意したいのは、残業時間という数字だけを機械的に減らせば問題が解決するわけではないことです。
残業時間が増えたから仕事を別の部署へ移す。
担当者を変更する。
残業を禁止する。
こうした対応だけでは、根本的な問題が残る場合があります。
そもそも仕事量に対して人員が足りないのであれば、人員配置や採用まで考える必要があります。
業務そのものに無駄があるのであれば、仕事の進め方を変える必要があります。
経営者に十分な危機意識がなければ、現場が根本的な問題を把握していても抜本的な対策を打ちにくいという点も、参考記事で指摘されています。
残業時間は問題そのものというより、組織の問題を知らせる信号として見ることが大切です。
残業時間を経営の言葉へ翻訳する
労務担当者が、
残業時間が増えています。
と報告するだけでは、経営判断にはつながりにくいでしょう。
そこで、
この状態が続けば組織の余力がなくなる可能性があります。
この部署に新しい仕事を追加するには人員補充が必要です。
現在は新規事業より組織の立て直しを優先した方がよい状態です。
というように、経営判断につながる形へ翻訳します。
参考記事では、残業時間などを組織がどれだけアクセルを踏める状態かという形に翻訳することで、経営と労務が同じ土俵に立てるという考え方が示されています。
この翻訳こそ、これからの労務担当者に求められる重要な役割です。
結論
残業時間は、法律を守るためだけに確認する数字ではありません。
残業時間の変化を見ることで、組織にどれだけ仕事が集中しているのか、人員に余力があるのか、さらに新しい仕事を増やせるのかを考えることができます。
重要なのは、残業時間が何時間だったかだけを見ることではありません。
その数字がなぜ増えたのか。
その状態が続けば組織に何が起きるのか。
そして経営として何をするべきなのか。
そこまで考えることです。
残業時間を会社を縛る数字ではなく、会社がどれだけアクセルを踏める状態なのかを測る数字として見る。
そう考えれば、残業時間は労務管理の指標から、経営判断を支える指標へ変わっていくのです。
参考
企業実務 2026年9月号 経営を縛るのではなく経営判断に資する労務を目指せ