歩かない高齢者をどう支えるか フレイル予防は日常生活から

人生100年時代
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高齢になると、若い頃と比べて歩く機会が少なくなりがちです。

仕事を退職すれば通勤がなくなります。子どもが独立すれば送り迎えも減ります。買い物や通院に車を使えば、日常生活の中で歩く場面はさらに少なくなります。

厚生労働省は、高齢者について歩行と同程度以上の身体活動を1日40分以上行うことを推奨しており、歩数では1日6,000歩以上が一つの目安となります。

しかし、高齢者に単純に「もっと歩きましょう」と呼びかけるだけでは十分ではありません。

大切なのは、運動のために歩くことだけではなく、買い物や外出、人との交流など、日常生活そのものを続けることです。

高齢社会では、歩くことをフレイル予防という視点から考える必要があります。

フレイルとは何か

フレイルとは、年齢を重ねることによって心身の機能が低下し、健康な状態と介護が必要な状態の中間にある状態を指します。

筋力が低下する。

歩く速度が遅くなる。

疲れやすくなる。

外出が減る。

食事量が減る。

人との交流が少なくなる。

こうした変化が重なっていくことがあります。

重要なのは、フレイルが身体だけの問題ではないことです。

身体活動、栄養、社会参加などが互いに関係しています。

そのため、歩数だけを増やせばすべて解決するわけではありません。

退職すると通勤という運動がなくなる

現役時代には、本人が意識しなくても一定の身体活動があります。

駅まで歩く。

会社の中を移動する。

昼食に出掛ける。

取引先を訪問する。

帰宅途中に買い物をする。

ところが退職すると、こうした活動が一度になくなることがあります。

通勤時間がなくなり自由な時間は増えますが、同時に毎日繰り返していた身体活動も失われます。

特にデスクワーク中心だった人でも、通勤や職場内の移動によって一定の歩数を確保していた可能性があります。

退職後の健康を考えるときには、仕事がなくなることで失われる身体活動にも目を向ける必要があります。

歩かないから外出しないのか

高齢者の歩数が減る過程には、循環があります。

体力が落ちる。

歩くことがおっくうになる。

外出が減る。

さらに歩かなくなる。

筋力が低下する。

ますます外出が難しくなる。

この循環が続けば、行動範囲は少しずつ狭くなっていきます。

最初は遠くへ出掛けなくなるだけだったものが、やがて近所への買い物も減り、最後には自宅から出ること自体が少なくなる可能性があります。

だからこそ、歩数が大きく減る前の段階で日常的な外出を維持することが重要になります。

買い物は優れた日常運動になる

高齢者の身体活動を考えるとき、特別な運動だけに注目する必要はありません。

例えば買い物です。

自宅から外へ出る。

店舗まで移動する。

店内を歩く。

商品を探す。

商品を手に取る。

荷物を持って帰る。

これらはすべて身体活動です。

さらに、店員や知人と会話することもあります。

買い物は身体活動だけでなく、社会との接点にもなります。

宅配サービスは生活を支える重要な仕組みですが、すべてを宅配に置き換えると、これまで買い物によって生まれていた外出機会が失われる場合もあります。

便利さと身体活動を両立させる視点が必要です。

散歩の目的を健康だけにしない

健康のために毎日散歩してくださいと言われても、目的もなく歩き続けることが苦手な人もいます。

そこで、歩くこと自体を目的にしない方法があります。

図書館へ行く。

喫茶店へ行く。

スーパーへ行く。

公園へ行く。

友人に会う。

地域活動へ参加する。

目的地があれば、歩くことは移動手段になります。

健康のために歩くのではなく、やりたいことをするために歩いた結果、身体活動が増えるわけです。

健康に関心が薄い人にも取り入れやすい方法です。

社会参加もフレイル予防につながる

高齢者の健康を身体だけで考えることはできません。

外出すれば人と会う可能性があります。

地域活動に参加すれば会話が生まれます。

趣味の集まりへ行けば予定ができます。

予定があれば外出する理由になります。

外出すれば歩きます。

つまり、社会参加が身体活動につながることがあります。

逆に人との交流が減れば、外出する理由そのものが減ってしまう可能性があります。

高齢者の歩数を増やす政策では、ウオーキングイベントだけでなく、人が外出したくなる場所や機会をつくることも重要です。

車を使っても構わない

地方では高齢者にも自動車が欠かせない地域があります。

そのため、歩数を増やすために車を使わないよう求めるのは現実的ではありません。

車で公園まで行って散歩する。

車で商業施設へ行って店内を歩く。

車で地域活動の会場まで行く。

こうした方法でも身体活動は生まれます。

大切なのは、移動手段が車か徒歩かではありません。

外出した結果として身体を動かしているかです。

地方では車と歩行を組み合わせる方が、継続しやすい場合があります。

免許返納後の外出をどう守るか

高齢者の運転では安全性も重要な課題です。

一定の段階で免許返納を選択する人もいるでしょう。

しかし、その後の移動手段がなければ外出そのものが減る可能性があります。

家族による送迎だけに頼る。

買い物をすべて宅配にする。

通院以外は外出しなくなる。

こうした生活になれば、身体活動や社会参加が減ってしまう可能性があります。

免許返納を交通安全だけの問題として考えるのではなく、その後の生活まで含めて考える必要があります。

バス、鉄道、乗り合い交通などの移動手段は、高齢者の健康を支えるインフラという意味も持っています。

歩ける街には休める場所が必要

高齢者に歩いてもらうためには、単に歩道を整備するだけでは足りません。

途中で座れるベンチがある。

日陰がある。

トイレが利用できる。

道路を安全に横断できる。

段差が少ない。

夜間でも安心して歩ける。

こうした環境が重要です。

若い人にとっては小さな問題でも、高齢者にとっては外出するかどうかを左右する条件になることがあります。

長い距離を歩ける人を増やすだけでなく、体力に合わせて休みながら歩ける街をつくる必要があります。

歩数だけを競わせない

高齢者の健康づくりでも、歩数を数字だけで評価することには注意が必要です。

毎日1万歩を歩く人が健康で、4,000歩の人が努力不足という単純な話ではありません。

年齢や体力、身体の状態によって適切な活動量は異なります。

昨日より少し外出した。

以前より買い物へ行くようになった。

週に1回だった地域活動が2回になった。

こうした変化にも意味があります。

歩数は健康づくりの目的ではなく、身体活動を見る一つの指標として利用する方がよいでしょう。

デジタル化との付き合い方も重要になる

これからの高齢社会では、生活のデジタル化がさらに進むでしょう。

買い物はオンラインでできます。

銀行手続きもスマートフォンでできます。

行政手続きも自宅からできます。

診療の一部もオンライン化できます。

高齢者にとって便利になる一方、これまで外出しなければできなかった用事が自宅で完結するようになります。

デジタル化によって時間や負担を減らしながら、失われる外出機会を別の形で補うという発想が必要になります。

便利な社会ほど、意識しなければ歩かなくても生活できるからです。

長寿社会では歩ける期間が重要になる

人生が長くなれば、単に何歳まで生きるかだけではなく、何歳まで自分で移動できるかが重要になります。

自分で買い物へ行ける。

自分で病院へ行ける。

友人に会いに行ける。

旅行へ行ける。

こうした生活を続けるためには、移動する力をできるだけ長く維持する必要があります。

歩くことは単なる運動ではありません。

自立した生活を支える基本的な能力でもあります。

高齢期の歩行を考えることは、老後の生活の自由を考えることでもあります。

結論

高齢者の歩数を増やすために必要なのは、「健康のためにもっと歩きましょう」という呼びかけだけではありません。

買い物へ行く。

友人に会う。

地域活動へ参加する。

図書館へ行く。

公園へ行く。

こうした普通の生活を続けることが、結果として身体活動につながります。

重要なのは、運動を生活に追加することより、身体を動かす生活そのものを失わないことです。

そして、その生活を支えるためには、本人の努力だけでなく、公共交通、商業施設、歩道、休憩場所、地域コミュニティなども必要になります。

高齢社会におけるフレイル予防とは、高齢者を運動させることだけではありません。

何歳になっても出掛ける理由があり、自分の力で移動し、人とつながることのできる生活を守ることなのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月6日朝刊 歩かぬ地方、都市との差1日30分 「スニーカービズ」通勤で歩数稼げ

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