株価が上昇すると、「家計が豊かになった」と表現されることがあります。
確かに株式や投資信託を持っている人にとって、株高は金融資産の増加につながります。
しかし、すべての人が同じように豊かになるわけではありません。
100万円を投資している人と1000万円を投資している人では、同じ10パーセントの値上がりでも増える資産額は大きく違います。
さらに、そもそも株式を持っていない人には株高による直接的な値上がり益はありません。
株価の上昇は家計全体の金融資産を増やす一方で、資産格差を広げることもあるのです。
資産価格上昇とは何か
株式や投資信託などの価格が上がることを資産価格の上昇と考えることができます。
例えば、1万円で買った株式が1万1000円になれば、価格は10パーセント上昇しています。
売却していなくても、保有している資産の評価額は増えます。
投資信託についても、組み入れている株式などの価格が上昇すれば基準価額が上がる可能性があります。
NISAなどを通じて株式や投資信託を保有している人にとって、株高は資産形成を後押しする要因になります。
しかし、重要なのは上昇率だけではありません。
最初にいくら持っていたかによって、増える金額が変わるからです。
100万円と1000万円では利益額が違う
分かりやすくするため、100万円を投資している人と1000万円を投資している人を比べてみます。
どちらも保有資産が10パーセント値上がりしたとします。
100万円の10パーセントは10万円です。
1000万円の10パーセントは100万円です。
同じ10パーセントの株高でも、一方は10万円増え、もう一方は100万円増えます。
値上がり率は平等でも、値上がり額は平等ではありません。
もともと保有する金融資産が多い人ほど、同じ上昇率から得られる金額も大きくなります。
株を持っていない人には値上がり益がない
さらに大きな違いは、金融資産を持っている人と持っていない人の間にあります。
例えば、株式や投資信託を1000万円持っている人の資産が10パーセント上昇すれば、評価額は100万円増えます。
一方、預貯金だけを持ち、株式や投資信託をまったく保有していない人には、株価上昇による直接的な評価益はありません。
もちろん、株高が企業業績や賃金などを通じて間接的に家計へ影響する可能性はあります。
しかし、金融市場の値上がりを直接資産増加として受け取るのは、基本的にはその資産を保有している人です。
この違いが資産格差を考えるうえで重要になります。
家計金融資産が増えても全員が同じように豊かになるわけではない
日本全体の家計金融資産が増加すると、家計部門が豊かになったように見えます。
しかし、家計金融資産の総額は日本のすべての家計が持つ金融資産を合計した数字です。
誰がどのくらい持っているのかまでは分かりません。
一部の人が多額の株式を持ち、その株価が大きく上昇すれば、家計金融資産全体も増えます。
一方で、金融資産をほとんど持っていない人の状況が変わっていないこともあります。
そのため、「家計金融資産が増えた」ということと、「多くの家計が同じように豊かになった」ということは分けて考える必要があります。
株高は平均金融資産も押し上げる
前回までに見てきた平均値の問題も、ここに関係します。
例えば10人のうち1人が多額の株式を持っているとします。
株価が上昇してその人の金融資産が大きく増えれば、10人全体の平均金融資産も上昇します。
しかし、残り9人の金融資産がまったく増えていないこともあります。
平均金融資産だけを見ると、集団全体が豊かになったように見える可能性があります。
株高の局面ほど、平均値だけでなく中央値やジニ係数なども合わせて見ることが重要になります。
若者の間でも差が生まれる
この問題は高齢者や富裕層だけの話ではありません。
NISAの普及によって若い世代にも投資が広がっているからです。
例えば25歳の時点で、すでに300万円を株式や投資信託で運用している人がいるとします。
一方、生活費や奨学金返済などで投資する余裕がなく、金融資産がほとんどない人もいます。
その後10年間に株式市場が上昇すれば、前者は積立投資に加えて、それまでに保有していた資産からも値上がり益を得る可能性があります。
後者が数年後に投資を始めても、それまでの資産価格上昇の恩恵を同じように受けることはできません。
若いうちの資産保有の差が、その後の株高によって拡大する可能性があるのです。
複利によって差がさらに続く
株高によって生まれた利益をそのまま運用すれば、その増えた資産も次の運用の元本になります。
例えば1000万円が1100万円になり、その1100万円を引き続き運用すれば、次は1100万円を基準として値動きします。
資産が増えれば、その後の同じ上昇率から得られる金額も大きくなります。
これは前回取り上げた複利にもつながる考え方です。
資産を多く持つ人ほど値上がりによる利益額が大きく、その利益を再投資すればさらに大きな資産を運用できるようになります。
長期的には、この循環が資産格差を広げる一つの要因になる可能性があります。
株価が下がれば逆のことも起きる
ただし、株高が資産を持つ人に常に有利というわけではありません。
株価が下落すれば、多額の株式を持つ人ほど金額ベースでは大きな損失を抱える可能性があります。
100万円の資産が20パーセント下落すれば20万円の減少です。
1000万円なら200万円減少します。
金融資産を多く持つ人は、上昇時の恩恵が大きい一方、下落時の価格変動も大きくなります。
株式投資にはこの両面があります。
したがって、株高が永遠に続くことを前提として資産形成を考えることはできません。
資産を持つこと自体が重要になる時代
それでも長期的な資産形成を考えると、給与だけではなく金融資産を持つ意味は大きくなっています。
働いて得た所得の一部を貯蓄し、余裕資金を少しずつ株式や投資信託などへ振り向けることで、企業の成長や経済成長の成果を資産価格の上昇などを通じて受け取れる可能性があります。
NISAが重要なのも、これまで投資をしていなかった人が少額から金融資産を持つ入口になり得るからです。
ただし、生活防衛資金まで投資する必要はありません。
家計を安定させたうえで、長期間使わない余裕資金を投資するという順番が重要です。
結論
株高は家計の金融資産を増やす大きな要因になります。
しかし、その恩恵はすべての人に同じ金額で配られるわけではありません。
100万円を投資している人と1000万円を投資している人では、同じ10パーセント上昇でも増える金額は10万円と100万円です。
そもそも株式や投資信託を持っていなければ、株高による直接的な値上がり益はありません。
このため、株価上昇によって家計全体の金融資産が増える一方、金融資産を持つ人と持たない人の格差が広がることがあります。
特に若い世代では、早くから投資を始められるかどうかが、その後何十年もの資産形成に影響する可能性があります。
株価が何パーセント上がったかだけを見るのではなく、その資産を「誰が、いくら持っているのか」を見ることが重要です。
株高と資産格差の関係を理解すると、家計金融資産が増えているというニュースの見え方も変わってくるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 若者の金融資産、格差拡大