クレジットカードで売上が発生しても、店舗がその場で現金を受け取れるわけではありません。
カード決済では、顧客が支払ってから加盟店に売上代金が入金されるまでに時間差があります。
特に飲食店のように、日々の仕入代金や人件費などの支払いが発生する事業では、この時間差が資金繰りの負担になることがあります。
そこで利用されることがあるのが、カード会社から売上代金が入るより前に加盟店へ資金を入金する早期決済代行サービスです。
今回の参考記事で取り上げられた全東信も、飲食店を中心とするクレジットカード加盟店に対して、カード会社に先行して売上代金を入金するサービスを提供し、手数料収入を得ていました。
便利な仕組みですが、売上代金を早く受け取るということは、その間に別の事業者が入ることでもあります。
早期決済とは何か
早期決済とは、将来入金される予定のカード売上について、通常の入金時期より早く加盟店が資金を受け取れる仕組みです。
たとえば飲食店で今日100万円のカード売上が発生したとします。
店舗から見れば100万円の売上です。
しかし、カード会社などから実際にその売上代金が入金されるのが後日であれば、その間は100万円を自由に使うことができません。
そこで早期決済代行サービスを利用します。
通常より早い時点で売上に対応する資金を受け取ることで、店舗は仕入代金や人件費などの支払いに充てることができます。
つまり早期決済の本質は、売上そのものを増やすことではありません。
すでに発生した売上について、現金を受け取るタイミングを早めることにあります。
通常のカード売上との違い
通常のカード決済でも、加盟店は一定の入金サイクルに従って売上代金を受け取ります。
したがって、通常通り待つことができるのであれば、必ずしも売上代金を早く受け取る必要はありません。
問題になるのは、その間に支払いが発生する場合です。
飲食店で考えてみます。
料理を提供するためには、先に食材を仕入れる必要があります。
従業員には給与を支払います。
店舗の家賃や水道光熱費なども発生します。
一方、カード売上の代金は後から入ってきます。
つまり支払いが先で、売上代金の回収が後になることがあります。
早期決済代行サービスを利用すると、この時間差を短くできます。
通常のカード決済との大きな違いは、最終的に受け取る売上を増やすことではなく、資金を使える時期を早めることなのです。
手数料を払って早く受け取る仕組み
当然ながら、売上代金を早く受け取るサービスを無料で利用できるとは限りません。
今回の参考記事では、全東信はカード会社に先行して加盟店へ売上代金を入金し、そのサービスによって手数料収入を得ていたとされています。
加盟店側から見ると、将来受け取る売上代金を早く利用できる代わりに手数料を負担する関係になります。
たとえば将来100万円を受け取る予定があるとしても、今すぐ資金が必要なら、一定のコストを負担してでも早く現金を確保することに意味があります。
ここで重要なのは、手数料を単なる損失として考えないことです。
資金を早く受け取れること自体に経済的な価値があります。
一方で、手数料が大きくなれば店舗の利益を圧迫します。
したがって店舗は、早期入金によって得られる資金繰り上のメリットと、そのために支払う手数料を比較する必要があります。
飲食店が利用する理由
早期決済代行サービスと飲食店は相性のよい組み合わせといえます。
飲食店では毎日のように仕入れが発生します。
売上が増えれば、その分だけ食材の仕入れも増えることがあります。
さらに給与、家賃、水道光熱費など、定期的にまとまった支払いがあります。
現金決済が中心であれば、日々の売上から一定の現金が手元に入ります。
ところがキャッシュレス決済の割合が高くなると、売上が発生しても、その売上代金の一部は入金待ちになります。
帳簿上では繁盛しているのに、銀行口座には十分なお金がないということも起こり得ます。
早期決済代行サービスを利用すれば、この時間差を短縮できます。
小規模な飲食店ほど手元資金に余裕がない場合があるため、売上代金を早く受け取れることには大きな意味があります。
キャッシュレス化で早期入金の意味が大きくなる
現金決済の割合が高ければ、売上の多くはその場で現金になります。
しかし、キャッシュレス比率が上昇すると状況が変わります。
仮に1日の売上が50万円ある飲食店で、そのほとんどが現金なら、営業終了時には相応の現金が店舗にあります。
一方、その大部分がカード決済になれば、売上は50万円あっても、同じ日に50万円の現金が手元に増えるわけではありません。
キャッシュレス化が進むほど、売上が発生する時点と現金を回収する時点の違いが重要になります。
今回の参考記事でも、全東信は飲食店を中心とする加盟店に早期決済サービスを提供し、ピーク時の加盟店数は20万店に達していたとされています。
売上代金を早く現金化したいという需要が、小規模事業者を中心に存在していたことがうかがえます。
便利なサービスにも信用リスクがある
早期決済代行サービスを利用すると資金繰りは改善しやすくなります。
しかし、もう一つ考えなければならない問題があります。
誰が売上代金を早く支払ってくれるのかということです。
今回の参考記事では、全東信は競争激化による手数料率の引下げなどによって収益率が低下しました。
さらに新型コロナウイルス感染症の拡大で、主要な加盟店である飲食店が時短や休業を余儀なくされ、同社も加盟店の維持や獲得に支障を来し、大幅な赤字が続いたとされています。
その後、信用問題なども発生し、資金調達に支障を来すなかで2026年7月に自己破産しました。
その結果、サービスを利用していた加盟店の中には、最大で1カ月分の売上代金が入金されない店舗も出たとされています。
資金繰りを安定させるために利用していたサービスが、その提供会社の経営破綻によって逆に資金繰りを悪化させる原因になったわけです。
入金の速さだけで選んではいけない
店舗が早期決済代行サービスを利用するときには、入金までの日数や手数料に目が向きやすくなります。
もちろん、どれだけ早く入金されるのか、どれだけのコストがかかるのかは重要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
売上代金という事業にとって重要なお金に関係する以上、サービスを提供する事業者の信用力も重要になります。
入金が1日早くなるメリットよりも、予定していた売上代金そのものが入ってこなくなるリスクの方がはるかに大きい場合があります。
キャッシュレス時代には、決済サービスを選ぶことが資金管理の一部になります。
早いか。
安いか。
便利か。
それだけではなく、安心して売上代金の流れを任せられる相手なのかという視点も必要になります。
結論
早期決済代行サービスとは、カード会社などから通常の売上代金が入金されるより前に、加盟店が資金を受け取れる仕組みです。
店舗は一定の手数料を負担する代わりに、売上代金を早く利用できるようになります。
特に飲食店では、食材の仕入れ、人件費、家賃などの支払いが続くため、売上と入金の時間差を短くすることには大きな意味があります。
キャッシュレス化が進むほど、売上が発生する時点と現金を受け取る時点は離れやすくなります。
そのため早期入金には資金繰りを改善する効果があります。
一方、早期決済代行会社が経営破綻すれば、資金繰りを改善するために利用していた仕組みが、逆に入金停止という大きなリスクになることがあります。
売上代金を早く受け取れることだけではなく、誰を経由してそのお金を受け取るのかまで確認することが、キャッシュレス時代の資金管理では重要なのです。
参考
企業実務 2026年9月 キャッシュレス時代の盲点 懸念される小規模飲食店の連鎖倒産