減税や社会保障、防衛費などの政策を議論するとき、よく登場する言葉が恒久財源です。
政府が新しい政策を始めれば、その政策を続けるためのお金が必要になります。1年だけの政策なら一時的な収入で対応できる場合がありますが、毎年続く政策を一時的な収入だけで支えることには無理があります。
そこで重要になるのが、毎年度継続して確保できる恒久財源です。
政府は2027年4月から2年間、食料品の消費税率を1%に引き下げる方針を示しています。年間5兆円規模の財源について、租税特別措置や補助金の見直し、外国為替資金特別会計の剰余金などが候補になっています。
2年間限定だから一時的な財源でもよいのか。それとも将来の政策まで考えて恒久財源を確保する必要があるのか。
財政政策を見るうえで、この違いを理解することは非常に重要です。
恒久財源とは何か
恒久財源とは、継続的な政策に必要な支出を安定して賄うことができる財源をいいます。
典型的なのが税収です。
所得税
法人税
消費税
固定資産税
などは、経済状況によって金額は変動しますが、制度が存在する限り毎年度収入が発生します。
例えば新しい社会保障制度によって毎年1兆円の支出が増えるとします。
それに対応して毎年1兆円程度の税収や恒常的な歳出削減を確保できれば、制度を継続しやすくなります。
これが恒久財源を確保するという基本的な考え方です。
一時的な財源とは何が違うのか
これに対して、毎年同じように確保できるとは限らない収入があります。
例えば、
国有財産の売却収入
特別会計の一時的な剰余金
積立金の取り崩し
予想を上回った税収の上振れ
などです。
こうした収入は特定の年度には大きな財源になることがあります。
しかし、一度使えばなくなるものや、翌年度にも同じ金額が入る保証がないものがあります。
例えば国が保有する土地を1000億円で売却したとします。
その年度には1000億円の収入になります。
しかし、その土地は翌年度にはもう売れません。
毎年1000億円必要な政策の財源として使えば、2年目から新しい財源を探さなければならなくなります。
これが一時的な財源の問題です。
税収は継続性が高い
国の財源の中心は税収です。
税収には景気による変動があります。
企業業績が悪化すれば法人税収が減少することがあります。
賃金や雇用が悪化すれば所得税収にも影響します。
消費が落ち込めば消費税収にも影響します。
それでも税制度そのものが続く限り、翌年度以降も収入が期待できます。
この継続性が重要です。
毎年必要になる歳出には、基本的には毎年確保できる財源を対応させる。
これが財政を安定させる基本的な考え方になります。
税外収入とは何か
国の収入は税金だけではありません。
税金以外の収入を広く税外収入と呼びます。
例えば、政府が保有する資産から得られる収入や、特別会計から一般会計への繰入れなどがあります。
今回の食料品消費税減税で注目されている外国為替資金特別会計の剰余金も、その財源候補の一つです。
外為特会では、政府が保有する外貨資産から利子などの収益が発生します。
そこから必要な費用などを差し引いた剰余金の一部が一般会計へ繰り入れられることがあります。
金額が大きければ有力な財源に見えます。
しかし税収とは大きく性質が異なります。
外為特会の剰余金は毎年同じではない
外為特会の収益は、保有する外貨資産の運用環境や金利、為替などさまざまな要因の影響を受けます。
したがって、毎年必ず一定額の剰余金が発生するとは限りません。
ある年度に多額の剰余金が生じたからといって、その金額を翌年度以降の前提にはできません。
ここが恒久財源との大きな違いです。
臨時的な政策の財源として使うことと、毎年続く制度の財源として使うことでは意味が違います。
一時的な収入を恒久的な支出に充てれば、将来どこかで財源不足が発生する可能性があります。
税収の上振れにも同じ問題がある
景気や企業業績が政府の想定を上回ると、当初の見込みより税収が増えることがあります。
これを税収の上振れと呼ぶことがあります。
予定より税収が数兆円多ければ、そのお金を国民へ還元すべきだという議論が出ることがあります。
しかし注意が必要です。
今年税収が増えたからといって、来年も同じだけ増える保証はありません。
景気が悪化すれば逆に税収が減ることもあります。
一時的な税収増を理由に恒久的な減税を行えば、翌年度以降に財源不足が発生する可能性があります。
その意味では、税収であっても上振れ部分を恒久財源とみなせるとは限りません。
歳出削減も恒久財源になり得る
恒久財源というと増税を思い浮かべるかもしれませんが、必ずしも税収だけではありません。
継続的な歳出削減も恒久財源になり得ます。
例えば毎年5000億円支出している制度を見直し、その支出を恒久的に3000億円へ減らしたとします。
毎年2000億円の財政余力が生まれます。
この2000億円を新しい政策に充てれば、継続的な財源として利用できます。
今回の消費税減税で租税特別措置や補助金の見直しが議論されているのも、この考え方と関係します。
単に一度だけ補助金を減らすのではなく、制度そのものを見直して毎年度の支出を減らせれば、継続的な財源になります。
租税特別措置の見直しも財源になる
租税特別措置とは、特定の政策目的のために通常の税制とは異なる優遇措置を設ける仕組みです。
例えば一定の設備投資をした企業の税負担を軽減する制度などがあります。
こうした優遇措置を縮小・廃止すれば、政府の税収は増えます。
その増収が継続するのであれば、恒久財源として利用できる可能性があります。
ただし、簡単な話ではありません。
租税特別措置には、
設備投資の促進
研究開発の支援
中小企業支援
地域振興
など、それぞれ政策目的があります。
減税財源を確保するために廃止すれば、別の政策効果が失われる可能性があります。
財源確保とは単に不要なお金を探す作業ではなく、政策の優先順位を付け直す作業でもあるのです。
今回は2年間限定だから一時財源でもよいのか
今回の食料品消費税減税は恒久減税ではありません。
2027年4月から2年間限定です。
そのため理論上は、2年間だけ確保できる財源を使うことも考えられます。
例えば2年間で合計10兆円程度の一時的な財源を確実に確保できるのであれば、減税期間だけを見ると収支を合わせることは可能です。
ここが恒久的な社会保障支出などとは異なる点です。
しかし問題は、本当に2年間で終了できるかどうかです。
減税が延長されれば一時財源では足りなくなる
仮に2年間限定の減税財源として10兆円を確保したとします。
予定通り終了すれば、それで計算は合います。
しかし物価高や景気低迷などを理由に1年間延長すると、さらに約5兆円が必要になります。
そこで最初に用意した一時財源を使い切っていれば、新たな財源を探さなければなりません。
さらに延長が続けば、実質的に恒久減税へ近づきます。
そうなれば一時的な剰余金などでは支えられなくなります。
最終的には、
恒久的な歳出削減
他の税収増
別の税制改革
国債発行
などの選択を迫られる可能性があります。
だからこそ期限付き減税でも、出口戦略と財源論をセットで考える必要があります。
新しい給付制度には別の財源問題がある
今回の消費税減税は、2029年度に本格導入する所得に連動した新たな給付制度までのつなぎと位置付けられています。
ここでも恒久財源という考え方が重要になります。
消費税減税は2年間で終了できても、その後の給付制度が恒久的な制度なら毎年財源が必要になります。
つまり財政問題は、
2年間の消費税減税財源
だけでは終わりません。
その後には、
新しい給付制度を何で支えるのか
という問題があります。
一時的な財源で橋を架けても、その先の制度を支える恒久財源がなければ財政問題は解決したことになりません。
財源には金額だけでなく質がある
財源を考えるときには、何兆円確保したという金額だけを見ないことが重要です。
その財源が、
毎年入ってくるのか
一度だけなのか
景気によって大きく変動するのか
他の政策ですでに使う予定なのか
将来も維持できるのか
を見る必要があります。
同じ1兆円でも、毎年安定して入る1兆円と一度しか入らない1兆円では財政上の価値が違います。
これが財源の質という考え方です。
結論
恒久財源とは、継続的な政策を支えるために毎年度安定して確保できる財源です。
税収や恒久的な歳出削減などが代表的です。
一方、特別会計の一時的な剰余金や国有財産の売却収入、税収の一時的な上振れなどは、その年度には財源として利用できても、将来も同じ金額を確保できるとは限りません。
今回の食料品消費税減税は2年間限定なので、一時的な財源を活用する余地はあります。
しかし減税が延長されれば追加財源が必要になります。
さらに、その後に導入する新しい給付制度を恒久的に続けるのであれば、別途安定した財源が必要です。
財源問題で重要なのは、必要な金額をとりあえず集められるかだけではありません。
そのお金が一度限りなのか、毎年確保できるのか。
政策の期間と財源の期間が一致しているのか。
ここまで確認する必要があります。
減税や給付の議論を見るときには、政策の内容だけでなく、その財源が一時財源なのか恒久財源なのかにも注目することで、政策の持続可能性がより見えやすくなるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年8月9日朝刊
減税先行 揺れた政権基盤 歴代内閣、財源確保に難航 赤字国債増の事例も