中小企業の税務調査では、売上計上漏れや経費の私的流用と並んで頻繁に問題になるものがあります。
それが「寄附金課税」です。
寄附金というと、慈善団体への寄付や募金を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし税務上の寄附金はもっと広い概念です。
特にオーナー企業では、会社と経営者個人の距離が近いため、経営者自身も気付かないうちに寄附金課税の問題が生じることがあります。
今回は、同族会社で起こりやすい寄附金課税について考えてみます。
なぜ同族会社で問題が起きやすいのか
同族会社とは、少数の株主や親族が支配している会社です。
中小企業の多くが該当します。
オーナー経営者は、
- 株主
- 代表取締役
- 実質的な経営責任者
を兼ねていることが少なくありません。
そのため、
「自分の会社だから自由に使える」
という感覚になりやすい面があります。
しかし税務上は、
会社と個人は完全に別人格です。
ここを曖昧にすると様々な問題が発生します。
会社が社長個人の費用を負担するケース
最も典型的な事例です。
例えば、
- 自宅の修繕費
- 家族旅行代
- 私的な飲食費
- 個人保険料
- 子どもの学費
などを会社が支払った場合です。
経営者は、
「会社の経費にしても大した問題ではない」
と思うかもしれません。
しかし税務上は、
会社から社長個人への利益供与
として扱われる可能性があります。
親族への無償貸付
同族会社では親族との取引も多く見られます。
例えば、
会社が社長の子どもへ資金を貸し付けた場合です。
しかも、
- 無利息
- 返済期限なし
- 担保なし
であればどうでしょうか。
税務署は、
通常の第三者に対して行う取引か
という視点で判断します。
親族だからという理由だけで有利な条件を与えれば、
利益供与とみなされる可能性があります。
資産の安価譲渡
税務調査で頻繁に問題になるのが資産の譲渡です。
例えば、
時価3,000万円の土地を、
社長や親族へ1,000万円で譲渡した場合です。
会社側から見れば、
単なる売買です。
しかし税務署から見ると、
差額2,000万円分の利益を与えた
と考えられます。
この部分が寄附金認定されることがあります。
親族会社への利益移転
オーナー企業グループでは、
複数の会社を保有していることがあります。
例えば、
利益が出ているA社から、
赤字のB社へ利益を移転するケースです。
- 無償支援
- 無利息貸付
- 過大な外注費
- 不自然な値引き
などが問題になります。
経営者としてはグループ全体の利益を考えていても、
税務上は法人ごとに判断されます。
役員社宅で起こる問題
役員社宅も税務調査で確認される項目です。
適正な家賃を徴収していれば問題ありません。
しかし、
- 豪華な自宅
- 家賃負担が極端に低い
- 個人的な利用が中心
である場合には、
経済的利益の供与と判断されることがあります。
結果として、
役員給与や寄附金の問題へ発展することがあります。
税務署は何を見ているのか
税務署は、
取引の名称ではなく実態を見ています。
例えば、
「貸付金」
という科目で処理していても、
返済意思も返済能力もない場合には、
実質的な贈与と判断されることがあります。
重要なのは、
第三者間でも同じ条件で取引するか
という点です。
同族会社だからこそ証拠が重要
第三者との取引であれば、
通常は契約書や請求書が存在します。
しかし同族会社では、
口約束で処理されることも少なくありません。
税務調査では、
- 契約書
- 議事録
- 稟議書
- 評価資料
- 算定根拠
などが重要になります。
親族間取引ほど、
客観的な証拠が求められます。
税務調査でよく聞かれる質問
税務調査官は次のような質問をします。
- なぜその金額なのか
- なぜその条件なのか
- 第三者にも同じ条件で行うのか
- 会社にどのような利益があるのか
この質問に合理的に答えられなければ、
寄附金認定のリスクが高まります。
オーナー企業が意識すべきこと
オーナー企業では、
会社のお金と個人のお金を明確に区別することが重要です。
会社は経営者の所有物ではありません。
法人という独立した存在です。
その意識を持つだけでも、
寄附金課税の多くは回避できます。
税務調査で問題になるのは、
悪意のある脱税よりも、
「なんとなく行っていた取引」
であることが少なくありません。
結論
同族会社で寄附金課税が起こりやすいのは、会社と経営者個人、あるいは親族との境界が曖昧になりやすいためです。
社長個人への利益供与、親族への無償支援、関連会社への利益移転などは、経営者にとって自然な行為に見えても、税務上は厳しくチェックされます。
税務署が重視しているのは、
「その取引が第三者間でも成立するのか」
という点です。
オーナー企業ほど、取引の合理性と証拠を意識し、会社と個人を明確に区別することが重要です。それが結果として、寄附金課税だけでなく様々な税務リスクを防ぐことにつながるのではないでしょうか。
参考
・東京税理士界 2026年6月1日 第833号 SERIES TAINS解体新書「寄附金を巡る最近の裁判例」
・法人税法第37条(寄附金)
・法人税基本通達(寄附金関係)
・国税庁 同族会社に関する税務取扱い
・国税不服審判所裁決事例集
・最高裁判所および下級審裁判例(同族会社・利益供与関連事案)