日本では少子化が続いています。
子どもの数が減るのであれば、子育て関連の商品やサービスの市場も縮小するように思えます。
確かに、子どもの人数だけで需要が決まる商品では、少子化が市場縮小につながる可能性があります。
しかし、子育て支援市場全体を考えると、必ずしも子どもの数と市場規模が同じように動くとは限りません。
共働き世帯が増え、家事や育児を家庭の中だけで担うことが難しくなれば、これまで家庭内で行われていた仕事を外部サービスへ任せる需要が生まれるからです。
さらに、政府が企業による子育て支援を税制や補助金、融資などで後押しすれば、新しい商品やサービスへの企業参入が進む可能性があります。
少子化が進む一方で、一人の子どもや一つの家庭を支えるサービスが増える。
ここに子育て支援市場を考える重要なポイントがあります。
子育て支援市場とは何か
子育て支援市場という言葉には、非常に幅広い商品やサービスを含めることができます。
例えば、保育サービスがあります。
ベビーシッターや一時預かりもあります。
家事代行、食事宅配、子どもの送迎、見守りサービスなども、子育て世帯の負担を軽くするという意味では関連する市場です。
住宅にも子育て支援という視点があります。
子育てしやすい間取りや共用施設を備えた住宅、見守りや保育サービスと連携した住宅などです。
スーパーやショッピングモール、飲食店でも、授乳室やキッズスペースなどを整えることで子育て世帯にサービスを提供できます。
子育て支援市場は、特定の一業種だけではなく、住宅、小売、金融、保育、外食、ITなどさまざまな産業に広がる可能性があります。
子どもの数と市場規模は同じではない
市場規模を考えるときには、利用者の人数だけでなく、一人当たりの利用額も重要です。
単純化すると、子どもの数が減っても、一人当たりに利用する商品やサービスの金額が増えれば、市場全体が同じ割合で縮小するとは限りません。
例えば、以前は家庭内で行っていた育児を外部サービスへ依頼するようになったとします。
子どもの人数が減っていても、一家庭がベビーシッター、家事代行、宅配、送迎など複数のサービスを利用するようになれば、一家庭当たりの支出は増えます。
子どもの人数だけを見て、子育て市場は必ず縮小すると考えることはできないわけです。
重要なのは、子育ての方法そのものがどのように変化するかです。
共働き世帯の増加が需要を変える
子育て支援サービスへの需要を考えるうえで重要なのが共働きです。
夫婦のどちらかが家事や育児に多くの時間を使う家庭と、夫婦ともに長時間働く家庭では、必要とするサービスが違います。
共働きでは、家事や育児に使える時間が限られます。
保育所があっても、保育所への送迎があります。
仕事が予定より遅くなることもあります。
食事を準備し、買い物をし、洗濯や掃除をする必要もあります。
こうした作業をすべて家庭内で行うのが難しくなれば、外部サービスへの需要が生まれます。
子育て支援市場を拡大させるのは、子どもの人数だけではなく、家庭が持つ時間の不足でもあるのです。
家事育児の外部サービス化とは何か
これまで家庭内で無償で行われていた仕事を、企業などが有料サービスとして提供することがあります。
これを家事や育児の外部サービス化として考えることができます。
例えば、家庭で料理を作っていたものを宅配サービスに任せる。
親が子どもを見ていた時間をベビーシッターに任せる。
家族が行っていた掃除を家事代行会社に依頼する。
保護者が行っていた送迎を外部サービスが担う。
家庭内ではお金のやり取りが発生しなかった仕事が企業のサービスに置き換われば、新しい市場が生まれます。
少子化でも子育て関連サービスが成長する可能性がある理由の一つです。
時間を買うサービスが増える
子育て支援サービスの価値を考えるとき、お金だけでなく時間という視点が重要です。
例えば家事代行サービスを利用すると費用がかかります。
しかし、その代わりに家庭は家事に使っていた時間を得ることができます。
その時間を仕事に使うこともできます。
子どもと過ごすこともできます。
休息に使うこともできます。
共働き世帯にとって、家事や育児サービスは単なる便利なサービスではなく、時間を購入するサービスとしての意味を持ちます。
所得が高くても時間が不足している家庭が増えれば、こうした市場は拡大する可能性があります。
企業向けの子育て支援市場もある
子育て支援サービスの顧客は家庭だけとは限りません。
企業も顧客になる可能性があります。
例えば企業が従業員向けにベビーシッターサービスを契約する場合です。
従業員個人ではなく、企業が費用の全部または一部を負担します。
企業がオフィス内に子育て支援サービスを導入することも考えられます。
この場合、子育て支援事業者から見ると、家庭向けだけでなく企業向けの市場が生まれます。
企業が人材確保や離職防止のために子育て支援へ投資するようになれば、企業間取引としての子育て支援市場も広がる可能性があります。
住宅も子育て支援ビジネスになる
住宅産業にも新しい需要が考えられます。
従来の住宅では、立地、価格、広さ、設備などが主要な競争条件でした。
そこに子育てのしやすさという価値を加えることができます。
子どもを見守りやすい間取り。
ベビーカーを利用しやすい動線。
キッズスペースなどの共用施設。
見守りや家事代行などのサービスとの連携。
こうした要素を組み合わせれば、住宅そのものを子育て支援サービスとして差別化できます。
少子化は住宅会社にとって市場縮小要因になる一方、子育て世帯に特化した高付加価値住宅という新しい市場を生み出す可能性もあります。
小売や外食にも新しい需要が生まれる
スーパーやショッピングモール、飲食店でも同じです。
子ども連れで利用しやすい店舗をつくれば、子育て世帯から選ばれる理由になります。
授乳室を整備する。
おむつ交換設備を設置する。
キッズスペースをつくる。
ベビーカーで移動しやすい通路を確保する。
こうした設備は直接料金を取るサービスではない場合が多いでしょう。
しかし、子育て世帯の来店が増えれば、店舗全体の売上につながる可能性があります。
子育て支援を独立した商品として販売するのではなく、本業の商品やサービスの競争力を高めるために利用するビジネスモデルです。
少子化対策が新しい需要を生む
政府の政策も市場を動かす可能性があります。
こども家庭庁は2027年度に、子育てに役立つ商品やサービスを提供する企業の新しい認定制度を創設する方針です。
認定企業について法人減税や補助金などの優遇対象とすることが検討されています。
公共調達での加点も検討されています。
さらに金融機関による低利融資などを通じた支援も考えられます。
こうした政策によって企業の投資負担が軽くなれば、これまで採算性の問題で実現しなかった商品やサービスが事業化される可能性があります。
少子化対策のための政策そのものが、民間企業の新しい需要をつくるわけです。
認定制度が市場をつくる可能性もある
認定制度には、企業を評価するだけでなく市場を形成する効果も考えられます。
一定の基準を満たす企業が子育て支援企業として見えるようになれば、消費者が商品やサービスを選ぶ際の目印になります。
求職者が企業を選ぶ材料にもなります。
金融機関が融資条件を決める際に利用する可能性もあります。
公共調達でも評価されれば、企業の受注機会に影響します。
すると企業側には、認定を取得できるような商品やサービスを開発する動機が生まれます。
認定制度が企業間競争を促し、その結果として新しい子育て関連商品やサービスが増える可能性があります。
少子化だからこそ一人当たりの価値が高まる
少子化社会では、子どもの人数そのものは減ります。
しかし、だからこそ一人の子どもを社会全体で支える重要性が高まるという見方もできます。
家庭だけに育児負担を集中させれば、仕事との両立が難しくなります。
企業、住宅、店舗、金融機関、地域などが育児を支えるサービスを提供すれば、家庭の負担を分散できます。
そのために家庭や企業、政府が支出する金額が増えれば、子どもの人数が減っていても一人当たりの子育て支援市場は大きくなる可能性があります。
量が減る一方で、一人当たりのサービスが高度化する市場と考えることができます。
結論
子育て支援市場とは、保育やベビーシッターだけでなく、家事代行、宅配、住宅、小売、外食、金融など、子育て世帯の負担を軽くする幅広い商品やサービスを含む市場です。
少子化によって子どもの数が減れば、すべての育児関連市場が成長するわけではありません。
しかし市場規模は子どもの人数だけで決まるものでもありません。
共働き世帯が増え、これまで家庭内で行われていた家事や育児が外部サービスへ移れば、一家庭当たりのサービス利用額が増える可能性があります。
さらに企業自身が人材確保のために育児サービスを購入する市場も生まれます。
2027年度に創設が検討されている新しい子育て支援企業認定制度に法人減税、補助金、公共調達、融資などが組み合わされれば、企業の新規参入や投資を促す可能性もあります。
少子化だから子育て市場も単純に縮小すると考えるのではなく、子育ての方法そのものが変わることで新しい需要が生まれると考える。
子どもの数が減る一方、一人の子どもを家庭だけでなく企業や社会全体で支えるサービスが増えていけば、子育て支援は新しい成長市場になる可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 子育て向け商品・サービス提供企業に法人減税