外貨預金を長く続けていると、保有しているドルやユーロを別の金融機関へ移したいことがあります。
金利が高い銀行へ移す。
外国株を購入するため証券会社へドルを移す。
外貨送金サービスを利用して別の口座へ移す。
こうした場合に気になるのが税金です。
外貨を別の金融機関へ動かしただけでも、それまでに生じていた為替差益に税金がかかるのでしょうか。
基本的には、同じ通貨をそのまま別の金融機関へ移しただけなら、その移管自体によって為替差益が実現するわけではありません。
ただし、税金が発生しないから何も記録しなくてよいというわけではありません。
むしろ移管時には、取得時の情報を失わないことが重要になります。
外貨の金融機関間移管とは何か
例えばA銀行に1万ドルの外貨預金を持っているとします。
この1万ドルをB銀行の自分名義のドル口座へそのまま送金します。
A銀行では1万ドルがなくなり、B銀行では1万ドルが入金されます。
しかし、ドルを円へ交換したわけではありません。
ドルをユーロなど別の通貨へ交換したわけでもありません。
ドルを使って株式や不動産など別の資産を購入したわけでもありません。
保有場所がA銀行からB銀行へ変わっただけです。
このような同一通貨の移管であれば、通常は移管したことだけを理由に為替差益が実現するわけではありません。
売却や交換とは何が違うのか
例えば1ドル100円のときに100万円で1万ドルを取得したとします。
その後1ドル160円になれば、1万ドルの円換算価値は160万円です。
60万円の含み益があります。
ここで1万ドルを円へ交換すれば、為替差益が実現することになります。
ドルをポンドへ交換した場合にも、ドルという資産を手放して別の通貨を取得するため、為替差益を考える必要があります。
ドルで米国株を購入した場合も、ドルを手放して株式という別の資産を取得します。
これに対して、A銀行の1万ドルをB銀行へ1万ドルのまま移すだけなら、保有している資産の種類は変わりません。
この違いが重要です。
移管しても取得価額はリセットされない
ここで注意したいのが、外貨を別の銀行へ移したからといって、それまでの取得価額がリセットされるわけではないということです。
例えば1ドル100円のときに取得した1万ドルを、1ドル160円になった時点でA銀行からB銀行へ移したとします。
移管時点の1ドル160円が、新しい取得レートになるわけではありません。
もともと1ドル100円で取得した外貨を、そのまま持ち続けていると考える必要があります。
その後、B銀行で1万ドルを1ドル170円のときに円へ戻せば、原則として当初の取得情報が重要になります。
金融機関を変えたことによって、それまでの含み益が消えるわけではありません。
問題は取得時レートが引き継がれないこと
外貨移管で実務上問題になりやすいのが、取得時の情報です。
A銀行では、いつドルを購入したのか、取得時の為替レートはいくらだったのかという履歴を確認できることがあります。
しかし、B銀行へ送金した場合、B銀行が受け取るのは基本的に外貨そのものです。
そのドルを何年前に、どの為替レートで取得したのかという情報まで自動的に引き継がれるとは限りません。
B銀行の画面を見ると、1万ドルを受け取ったことは分かっても、そのドルの当初の取得価額が分からないということが起こり得ます。
将来の確定申告で困る原因になります。
移管前の取引履歴を保存する
そこで重要になるのが、外貨を移す前の記録保存です。
取得した年月日。
取得した通貨と数量。
取得時の為替レート。
円換算した取得価額。
複数回購入している場合には、それぞれの取引履歴。
こうした情報を移管前に確認し、保存しておくことが大切です。
インターネットバンキングの画面だけに頼るのではなく、取引明細書などを保存しておけば、後から確認しやすくなります。
証券会社へドルを移す場合も同じ
米国株を購入するため、銀行のドル預金を証券会社の外貨口座へ移すこともあります。
例えば銀行にある1万ドルを、証券会社の自分名義のドル口座へ移したとします。
同じドルをそのまま移しただけなら、移管自体と、その後にドルを使って米国株を購入する取引は分けて考える必要があります。
移管しただけでは、通常はドルを別の資産へ交換したわけではありません。
しかし、その後そのドルで米国株を購入すれば、ドルを株式という別の資産へ交換したことになります。
この時点では、それまでドルについて生じていた為替差益を検討する必要があります。
移管時と使用時を混同しないことが大切です。
海外口座への送金でも記録が重要になる
国内銀行から自分名義の海外銀行口座へ外貨を送金する場合も、同じ通貨をそのまま移すだけなら、単純な外貨売却とは異なります。
しかし、海外口座へ移した後は日本国内の金融機関だけを見ても過去の取引を追えなくなります。
さらに、その外貨を別の通貨へ交換したり、海外資産の購入に使ったりする可能性もあります。
外貨が国内口座から海外口座へ移るほど、取得から使用までの記録を自分で一貫して管理する必要性が高まります。
送金手数料なども確認する
外貨を移管するときには、送金手数料などが発生することがあります。
また、金融機関によっては外貨をそのまま移せず、一度円へ交換しなければならないケースも考えられます。
この場合は単純な同一通貨の移管ではありません。
例えばドルを円へ交換してから送金し、移管先で再びドルを購入するのであれば、最初のドルから円への交換時点で為替差益や為替差損が生じる可能性があります。
外貨を移すときは、実際に同じ通貨のまま移管されるのかを確認することが重要です。
外貨の履歴を一本につなげる
外貨の税務では、現在どの銀行に外貨があるかだけを見るのでは不十分です。
重要なのは、その外貨を最初に取得したところから現在までの履歴です。
円でドルを取得する。
A銀行で保有する。
B銀行へドルのまま移す。
証券会社へドルを移す。
そのドルで米国株を購入する。
こうした一連の取引をつなげて確認できるようにしておく必要があります。
金融機関が変わっても、自分の外貨の取得履歴まで消えるわけではありません。
結論
同じ外貨を同じ通貨のまま別の金融機関へ移しただけなら、通常はその移管自体によって為替差益が実現するわけではありません。
ドルを円へ交換した場合や、別の外貨、株式、不動産などへ交換した場合とは性質が異なるからです。
しかし、外貨を移管しても当初の取得価額がリセットされるわけではありません。
むしろ注意したいのは、移管先へ取得時の為替レートなどの情報が引き継がれないことです。
将来その外貨を円へ戻したり、別の外貨へ交換したり、外国株の購入に使ったりすれば、過去の取得情報が必要になることがあります。
外貨を別の金融機関へ移すときには、お金だけでなく取得履歴も一緒に引き継ぐつもりで、自分で記録を保存しておくことが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日朝刊 外貨預金、課税場面広く
日本経済新聞 2026年9月12日朝刊 所得大きいほど税率高く