国際送金はどこまで変わるのか――Swiftとデジタル通貨の競争と共存

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国際送金の仕組みが、大きな転換期を迎えています。

これまで企業が海外の取引先に代金を支払う場合、銀行を通じた外国送金が一般的でした。

その中心的な役割を担ってきたのが、国際銀行間通信協会(Swift)です。

Swiftは、世界各国の金融機関を結び付け、国際送金に必要な情報を安全に伝達する金融インフラとして発展してきました。

一方、近年はブロックチェーン技術を活用したステーブルコインやトークン化預金など、新しいデジタル決済手段が登場しています。

商工組合中央金庫(商工中金)や3メガバンクも、デジタル通貨を活用した貿易決済の実証実験を進めています。

こうした動きによって、従来の国際送金システムは不要になるのでしょうか。

実際には、Swiftとデジタル通貨が直ちに置き換わる関係になるとは限りません。

両者が競争しながら、相互に連携する可能性もあります。

国際送金の仕組みと今後の変化を、企業の資金管理や金融機関の役割から考えます。

国際送金を支えてきたSwiftの役割

Swiftは、1973年に設立された国際的な金融機関の協同組織です。

銀行などの金融機関が、国際送金や証券取引などに必要な情報を安全に交換するための通信ネットワークを提供しています。

重要なのは、Swiftそのものが企業の資金を保有したり、銀行間の資金決済を直接実行したりする仕組みではないことです。

Swiftの主な役割は、金融機関同士が標準化されたメッセージを交換するための基盤を提供することです。

例えば、日本企業が海外の取引先に10万ドルを送金する場合を考えます。

日本の銀行は、送金先の銀行に対して、送金人、受取人、金額、通貨などの情報を伝達します。

その際、Swiftのネットワークが利用される場合があります。

実際の資金移動は、銀行間の口座関係や決済システムなどを通じて行われます。

このように、国際送金では、送金情報の伝達と資金決済を区別して理解する必要があります。

国際送金に時間がかかる理由

国内振込では、銀行間の決済システムが整備されており、迅速な資金移動が可能です。

一方、国際送金では、複数の国の金融機関や決済システムが関係します。

例えば、日本の銀行から海外の銀行に送金する場合、両銀行の間に直接の決済関係がなければ、中継銀行が利用されることがあります。

この場合、複数の銀行が送金処理に関与するため、手続きが複雑になります。

また、各国の営業時間や休日、時差も影響します。

さらに、金融機関にはマネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための確認義務があります。

送金人や受取人、取引目的などの確認が必要になる場合があります。

送金情報に不備があれば、追加確認によって処理が遅れることもあります。

したがって、国際送金の遅延は、通信技術だけの問題ではありません。

金融規制、銀行間の資金決済、為替取引、事務処理など、複数の要因が関係しています。

国際送金コストの構造

企業が国際送金を利用する場合、さまざまな費用が発生します。

代表的なものが、送金銀行に支払う外国送金手数料です。

また、中継銀行や受取銀行で手数料が発生する場合があります。

さらに、円を米ドルなどに交換する場合には、外国為替の売買に伴うコストが生じます。

例えば、企業が海外の取引先に10万ドルを支払う場合を考えます。

銀行が提示する為替レートと市場の基準となるレートとの差が1ドル当たり50銭であれば、単純計算で5万円の為替コストに相当します。

これに送金手数料などが加わることになります。

ただし、実際の為替コストは銀行との取引条件や市場環境によって異なります。

大企業と中小企業では、利用できる為替レートや手数料体系が異なる場合もあります。

国際送金の効率化を考える場合には、送金手数料だけでなく、為替コストや資金が拘束される期間を含めて比較することが重要です。

デジタル通貨がもたらす新しい決済方法

ステーブルコインやトークン化預金は、国際送金の仕組みを変える可能性があります。

ステーブルコインは、円やドルなどの法定通貨に価値を連動させることを目指すデジタル通貨です。

一方、トークン化預金は、銀行預金に関する権利をデジタル上のトークンとして取り扱う仕組みです。

これらを利用すれば、一定の条件のもとで、デジタル上の価値を移転することができます。

例えば、海外の取引先が利用できる決済基盤上で、企業がステーブルコインを送付する仕組みが考えられます。

銀行の営業時間に制約されにくい決済が可能になる場合もあります。

また、スマートコントラクトを活用すれば、商品の納品確認や貿易書類の権利移転と、資金決済を連動させることができます。

ただし、デジタル通貨の移転が完了しても、受取企業が必要な法定通貨を直ちに利用できるとは限りません。

償還や換金、銀行口座への入金などの手続きが必要になる場合があります。

国際送金の利便性は、デジタル通貨の移転速度だけでなく、最終的に利用可能な資金へ変換できるかどうかによって決まります。

商工中金の貿易決済構想と国際送金

商工中金は、DCP、スタンデージと共同で、トークン化預金を活用した貿易決済システムの開発を進めています。

この構想では、電子船荷証券とトークン化預金を連動させ、書類の権利移転と代金決済を効率化することが目指されています。

ただし、海外銀行との資金決済については、既存の国際送金インフラを利用することが想定されています。

つまり、トークン化預金を導入することによって、直ちにSwiftなどの既存インフラが不要になるわけではありません。

国内での書類確認や決済処理を効率化しながら、海外との資金移動には従来の仕組みを組み合わせる形です。

このような段階的な導入は、既存の金融システムとの整合性を確保しながら、新しい技術を実用化する方法として注目されます。

3メガバンクとステーブルコインの活用

三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3メガバンクも、ステーブルコインを利用した貿易決済の実証実験を進めています。

貿易システムを提供するトレードワルツなどと連携し、輸出債権の買取代金をステーブルコインで支払う仕組みが検討されています。

輸出企業が必要な貿易書類を登録し、銀行が条件を確認したうえで、支払いを実行する構想です。

この仕組みが実現すれば、銀行の書類確認と決済手続きを連動させ、輸出企業への資金提供を迅速化できる可能性があります。

ただし、輸出企業への支払いがステーブルコインで行われても、海外の輸入企業から銀行への最終的な資金回収は別の問題です。

貿易金融と国際送金の仕組みをどのように接続するかが、今後の重要な課題になります。

Swift自身も進めるデジタル化

デジタル通貨の普及は、Swiftにとって競争環境の変化を意味します。

しかし、Swift自身も新しい金融技術への対応を進めています。

国際送金の迅速化や送金状況の可視化に加え、トークン化された資産やデジタル通貨を既存の金融ネットワークと接続する取り組みが進められています。

特に重要なのが、異なる金融機関や決済基盤の間で情報を交換し、取引を連携させる機能です。

将来、各国の銀行が独自のトークン化預金やデジタル通貨を発行した場合、システムごとに異なる規格が使われる可能性があります。

その際、金融機関同士を結び付ける共通の通信基盤が必要になります。

Swiftは、既存の国際的な金融機関ネットワークを活用し、こうした接続機能を提供する方向を模索しています。

したがって、デジタル通貨の普及がSwiftの役割を直ちに消滅させるとは限りません。

むしろ、異なる決済システムを結び付ける役割が重要になる可能性があります。

銀行間の相互接続という課題

デジタル通貨による国際決済を普及させるためには、銀行間の相互接続が欠かせません。

例えば、日本の銀行が発行する円建てトークン化預金と、海外の銀行が発行するドル建てトークン化預金を交換する場合を考えます。

両者の間では、通貨の交換、資金決済、信用リスクの管理などが必要になります。

また、各国の法制度や金融規制にも対応しなければなりません。

一方の通貨だけが移転し、もう一方の通貨が受け取れない場合には、決済リスクが生じます。

そのため、異なる通貨の受け渡しを連動させる仕組みが重要になります。

さらに、銀行間でデジタル通貨を移転する場合には、発行銀行の信用力や償還条件も確認する必要があります。

単にブロックチェーン上でトークンを移転できるだけでは、国際決済の安全性を十分に確保することはできません。

中小企業にとってのメリットと注意点

国際送金の効率化は、中小企業にとって大きな意味を持ちます。

海外の取引先への支払いや輸出代金の回収にかかる時間が短縮されれば、資金繰りを改善できる可能性があります。

また、送金状況を把握しやすくなれば、経理担当者の確認作業も軽減されます。

ただし、新しい決済サービスの利用には費用が発生する場合があります。

デジタル通貨の取得や償還に手数料がかかれば、従来の銀行送金よりも総費用が高くなる可能性もあります。

また、海外の取引先が同じ決済基盤を利用できなければ、サービスを活用することはできません。

中小企業が導入を検討する場合には、送金手数料、為替コスト、資金化までの時間、取引先の対応状況などを総合的に比較する必要があります。

経理・財務部門に求められる対応

国際送金の仕組みが変われば、企業の経理・財務部門にも新しい対応が求められます。

従来は、銀行の外国送金明細や入金通知を確認し、売掛金や買掛金の消込処理を行っていました。

今後、デジタル通貨による決済が普及すれば、ブロックチェーン上の取引履歴やデジタルウォレットの残高などを確認する必要が生じる可能性があります。

また、外貨建てデジタル通貨を保有する場合には、為替換算や評価の問題もあります。

さらに、決済の自動化が進んでも、支払承認や取引先確認などの内部統制は必要です。

経理・財務部門には、新しい決済技術を理解しながら、資金管理の安全性と会計処理の正確性を維持する役割が求められます。

結論

国際送金の世界では、Swiftを中心とする既存の金融インフラと、ステーブルコインやトークン化預金などの新しいデジタル通貨が共存する方向が考えられます。

デジタル通貨は、資金移動や取引条件に応じた決済の自動化を進める可能性があります。

一方、国際送金には、金融規制、銀行間決済、外国為替、信用リスク管理など、多くの機能が必要です。

これらをすべて新しい技術だけで置き換えることは容易ではありません。

今後は、既存の金融ネットワークとデジタル通貨をどのように接続するかが重要になります。

中小企業にとっては、送金速度だけでなく、費用、安全性、資金化までの時間を含めて最適な決済方法を選択することが必要です。

人生100年時代において、中小企業が長期にわたり安定した経営を続けるためには、海外取引に伴う資金管理を高度化し、金融コストを適切に抑えることが欠かせません。

Swiftとデジタル通貨の競争と共存は、国際送金の仕組みを進化させ、企業の海外事業を支える新しい金融インフラを形成する可能性があります。

参考

日本経済新聞 2026/10/28 朝刊「デジタル通貨で貿易決済 商工中金や3メガ、法改正で加速へ」

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