社会保障制度の費用は、すべて国だけが負担しているわけではありません。
医療、介護、福祉、子育て支援など、多くの制度では国と地方自治体が一定の割合で費用を分担しています。
この仕組みを理解するときに重要なのが、国庫負担と地方負担です。
国庫負担とは国の予算から支出する費用であり、地方負担とは都道府県や市区町村などの自治体が負担する費用です。
2027年度から先行実施される所得連動給付でも、政府は国と地方が給付財源を共同で負担する案を示しています。
しかし地方側からは、国が決めた政策について給付事務だけでなく財源まで負担することへの懸念が出ています。
社会保障を安定して運営するには、誰が制度を決めるのかだけではなく、誰が費用を負担するのかという設計が極めて重要です。
国庫負担とは何か
国庫負担とは、国の一般会計などから支出される公費です。
社会保障制度では、保険料だけで必要な費用をすべて賄うのではなく、税金を財源とする国庫負担が投入されるものが多くあります。
たとえば医療や介護、生活保障などでは、国が一定割合を負担する仕組みが設けられています。
国庫負担を入れる目的の一つは、国民の保険料や自己負担だけでは制度運営が難しい部分を支えることです。
また、全国どこに住んでいても一定水準の社会保障を受けられるようにする意味もあります。
社会保障は地域ごとのサービスであると同時に、国全体で支える制度でもあるのです。
地方負担とは何か
地方負担とは、都道府県や市区町村が負担する公費です。
自治体は地方税や地方交付税などを財源として、様々な行政サービスを提供しています。
社会保障分野でも、
医療
介護
生活支援
障害福祉
子育て支援
などについて地方自治体が費用を負担しています。
制度によっては国、都道府県、市区町村が一定割合ずつ負担します。
地方自治体は住民に最も近い行政主体であるため、社会保障制度の実施主体として重要な役割を担っています。
なぜ国と地方で分担するのか
では、なぜ社会保障費を国だけで負担せず、地方自治体にも負担を求めるのでしょうか。
理由の一つは、社会保障サービスの多くを地方自治体が実際に提供しているからです。
地域の住民に必要なサービスを把握し、給付や福祉サービスを実施するのは自治体です。
国が制度の大枠をつくり、地方が現場で運営するという役割分担があります。
そのため財源についても国と地方で分担する仕組みが採用されてきました。
もう一つは、国と地方が共同で制度を支えることで、社会保障の財政基盤を広げられることです。
ただし、この分担には常に調整が必要になります。
国が制度を決め地方が実施する構造
日本の社会保障では、
国が法律や制度の基本ルールを決める
地方自治体が住民に対して実際の給付やサービスを行う
という構造が多く見られます。
この仕組み自体は合理的です。
全国共通のルールを国が定め、地域の実情を知る自治体が運営するからです。
一方で問題もあります。
国が新しい制度を次々と作れば、自治体の仕事と財政負担が増える可能性があります。
自治体側から見れば、
制度を決める権限は国にある
しかし実施責任と費用負担は地方にもある
という状態になり得ます。
このバランスが崩れると地方財政にしわ寄せが生じます。
地方にも負担を求める理由
所得連動給付について政府が国と地方の共同負担案を示している背景には、給付事務を自治体が担うことなどがあります。
自治体は住民税の所得情報を持っています。
そのため、
対象者を抽出する
給付額を算定する
申請を審査する
振り込みを行う
といった実務を担当することが想定されています。
国と地方が共同で制度を運営するのであれば、財源も共同で負担するという考え方が出てきます。
しかし地方側は、この考え方に慎重です。
実務を担うだけでも大きな負担があるうえ、給付金本体の財源まで負担すれば地方財政への影響がさらに大きくなるからです。
全国一律の制度なら国が負担すべきという考え方
地方側からは、全国一律の政策として国が導入する制度であれば、国が全額負担すべきだという考え方があります。
所得連動給付は、ある自治体が独自に始める制度ではありません。
国の経済政策や社会保障政策として全国で導入されます。
それなら必要な財源も国が責任を持って確保すべきだという考えです。
特に新制度では、自治体側に、
システム改修
職員配置
問い合わせ対応
振込事務
などの負担が発生します。
そこへさらに給付財源の負担を求めれば、自治体に二重の負担が生じるという懸念があります。
自治体間の財政力格差
地方負担を考えるうえで避けて通れないのが、自治体間の財政力格差です。
すべての自治体が同じ税収を持っているわけではありません。
大都市や企業が多い地域では税収を確保しやすい一方、人口減少が進む地域などでは自主財源が限られます。
同じ割合の地方負担を求めても、財政への影響は自治体によって異なります。
たとえば同じ一億円を負担する場合でも、大都市と小規模な町村では重みが全く違います。
全国共通の給付制度なのに、自治体の財政力によって負担感が大きく違うのは問題です。
そのため国と地方で費用を分担する場合には、地方交付税などによる財源調整も重要になります。
財政力が弱い自治体ほど不利になってはいけない
社会保障制度は、住んでいる地域によって大きな差が生じないことが重要です。
財政力の強い自治体だけが充実した行政体制を整えられ、財政力の弱い自治体では給付事務が遅れるという状況は望ましくありません。
所得連動給付でも、
対象者の抽出
給付額の計算
問い合わせへの対応
振り込み
といったサービスは全国で同程度に提供される必要があります。
そのためには、制度を全国共通にするだけでは足りません。
制度を実施するための財源も全国的に確保する必要があります。
国庫負担と地方負担の設計は、行政サービスの地域格差にも関係します。
給付金だけが負担ではない
国と地方の費用分担を考えるときには、給付金本体だけに注目してはいけません。
制度運営には様々な費用がかかります。
システム改修費
人件費
郵送費
振込手数料
コールセンター費用
外部委託費
などです。
給付金が年間6000億円規模であったとしても、その制度を動かすために別途行政コストが発生します。
自治体側からは、こうした事務費やシステム改修費についても国が責任を持って措置してほしいという声が出ています。
本当の財政負担を見るには、給付額だけでなく総事業費を見る必要があります。
国と地方の負担割合は制度設計そのもの
国と地方の負担割合は、単なる会計上の問題ではありません。
制度の持続可能性を左右します。
地方負担が大きすぎれば、自治体は他の行政サービスを削らなければならなくなるかもしれません。
反対に国がすべて負担すれば、国の財政負担が大きくなります。
重要なのは、制度の目的と実施主体に合った負担割合を決めることです。
さらに、地方に一定の負担を求めるのであれば、地方財政全体に無理が生じないよう財源を保障する必要があります。
所得連動給付の財源問題
2027年度から2年間先行実施される所得連動給付では、年間6000億円程度を原資とすることが想定されています。
政府はこの給付財源について、国と地方が共同で負担する案を示しています。
しかし具体的な負担割合は決まっていません。
ここが今後の大きな論点になります。
国の負担を何割とするのか。
地方の負担を何割とするのか。
地方負担分をどのように財政措置するのか。
事務費やシステム改修費は誰が負担するのか。
こうした点を明確にしなければ、自治体は予算やシステム、人員を準備できません。
2029年度にはさらに大きな論点になる
2027年度からの所得連動給付は先行実施です。
より重要なのは2029年度から予定される本格導入です。
本格制度になれば、給付規模が拡大する可能性があります。
さらに制度を毎年継続するための恒久財源も必要になります。
一時的な経済対策であれば臨時の財源措置も可能です。
しかし恒久制度では、毎年度安定した国庫負担と地方負担の仕組みを作らなければなりません。
給付付き税額控除などへ発展する場合には、国税と地方税、社会保障制度の関係も含めて財源設計を考える必要があります。
国と地方の協議が重要になる
今回、国と地方の協議会が設けられた背景には、このような問題があります。
制度を国だけで設計し、決まった後に自治体へ実施を求める方式では、現場の事務負担や財政負担を十分に反映できない可能性があります。
対象者の抽出にはどの程度の作業が必要なのか。
システム改修にはどれくらい費用がかかるのか。
問い合わせはどの程度発生するのか。
地方負担を求めた場合、自治体財政にどのような影響があるのか。
こうした問題は実務を担う自治体との調整が欠かせません。
制度を作る段階から国と地方が協議することが重要なのです。
結論
国庫負担と地方負担とは、社会保障制度などに必要な公費を国と地方自治体で分担する仕組みです。
国が制度の基本ルールを決め、自治体が住民に近い立場で実施するという役割分担に対応して、多くの社会保障制度では費用も国と地方で分担されています。
一方で、地方自治体の財政力には大きな差があります。
全国一律の制度で地方負担を求めるのであれば、財政力の弱い自治体でも同じ水準の行政サービスを提供できるよう、十分な財源措置が必要です。
2027年度からの所得連動給付では、自治体が給付実務を担うだけでなく、給付財源についても国と地方が共同負担する案が示されています。
地方側が懸念しているのは、給付金本体に加えて事務費やシステム改修費まで負担が広がることです。
そして2029年度から本格制度へ移行すれば、この問題は一時的な負担ではなく恒久的な財源問題になります。
誰にいくら給付するかだけでなく、国と地方のどちらがいくら負担するのか。
社会保障制度を持続可能なものにするには、この財源設計まで含めて考える必要があります。
参考
日本経済新聞 2026年8月11日朝刊 所得連動給付の申請不要 地方にも財政負担案 国・地方協議会が初会合
総務省 地方財政制度
総務省 地方交付税制度