国債を持っている人の相続税を軽くすれば、個人がもっと国債を購入するようになるのではないか。
こうした議論が出ています。
令和9年度税制改正要望では、国債に関する税制の検討が掲げられています。
その具体策はまだ決まっていませんが、議論されている選択肢の一つが国債を相続した場合の税負担を軽減する考え方です。
国債の保有者を増やすという目的がある一方、資産を多く持つ人ほど恩恵が大きくなれば、富裕層を優遇する制度にならないかという問題もあります。
国債にも原則として相続税がかかる
国債も預貯金や株式、不動産などと同じように財産です。
国債を保有していた人が亡くなり、相続人がその国債を引き継げば、原則として相続税を計算するときの相続財産に含まれます。
国が発行している金融商品だからといって、相続税が自動的に非課税になるわけではありません。
したがって、国債の相続税負担を軽減するのであれば、現在の課税関係に新しい優遇措置を設けることになります。
なぜ国債に相続税優遇という議論が出るのか
背景にあるのが、国債の保有者を多様化したいという考え方です。
国は大量の国債を継続的に発行しています。
その国債を特定の金融機関などだけではなく、個人を含む幅広い投資家が保有するようになれば、国債市場の投資家層を広げることにつながります。
そこで個人が国債を購入するメリットを大きくするため、商品性の改善とともに税制上の優遇策も検討対象になっています。
相続税の軽減も、その選択肢として議論されているものです。
相続税を軽くすると国債の魅力はどう変わるのか
たとえば現金と国債で相続税の取り扱いが同じであれば、相続税だけを理由に国債を購入する必要はありません。
一方、一定の国債について相続税上の優遇が設けられれば事情が変わります。
同じ金額の資産を持つ場合でも、国債として保有することで将来の相続税負担が軽くなるのであれば、国債を選ぶ動機になります。
その結果、家計の預貯金などから国債へ資金が移る可能性があります。
税制によって個人の資産選択を変え、国債の保有者を増やそうという考え方です。
なぜ金持ち優遇が問題になるのか
一方、相続税の優遇には公平性という大きな問題があります。
相続税は、一定規模以上の財産を相続した場合に負担する税金です。
国債を大量に保有できる人ほど、相続税の優遇によって得られる利益も大きくなる可能性があります。
たとえば国債を100万円保有している人と1億円保有している人では、同じ割合で優遇しても金額としての恩恵は大きく違います。
そのため、国債を保有すれば相続税を無制限に軽減できるような仕組みにすると、資産を多く持つ人ほど有利になるという問題が生じます。
上限を設けるという考え方もある
そこで重要になるのが、優遇措置を設けるとしても対象額を限定するという考え方です。
一定額までの国債だけを対象とすれば、国債保有を促しながら、極端に大きな相続税軽減が生じることを抑えられる可能性があります。
ほかにも対象となる国債の種類や保有期間など、制度を設計するうえではさまざまな条件が考えられます。
ただし、具体的な限度額や要件が決定しているわけではありません。
今後制度が具体化する場合には、どこまでを優遇対象にするのかが大きな論点になります。
相続直前に国債へ移す問題もある
相続税を軽減する制度を作る場合には、制度の利用方法も考える必要があります。
仮に国債を購入した直後でも相続税が大幅に軽くなるのであれば、相続が近づいた段階で預貯金などを国債へ移す行動が増える可能性があります。
そうなれば、長期間国債を保有してもらうという政策目的とは違った使われ方をすることになります。
税制優遇を設ける場合には、単に国債を持っているかだけではなく、制度目的に合った仕組みになっているかを見る必要があります。
国債を特別扱いする理由も問われる
もう一つの論点は、なぜ国債だけを相続税で優遇するのかという問題です。
家計が保有する金融資産には、預貯金、株式、投資信託、保険などさまざまなものがあります。
その中で国債だけに相続税上のメリットを設ければ、税制によって特定の金融商品を優遇することになります。
国債を安定的に保有してもらうという政策目的と、税制の公平性をどのように両立させるのかが重要になります。
国債を買えば相続税が安くなると決まったわけではない
ここは特に注意が必要です。
令和9年度税制改正要望で示されているのは、国債に関する税制を検討するという段階です。
国債を購入すれば相続税が安くなる制度が正式に決定したわけではありません。
財務相からも、国債保有に関する税制措置について、高所得者への優遇にならないかという論点が示されています。
実際に制度化されるのか。
制度化される場合にはどの程度の優遇になるのか。
対象となる国債や金額にどのような条件を付けるのか。
今後の税制改正の議論を確認する必要があります。
国債政策と相続税政策が交わる
この問題が興味深いのは、本来異なる二つの政策が交わる点です。
一つは、国債を安定的に保有してもらうための国債政策です。
もう一つは、財産の相続に対してどのように税負担を求めるかという相続税政策です。
国債保有を増やすことだけを考えれば、税制上のメリットを大きくするほど効果は強くなる可能性があります。
しかし、相続税の公平性を考えれば、優遇を大きくしすぎることには慎重な検討が必要になります。
この二つの政策目的をどこで調整するのかが制度設計の核心になります。
結論
令和9年度税制改正要望では、国債に関する税制の検討が掲げられています。
その選択肢として、国債の相続税負担を軽減する考え方が議論されています。
国債の相続税負担を軽くすれば、個人が国債を保有する動機を強め、国債保有者層の多様化につながる可能性があります。
一方、保有額に応じて優遇が大きくなる制度にすれば、資産を多く持つ人ほど恩恵を受ける可能性があります。
そのため、制度化する場合には対象額の上限や対象となる国債、保有条件などが重要になります。
現時点では国債を持てば相続税が軽くなると決まったわけではありません。
今回の議論で注目したいのは、国債の魅力を高めることだけではなく、そのための税制優遇をどこまで認めれば公平性を保てるのかという点です。
国債の安定保有と相続税の公平性。
この二つをどう両立させるのかが、今後の制度設計を見る重要なポイントになります。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を