親から株式を相続すると、その株式について相続税がかかることがあります。
さらに、相続した株式を売却して利益が出れば、今度は譲渡所得に対する税金が問題になります。
同じ株式について相続税と譲渡所得税の両方が関係するわけです。
そこで設けられているのが、相続税の取得費加算の特例です。
令和9年度税制改正要望では、金融庁が上場株式等や一般株式等に係る一定のみなし譲渡についても、この取得費加算の対象になることを法令上明確にするよう求めています。
相続した株式にも取得費がある
株式を売却したときの利益は、基本的に売却金額そのものではありません。
売却によって得た金額から、その株式を取得するためにかかった金額などを差し引いて計算します。
この取得するためにかかった金額が取得費です。
相続によって株式を取得した場合には、原則として亡くなった人の取得費を引き継ぎます。
たとえば親が100万円で購入した株式を子どもが相続し、その後300万円で売却した場合、単純に相続時の価格と売却価格の差だけを課税対象にする仕組みではありません。
親がその株式をいくらで取得したのかが重要になります。
相続税と譲渡所得税は別の税金
ここで分かりにくいのが、相続税と譲渡所得税の関係です。
相続税は、亡くなった人から財産を取得したことに対して課税されます。
一方、株式の譲渡所得に対する税金は、株式を売却して生じた利益に対して課税されます。
課税する出来事が異なるため、相続税を払った株式を売却したからといって、譲渡所得に対する税金が自動的になくなるわけではありません。
その結果、相続後すぐに株式を売却するような場合には、相続税を負担したうえで譲渡所得への課税も受けることがあります。
取得費加算とは何か
こうした負担を調整するために設けられているのが、相続税の取得費加算の特例です。
相続や遺贈によって取得した財産を一定期間内に売却した場合、支払った相続税のうち一定額を、その財産の取得費に加えることができます。
取得費が大きくなれば、売却益として計算される金額は小さくなります。
結果として譲渡所得に対する税負担を軽減できる場合があります。
相続税そのものを返してもらう制度ではありません。
相続税の一部を譲渡所得の計算上の取得費へ加えることで、税負担を調整する仕組みです。
具体的に考えると分かりやすい
たとえば、相続した株式の本来の取得費が100万円で、300万円で売却したとします。
単純化すれば、差額の200万円が譲渡益を考える出発点になります。
ここで取得費加算の特例によって50万円を取得費に加算できるとします。
取得費は150万円となるため、売却金額300万円との差額は150万円になります。
つまり、取得費加算によって課税対象となる譲渡益が小さくなる仕組みです。
実際の計算では相続税額や取得した財産の価額などに基づいて加算額を求めるため、単純に支払った相続税の全額を取得費にできるわけではありません。
なぜ売却までの期間に条件があるのか
取得費加算の特例は、相続した財産をいつ売っても利用できる制度ではありません。
一定期間内の譲渡であることが要件になります。
これは、相続税を納めるために相続財産を売却するケースなど、相続と比較的近い時期に行われる譲渡について税負担を調整するという制度の性格と関係しています。
相続から何十年も経過してから売却した場合まで、相続時の税負担を譲渡所得の計算に反映する制度ではありません。
そのため、相続した株式や不動産を売却する場合には、売却価格だけでなく時期も税務上重要になります。
みなし譲渡とは何か
通常の株式売却では、自分が株式を売り、その対価として現金などを受け取ります。
しかし税制には、通常の売買とは異なる取引でも、一定の場合には譲渡があったものとして取り扱う仕組みがあります。
これがみなし譲渡です。
実際の取引形式だけを見るのではなく、経済的に財産が移転したことなどを踏まえて税務上譲渡として扱う考え方です。
株式についても、一定の取引ではみなし譲渡として課税関係が生じる場合があります。
金融庁は何を明確にしたいのか
令和9年度税制改正要望では、金融庁が上場株式等と一般株式等に係る一定のみなし譲渡について、相続財産の譲渡所得における取得費加算の対象となることを法令上明確にするよう求めています。
ポイントは、取得費加算という制度そのものを新しく作るという話ではないことです。
既存の取得費加算制度と、株式についてのみなし譲渡が行われる場合との関係を明確にすることが中心になります。
税制では、経済的に似た取引でも法律上の取引形式が違うことで取り扱いが分かりにくくなることがあります。
今回の要望は、そうした実務上の不明確さを減らす意味を持っています。
相続した株式は取得価額の確認も重要
相続した株式を売却するときには、親など被相続人がその株式をいくらで取得したのかを確認することも重要です。
長期間保有していた株式では、取得時期が数十年前ということもあります。
取得価額が分からなければ、譲渡所得の計算に影響します。
相続した時点では株式を売却する予定がなくても、将来の売却に備えて取得時の資料を確認しておく意味があります。
相続では財産の現在価値だけを見るのではなく、その財産がどのような取得履歴を持っているのかまで引き継ぐことが重要です。
結論
相続した株式を売却すると、相続税とは別に譲渡所得に対する課税が問題になることがあります。
その負担を調整する仕組みが、相続税の取得費加算の特例です。
一定期間内に相続財産を譲渡した場合、支払った相続税のうち一定額をその財産の取得費に加えることで、譲渡所得を小さくできる場合があります。
令和9年度税制改正要望では、金融庁が上場株式等や一般株式等について一定のみなし譲渡が行われた場合にも、取得費加算の対象となることを法令上明確にするよう求めています。
相続した株式を考えるときには、相続時の評価額だけを見ればよいわけではありません。
被相続人の取得費、相続税、売却時期、売却方法までが、その後の税負担に関係します。
相続は財産そのものだけでなく、その財産に付随する税務上の履歴も引き継ぐという視点を持つことが重要です。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を