企業経営において「場所」は重要な経営資源です。
一等地の店舗。
駅前のオフィス。
大型物流センター。
生産工場。
企業は事業活動を行うために様々な不動産を利用しています。
そして、その対価として家賃を支払っています。
外形標準課税では、この家賃も付加価値額を構成する要素になります。
その名称が「純支払賃借料」です。
経営者の中には、
「家賃まで課税対象になるのか」
と驚く方も少なくありません。
しかし制度の背景を理解すると、その理由が見えてきます。
今回は純支払賃借料について考えてみます。
純支払賃借料とは何か
純支払賃借料とは、
支払賃借料
から
受取賃借料
を差し引いた金額
をいいます。
考え方は純支払利子と同じです。
会社が支払った家賃から、受け取った家賃を控除して計算します。
つまり、
支払賃借料-受取賃借料
という計算になります。
どのような家賃が対象になるのか
対象となるのは、
土地
建物
に関する賃借料です。
例えば、
本社オフィス
支店事務所
店舗
工場
倉庫
物流センター
などの賃借料が対象になります。
企業活動に利用される不動産の多くが該当すると考えてよいでしょう。
なぜ家賃が付加価値になるのか
ここが制度の核心です。
企業は価値を生み出すために、
人
資金
場所
を利用します。
人には給与を支払います。
金融機関には利息を支払います。
そして不動産所有者には家賃を支払います。
つまり家賃も、
企業が生み出した価値の分配先
なのです。
外形標準課税では、その分配された価値を把握しようとしています。
そのため家賃も付加価値額に含まれるのです。
店舗ビジネスは不利なのか
小売業や飲食業の経営者からは、
「店舗家賃が高い業種は不利ではないか」
という質問を受けることがあります。
確かに、
百貨店
スーパー
ドラッグストア
飲食チェーン
などは多額の賃借料を支払っています。
その結果、純支払賃借料も大きくなります。
しかし別の見方をすると、それだけ大きな事業活動を行っているということでもあります。
売上を生み出すためには店舗が必要です。
物流を支えるためには倉庫が必要です。
家賃とは企業活動を支えるインフラ利用料とも言えるのです。
受取家賃がある場合はどうなるのか
例えば、
本社ビルの一部を第三者へ貸している
遊休不動産を賃貸している
というケースがあります。
この場合は受取賃借料が発生します。
純支払賃借料は、
支払賃借料-受取賃借料
で計算するため、受取家賃が増えるほど課税標準は小さくなります。
つまり純額で評価する仕組みになっているのです。
権利金や更新料はどうなるのか
ここは実務で誤解されやすい論点です。
土地や建物の賃借権設定時に支払う
権利金
礼金
更新料
などは原則として純支払賃借料には含まれません。
外形標準課税が対象としているのは、
継続的な利用の対価
だからです。
一時的な権利取得費用とは区別されています。
共益費はどうなるのか
大型オフィスビルでは、
賃料
共益費
管理費
が区分されていることがあります。
この場合は契約内容の確認が必要です。
純支払賃借料に含まれる部分と含まれない部分を区別して考えなければなりません。
実務では賃貸借契約書の確認が重要になります。
所有と賃借はどちらが有利か
経営者がよく悩むテーマです。
自社ビルを所有するか。
賃借するか。
税務面だけを見ると、
賃借の場合は純支払賃借料が発生します。
一方、自社所有なら賃借料は発生しません。
しかし、
固定資産税
減価償却
修繕費
資金負担
流動性
なども考慮する必要があります。
税金だけで判断する問題ではありません。
経営戦略全体の中で考えるべきテーマです。
人生100年時代の不動産戦略
人生100年時代になると、企業不動産の意味も変わります。
創業期は賃借。
成長期は取得。
成熟期は売却して賃借へ移行。
こうした選択肢も考えられます。
近年は資産を持たずに事業へ集中する「アセットライト経営」を選択する企業も増えています。
純支払賃借料を見ると、その企業の経営スタイルが見えてくることがあります。
AI時代でも場所の価値は残る
オンライン化が進んでも、
物流施設
データセンター
研究施設
店舗
工場
などの物理的拠点はなくなりません。
AI時代になっても、
人
資金
場所
という経営資源は重要です。
純支払賃借料は、その中の「場所」の価値を表しているとも言えるでしょう。
税理士に求められる説明力
経営者から、
「なぜ家賃まで付加価値になるのですか」
と聞かれることがあります。
そのとき、
法律だから
ではなく、
企業が生み出した価値が不動産所有者にも分配されているから
と説明できることが重要です。
制度の背景を理解している税理士は、経営者からの信頼も高まります。
結論
純支払賃借料とは、支払賃借料から受取賃借料を控除した金額です。
外形標準課税では、不動産の利用によって生み出された価値が不動産所有者へ分配されていると考え、付加価値額の構成要素にしています。
給与は人への分配。
利息は金融機関への分配。
家賃は不動産所有者への分配。
この三つを理解すると、外形標準課税が企業活動の全体像を捉えようとしていることが見えてくるのです。
参考
近畿税理士会
「税法実務講座(法人税)事業税の外形標準課税対象法人の申告の基礎② 外形標準課税対象法人の付加価値割の基礎」