品質不正と会計不正は、一見するとまったく違う問題に見えます。
品質不正では、
検査データを書き換える。
顧客に無断で材料を変更する。
必要な検査を省略する。
承認されていない工程変更を行う。
といった問題が起こります。
一方、会計不正では、
売上高を実態より大きく見せる。
費用や損失の計上を先送りする。
資産を過大に計上する。
利益を実態より大きく見せる。
といった問題が起こります。
担当する部署も違います。
必要な専門知識も違います。
ところが、同じ企業で品質問題と会計問題が発生することがあります。
なぜでしょうか。
二つの不正には、表面に現れる行為は違っても、その奥にある組織的な原因が共通している場合があるからです。
重要なキーワードの一つが業績プレッシャーです。
品質不正と会計不正は何が違うのか
まず、二つの違いを整理してみます。
品質不正は、製品やサービスの品質に関するルール、顧客との契約、法令、認証制度などに反する行為です。
例えば顧客から、
この材料を使用してください。
この方法で検査してください。
工程を変更するときは事前に承認を受けてください。
と求められているのに、それを守らなければ品質不正になる可能性があります。
一方、会計不正は企業の財政状態や経営成績を実態と異なる形で示す行為です。
売上高や利益、資産、負債などを不適切に処理すれば、株主や金融機関などの判断を誤らせる可能性があります。
対象は違いますが、どちらも本来守るべきルールから逸脱するという点では共通しています。
数字を良く見せたいという圧力
品質不正と会計不正を結び付ける一つの要因が、数字への強いプレッシャーです。
企業ではさまざまな目標が設定されます。
売上高。
営業利益。
利益率。
原価低減。
納期。
生産量。
在庫。
これらの目標自体が悪いわけではありません。
企業経営には目標が必要です。
問題になるのは、現実的に達成することが非常に難しい目標について、
必ず達成しなければならない。
未達は許されない。
という雰囲気が生まれた場合です。
会計部門では数字そのものを動かす誘惑が生まれる
例えば営業利益100億円という目標があり、実際には90億円しか達成できそうにないとします。
正常な経営であれば、
なぜ未達になったのか。
どの事業が悪かったのか。
来期どう改善するのか。
を分析します。
しかし、目標未達そのものが強く否定される組織では、
売上高を早めに計上できないか。
費用を翌期へ回せないか。
損失計上を遅らせられないか。
という誘惑が生まれる可能性があります。
経済実態を改善するのではなく、会計上の数字を目標へ近づけようとするわけです。
製造現場では品質ルールを動かす誘惑が生まれる
同じプレッシャーが製造現場へ加わると、別の形で表れる可能性があります。
例えば、
原価を10パーセント削減する。
という目標があったとします。
正規の方法で削減できるのが5パーセントまでなら、本来は目標を見直すか、長期的な改善策を考える必要があります。
しかし、
10パーセントは絶対に達成しろ。
と求められれば、
より安い材料へ変更する。
工程を簡略化する。
検査を減らす。
といった方法を検討するかもしれません。
その変更に顧客承認が必要なのに、承認を得ず実施すれば品質不正につながる可能性があります。
同じ圧力が部署によって違う不正になる
ここが重要なところです。
同じ、
数字を必ず達成しろ。
という経営上の圧力でも、部署によって現れ方が違います。
経理部門なら会計処理へ影響する。
営業部門なら売上計上へ影響する。
製造部門なら原価や納期へ影響する。
品質部門なら検査や承認手続きへ影響する。
そのため、一見すると別々の不祥事でも、根本まで掘り下げると同じ組織的な原因へたどり着く場合があります。
業績目標そのものが悪いわけではない
ここで注意したいのは、高い目標を掲げること自体を不正の原因と決めつけないことです。
企業は競争しています。
高い目標が技術革新や生産性向上につながることもあります。
重要なのは、
どのような方法で達成してもよい。
という状態にしないことです。
利益目標には挑戦する。
しかし法令違反は認めない。
品質を犠牲にしない。
顧客との契約を守る。
適切な会計処理を行う。
この境界を明確にする必要があります。
悪い情報を隠す心理も共通する
品質不正と会計不正には、もう一つ共通する問題があります。
悪い情報を隠したくなる心理です。
例えば品質問題を正直に報告すると、
出荷を止める。
製品を再検査する。
顧客へ説明する。
製品を廃棄する。
損失を計上する。
といった対応が必要になる可能性があります。
短期的には業績が悪化します。
そこで、
もう少し調べてから報告しよう。
自分たちで処理できないか。
それほど重大ではないのではないか。
という判断が生まれることがあります。
会計不正でも悪い情報の先送りが起こる
会計でも同じ構造があります。
例えば事業で大きな損失が発生したとします。
本来なら、その事実を適切に会計処理する必要があります。
しかし、
今期に計上すると利益目標を達成できない。
株価が下がるかもしれない。
経営責任を問われるかもしれない。
という状況では、
来期まで何とかできないか。
損失を小さく見せられないか。
という誘惑が生まれる可能性があります。
品質問題でも会計問題でも、悪い情報を現在の経営成績へ反映させたくないという心理が共通することがあります。
小さな例外から始まることがある
最初から大規模な不正をしようと考える社員ばかりではありません。
最初は、
今回は特別だから。
顧客には実害がないから。
来月には修正できるから。
目標達成まであと少しだから。
という小さな例外かもしれません。
一度例外を認めても問題が起きなければ、次も同じ対応をする可能性があります。
やがて例外が日常になります。
これまで取り上げた逸脱の正常化です。
結果が良ければ問題ないという考え方
品質不正では、
製品性能に問題はなかった。
事故も起きていない。
だから大きな問題ではない。
という考え方が生まれることがあります。
会計不正でも、
最終的には利益が出る。
来期には数字が追いつく。
投資家に実害はない。
という自己正当化が起こる可能性があります。
しかし、ルールを守るかどうかを結果だけで判断すると、組織の内部統制は弱くなります。
結果が偶然良かったことと、手続きが適切だったことは別の問題です。
管理職の黙認が不正を広げる
担当者だけが秘密にしている不正なら、組織全体へ広がらない可能性もあります。
しかし上司が知っていて黙認すると状況は変わります。
担当者は、
この方法で問題ない。
と理解します。
さらに新しい社員が入ってくれば、
この会社ではこうする。
と教えられる可能性があります。
本来は例外だった行為が、仕事の標準的な方法として引き継がれていきます。
品質でも会計でも、管理職の行動は非常に重要です。
独立した管理部門が必要になる
事業部門には業績目標があります。
売上高を増やす。
利益を増やす。
原価を下げる。
納期を守る。
こうした目標を追うことが役割です。
一方で、
品質保証。
法務。
コンプライアンス。
経理。
内部監査。
などの部門には、事業部門をチェックする役割があります。
業績目標を達成する部門と、それが適切な方法で行われているか確認する部門を分ける必要があります。
これまで取り上げた三線モデルにもつながる考え方です。
管理部門まで数字に支配されると危険になる
ところが管理部門まで、
事業部門の目標達成を邪魔してはいけない。
という考え方になれば、チェック機能が弱くなります。
品質保証部門が製造部門へ問題を指摘できない。
経理部門が不適切な会計処理を拒否できない。
内部監査部門が経営陣へ厳しい指摘をできない。
この状態では、組織内部で不正を止める仕組みが機能しません。
管理部門には一定の独立性と権限が必要です。
経営トップの姿勢も共通原因になる
品質不正と会計不正の両方を考えるとき、トーンアットザトップも重要になります。
経営トップが、
コンプライアンスを最優先する。
品質を守る。
適切な会計処理をする。
と発言していても、実際の会議では業績数字だけを厳しく追及していたらどうでしょうか。
社員は言葉ではなく行動を見ます。
何を達成した社員が昇進するのか。
悪い情報を報告した社員がどう扱われるのか。
目標未達になった管理職がどう評価されるのか。
こうした実際の行動から、会社の本当の優先順位を判断します。
企業風土という共通原因
品質不正と会計不正が同じ企業で発生した場合、それぞれを完全に独立した問題として扱うだけでは不十分なことがあります。
品質部門の問題。
経理部門の問題。
として別々に処理しても、その背景に共通する企業風土が残っていれば、別の場所で別の不正が発生する可能性があります。
例えば、
目標未達を極端に嫌う。
上司へ反対意見を言いにくい。
悪い情報を報告すると責任を追及される。
結果が良ければ手続き違反を軽視する。
管理部門より事業部門の発言力が強い。
こうした特徴が組織全体に存在していないかを確認する必要があります。
不祥事ごとに別々の対策をするだけでは足りない
品質不正が発覚したから品質研修を増やす。
会計不正が発覚したから会計研修を増やす。
もちろん、それぞれ必要な場合があります。
しかし共通原因が業績プレッシャーや企業風土にあるなら、それだけでは根本的な解決になりません。
業績目標の設定方法。
人事評価制度。
経営会議の運営。
内部通報制度。
管理部門の独立性。
内部監査。
子会社管理。
こうした経営全体の仕組みを見直す必要があります。
品質情報と会計情報はつながっている
品質問題と会計問題は実務上も完全に別々ではありません。
重大な品質問題が発生すれば、
製品回収。
追加検査。
廃棄。
顧客への補償。
生産停止。
などが必要になり、企業の損益へ影響する可能性があります。
品質問題を経営陣へ報告しなければ、その問題から生じる損失も適切な時期に把握できない可能性があります。
企業では品質、法務、会計などの情報を縦割りにせず、重大な問題を横断的に共有することが重要です。
不正の件数だけでなく構造を見る
多数の不適切な行為が発見された場合、
何件あったのか。
何人が関係したのか。
何年間続いたのか。
という数字は重要です。
しかし、さらに重要なのは、
なぜ多くの社員が同じ方向へ動いたのか。
という問題です。
個々の社員が偶然同じような不正を行ったのか。
それとも組織の目標、評価、権限、企業風土などが共通の行動を生み出していたのか。
件数の奥にある構造を見る必要があります。
再発防止は経営そのものの改革になる
品質不正と会計不正に共通する組織的な原因が見つかった場合、再発防止は一つの部署だけの仕事ではなくなります。
経営トップの姿勢を変える。
目標設定を見直す。
人事評価を変える。
品質保証を強化する。
経理や法務の独立性を高める。
内部監査を強化する。
悪い情報を早く報告できる仕組みを作る。
M&A後の子会社管理を改善する。
必要なのは経営システム全体の見直しです。
結論
品質不正と会計不正は、表面に現れる行為は大きく異なります。
品質不正では、検査データの改ざんや無断変更などが問題になります。
会計不正では、売上高や利益、資産、損失などを実態と異なる形で示すことが問題になります。
しかし、根本原因まで掘り下げると共通点が見つかる場合があります。
達成困難な業績目標。
目標未達への強いプレッシャー。
悪い情報を報告しにくい企業風土。
数字だけを重視する人事評価。
管理部門の弱さ。
内部監査の不足。
経営トップの姿勢。
こうした組織的な要因です。
同じ業績プレッシャーでも、経理部門では会計処理へ、製造部門では品質管理へ影響する可能性があります。
そのため品質不正と会計不正を別々の事件として処理するだけでは、共通する根本原因を見逃すことがあります。
重要なのは、不正を行った社員だけを見ることではありません。
なぜその社員がその判断をしたのか。
なぜ上司が止められなかったのか。
なぜ管理部門が機能しなかったのか。
なぜ悪い情報が経営陣へ届かなかったのか。
なぜ同じような問題が複数の場所で起きたのか。
そこまで掘り下げて考える必要があります。
品質不正と会計不正が同じ会社で起こることがあるのは、二つの不正が同じものだからではありません。
異なる不正を生み出す共通の土壌が、組織の中に存在することがあるからです。
企業不祥事の再発を本当に防ぐためには、表面に現れた不正の種類だけではなく、その下にある企業風土や経営の仕組みそのものを変えていくことが必要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 ニデック、品質不正850件
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 ニデックの品質不正「業績圧力が原因」 コスト低減、強く要求
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 ニデック社長「顧客の信頼失った」 一問一答
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 調査報告書要旨