長く続いている中小企業の事業承継では、現在の社長や家族が思ってもいなかった問題が見つかることがあります。
その一つが名義株です。
名義株とは、株主名簿などに記載されている名義人と、実際にその株式の取得資金を負担した人などが一致していない株式を指します。
現在の感覚では、なぜそのような株式が存在するのか不思議に思うかもしれません。
しかし、古い会社では、会社を設立するために親族や知人、従業員などの名前を借りて株主にしたケースがあります。
その状態を何十年も放置すると、創業者世代では事情が分かっていても、世代交代によって経緯を知る人がいなくなります。
そして名義人にも相続が発生すると、株式をめぐる権利関係がさらに複雑になります。
参考記事でも、事業承継前に株主を特定し、名義株を整理することが重要な実務として取り上げられています。
名義株とは何か
会社の株式については、誰が株主なのかを明確にしておく必要があります。
ところが、株主として記録されている人と実態が一致していないケースがあります。
参考記事では、旧商法時代などに親族や旧従業員の名前を借りて出資した株を名義株として説明しています。
たとえば会社を設立するときに、創業者が実質的には資金を負担しているものの、親族の名前も使って株主としていたケースを考えてみます。
書類上では親族が株主として残ります。
創業当時は、創業者と親族の双方が事情を理解しているため、大きな問題にならないかもしれません。
しかし10年、20年、30年と時間が経過すると状況が変わります。
当時の事情を知っている人が少なくなり、なぜその人の名前で株式が記録されているのか分からなくなることがあります。
これが事業承継時の問題につながります。
昔の会社設立制度との関係
参考記事が名義株について特に注意を促しているのは、昔の会社設立制度との関係です。
記事では、旧商法時代には会社設立時に発起人が7人必要だった時期などがあり、その際に親族や旧従業員の名前を借りて出資した名義株が存在することがあると説明されています。
現在の会社制度だけを知っていると理解しにくいところですが、長い歴史を持つ会社では、設立当時の制度が現在の株主構成に影響を残している場合があります。
たとえば創業者一人で事業を始めたという認識でも、昔の会社設立時の書類を見ると、複数の親族や知人の名前が株主として出てくることがあります。
問題は、その後きちんと整理されているかどうかです。
何十年も前の話だから関係ないとは限りません。
事業承継では現在の株主構成だけを見るのではなく、必要に応じて過去まで遡って確認することが重要になります。
名義人と実際の出資者が違うことが問題になります
名義株で難しいのは、書類に名前が載っている人と、本当に株式の権利を持つ人が一致しているとは限らないことです。
参考記事では、現在の株主が法律上も正当な権利者なのかを検証する必要があるとしています。
そのための資料として挙げられているのが、法人税申告書の別表二や過去の株主総会議事録などです。
単に現在の株主名簿だけを確認するのではありません。
過去の資料まで遡り、実態と照合します。
誰がお金を出したのか。
どのような経緯でその人が株主になったのか。
その後、株式がどのように移動したのか。
こうした事実関係を確認し、本当の権利者を整理する必要があります。
参考記事の事業承継の事前準備チェックリストでも、法人税申告書の別表二と実際の株主名簿が一致しているか、過去の名義株の有無を調査して真の所有者を特定できているかが確認事項として挙げられています。
名義人に相続が起きると問題が複雑になります
名義株は、放置する期間が長くなるほど整理が難しくなる可能性があります。
特に問題なのが、名義人の死亡です。
参考記事でも、名義人が死亡して相続が発生すると権利関係が極めて複雑になるため、存命中に名義確認書を交わすなどして、真の所有者へ名義を戻す手続きを進めることが示されています。
たとえば創業時に叔父の名前を借りていたとします。
創業者と叔父が存命で、当時の事情を双方が説明できれば、事実関係を確認する材料を集めやすいでしょう。
ところが叔父が亡くなれば、その子どもたちが関係してくる可能性があります。
さらにその子どもにも相続が起これば、関係者は増えていきます。
何十年前の出資について、事情を知らない次世代の親族と確認しなければならなくなります。
だからこそ、名義株は事業承継直前まで放置しないことが重要なのです。
後継者に株式を集中させる前に確認が必要です
事業承継では、後継者に自社株を集中させることが重要になります。
しかし、その前提として現在の株式の所有関係が明確になっていなければなりません。
たとえば社長自身は自社株を100パーセント所有しているつもりでも、過去の資料を確認すると、親族や元従業員の名前が残っているかもしれません。
その状態で後継者への株式承継を進めようとすると、計画どおりに株式を集中できない可能性があります。
参考記事では、後継者に議決権を確実に集中させ、将来の経営の意思決定が滞るリスクを法的に排除するためにも、現在の株主が正当な権利者なのかを検証することが重要だとしています。
つまり名義株の整理は、単なる書類整理ではありません。
将来の経営権を確実に後継者へ引き継ぐための準備なのです。
過去の資料を捨てないことも重要です
名義株の確認では、古い会社資料が重要な手掛かりになります。
参考記事では、法人税申告書の別表二や過去の株主総会議事録などを遡り、実態と照合することが示されています。
長く続いている会社ほど、昔の資料を単なる古い書類として扱わないことが重要です。
現在の株主名簿だけでは分からない株式の変遷を、過去の資料から確認できる可能性があるからです。
創業時から現在まで株主がどのように変わったのか。
親族や従業員の名前が途中で登場していないか。
株式の移動について説明できる資料が残っているか。
こうした確認が、事業承継時のトラブル防止につながります。
名義株は早く整理するほど対応しやすくなります
事業承継は、社長が引退する直前に始めればよいものではありません。
参考記事では、経営権の移行から逆算して3年から5年前から計画的に着手する必要があるとしています。
名義株も同じです。
関係者が元気で、当時の事情を説明できるうちに確認する方が対応しやすくなります。
時間が経過すれば、関係者が亡くなったり資料が失われたりして、事実関係の確認が難しくなる可能性があります。
事業承継を考え始めたら、株価や税金を計算するだけではなく、まず自社の株式そのものが誰のものなのかを確認する必要があります。
意外に地味な作業ですが、円滑な事業承継を支える重要な土台になります。
結論
名義株とは、株主として記録されている名義人と、実際の株式の権利関係が一致していない可能性がある株式です。
長い歴史を持つ会社では、旧商法時代の会社設立などを背景として、親族や旧従業員の名前を借りた株式が残っていることがあります。
創業当時は問題にならなくても、何十年も経過すると事情を知る人が少なくなります。
さらに名義人に相続が発生すれば、権利関係はより複雑になる可能性があります。
そのため事業承継では、法人税申告書の別表二や過去の株主総会議事録などを確認し、現在の株主が正当な権利者なのかを整理することが重要です。
そして名義株が存在する場合には、関係者が存命で事情を確認できるうちに対応を進めることが求められます。
後継者へ株式を集中させるためには、その前に誰が株式を持っているのかが明確でなければなりません。
名義株の整理は、過去の株主関係を片付ける作業であると同時に、次の世代へ安定した経営権を渡すための事業承継の準備なのです。
参考
企業実務 2026年9月号 貸付用不動産の評価方法見直しが変える社長の相続・事業承継対策の実務