労災保険はこれからどう変わるのか 会社員を前提とした制度から多様な働き方を守る制度へ編

経営

労災保険は、仕事による事故や病気から働く人を守るための制度です。

今回参考にしている資料を見ると、その労災保険が働き方や家族のあり方の変化に合わせて見直されようとしていることが分かります。

資料では、就業構造の変化や働き方の多様化などを踏まえ、労働災害に対する幅広いセーフティネットを整備することが改正の背景として示されています。

今回の改正を個別の制度変更として見るだけでなく、労災保険がどの方向へ変わろうとしているのかという視点から整理してみます。

遺族補償年金等の男女差を見直す

今回の改正で大きく変わるものの一つが、遺族補償年金等です。

資料では、妻が死亡した場合に夫にのみ課されていた年齢または障害に関する支給要件を撤廃するとされています。

さらに、遺族が1人の場合の年金額についても見直します。

現行制度では一定の条件を満たす妻とその他の遺族で給付基礎日額の日数に違いがありますが、改正後は一律175日分とします。

家族のなかで誰が働き、誰が家計を支えるのかという姿が変化するなかで、従来の男女差を見直す改正といえます。

判断が難しい疾病は請求できる期間を延ばす

今回の改正では、労災保険給付の消滅時効についても見直しが行われます。

疾病の性質上、災害補償の対象になるものかどうかなどを容易に判断できない疾病として政令で定めるものについて、療養補償給付等の請求権の消滅時効期間を2年から5年へ延長します。

資料では、脳や心臓の疾患、精神疾患、石綿関連疾病などが政令で指定される予定とされています。

仕事との関係をすぐに判断することが難しい疾病について、疾病の特性に応じた制度へ変えていくことになります。

一人親方等を支える仕組みも整備する

働き方の多様化という点で注目したいのが、一人親方等の特別加入です。

今回の改正では、一人親方等の特別加入に係る手続などを行う団体について、一定の要件を法律に規定します。

資料では、労災保険に係る業務を適切に実施することや、業務災害の防止に関する活動を適切に実施することなどが示されています。

特別加入できる仕組みを設けるだけではなく、その制度を担う団体が適切に機能するための基盤も整備するわけです。

小規模な農林水産業にも強制適用を広げる

今回の資料では、労災保険が適用される事業の範囲についても重要な変更が示されています。

現在、農林水産業の小規模個人経営事業の一部については任意適用となっています。

今回の改正では、この暫定措置を廃止し、強制適用の対象とします。

これまで事業規模や業種によって残されていた例外を見直し、労災保険による保護を広げる方向です。

労働災害に対するセーフティネットを誰まで届けるのかという点で、大きな意味を持つ改正です。

不服申立ての仕組みも整える

セーフティネットを整備するためには、給付の対象を広げるだけでは十分ではありません。

行政上の決定に納得できない場合に、適切に審査を求められる仕組みも必要です。

今回の改正では、社会復帰促進等事業に関する決定への不服申立てについて、労働保険審査官及び労働保険審査会法の対象とします。

さらに、審査請求先と再審査請求先を、労災保険給付に関する決定への不服申立てと同様にします。

給付だけでなく、決定を見直してもらうための手続についても制度を整えることになります。

今回の改正には共通する方向性がある

遺族補償年金等、消滅時効、特別加入団体、農林水産業への適用、不服申立ては、それぞれ別の改正です。

しかし、今回の資料は、これらを就業構造の変化や働き方の多様化などを踏まえた幅広いセーフティネットの整備として位置づけています。

家族のあり方が変われば、遺族への給付条件も見直す必要があります。

疾病によって仕事との関係を判断する難しさが異なれば、請求できる期間についても見直す必要があります。

働き方が変われば、特別加入制度や適用事業の範囲についても考え直す必要があります。

今回の改正を貫いているのは、社会の変化に合わせて労災保険の仕組みを調整していくという考え方です。

2027年4月から大きく変わる

今回の資料では、改正内容について一部を除き2027年4月1日から施行するとされています。

制度改正は、法律が成立した時点で終わるものではありません。

実際に制度を利用する労働者だけでなく、労災保険に関する実務を行う企業や特別加入団体などにも影響します。

施行までに具体的な制度内容を確認し、必要な対応を準備しておくことが重要になるでしょう。

結論

今回の労災保険法等の改正は、単に給付額や手続きを部分的に変更するだけのものではありません。

遺族補償年金等の男女差を見直し、一定の疾病について請求権の消滅時効を2年から5年へ延長します。

一人親方等の特別加入団体について要件を法律に規定し、小規模な農林水産業の一部についても強制適用へ移行します。

さらに、社会復帰促進等事業に関する決定への不服申立ての仕組みも整備します。

資料が示している中心的な考え方は、就業構造の変化や働き方の多様化に対応した幅広いセーフティネットの整備です。

働き方が変われば、働く人を守る制度も変わる必要があります。

今回の改正は、労災保険を多様な働き方や家族のあり方に対応させていくための見直しとして捉えることができるでしょう。

参考

企業実務 2026年9月号 働き方の多様化に対応した労災保険法等の改正

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