年度の初めに時間をかけて予算をつくったものの、半年もたつと実態とかけ離れてしまうことがあります。
原材料価格の上昇、人件費の増加、為替相場の変動、取引先の動向など、企業を取り巻く環境は絶えず変化しています。それにもかかわらず、期初につくった予算だけを基準にして実績を管理し続けると、予実管理そのものが形骸化しかねません。
大切なのは、期初予算を守り続けることではありません。変化した経営環境を踏まえて、今期の着地点を見直し続けることです。
予算はあくまで期初時点の仮説
予算は未来を正確に予測した数字ではありません。
期初時点の原材料価格や外注単価、得意先の動向など、一定の前提条件を置いて作成した計画です。
したがって、その前提が大きく変われば、予算と実績が乖離するのは当然です。
資料では、製造業のK社について、主要な原材料が2割値上がりし、変動費率が上昇した結果、利益計画が大きく崩れた事例が紹介されています。毎月の予実会議でも「材料高騰による差異です」という説明が繰り返され、予算が次第に経営管理の道具として機能しなくなっていきました。 予算、半年で全然使えんくなってもうたんやけど
問題は、予算と実績がずれたことではありません。
前提条件が変わったにもかかわらず、古い前提でつくられた予算を使い続けていることです。
予算を変えてはいけないという思い込み
企業では「一度決めた予算は途中で変えてはいけない」と考えがちです。
もちろん、期初予算を簡単に書き換えてしまえば、当初掲げた目標が分からなくなります。
だからといって、期初予算だけを使い続ける必要もありません。
資料では、期初予算は「本来目指した姿」を示すものとして残し、その隣に「いまの前提なら今期はどこに着地するのか」という着地見込みを置く方法が示されています。 予算、半年で全然使えんくなってもうたんやけど
つまり、
期初予算は目標
着地見込みは現在地から予測した現実
として、両方を管理すればよいのです。
営業利益600万円が240万円になる現実
資料に掲載されたK社の例は、この考え方を非常に分かりやすく示しています。
期初予算では、売上高6,000万円、変動費1,800万円、限界利益4,200万円、固定費3,600万円、営業利益600万円でした。
ところが着地見込みでは、売上高6,000万円は変わらないものの、変動費が2,160万円に増加します。その結果、限界利益は3,840万円に減少し、営業利益は240万円まで落ち込みます。 予算、半年で全然使えんくなってもうたんやけど
営業利益は600万円から240万円ですから、360万円の減少です。
率にすれば60%減となります。
見たくない数字かもしれません。しかし、経営管理では、この見たくない数字を早く見ることに意味があります。
比較する相手を着地見込みに変える
ここから予実管理の意味が変わってきます。
期初予算600万円と現在の実績だけを比較していれば、「原材料価格が上がったから仕方がない」という説明で終わってしまいます。
しかし、原材料価格の上昇を織り込んだうえで営業利益240万円になると予測しておけば、その後の実績との差については別の分析ができます。
材料価格の上昇という外部要因を織り込んでもなお発生している差異は、自社の努力によって改善できる可能性があるからです。
資料でも、実績と比較する相手を期初予算から着地見込みに替えることで、「材料高騰のせいです」だけでは済まなくなり、自分たちの手で埋められる差異が見えてくると説明されています。 予算、半年で全然使えんくなってもうたんやけど
予実会議を反省会から作戦会議へ変える
着地見込みを導入する最大のメリットは、予実会議の性格が変わることではないでしょうか。
予算未達の理由を説明するだけの会議では、過去について話しているだけです。
一方、
営業利益240万円という着地見込みを、残り半年でどこまで引き上げられるか
という問いを置けば、議論は未来に向かいます。
値上げ交渉をするのか。
代替材料を探すのか。
固定費を見直すのか。
商品構成を変えるのか。
利益率の低い取引を見直すのか。
まだ打てる手があるかもしれません。
資料でも、着地見込みを置くことで、予実会議が未達の釈明から残り期間の作戦立案へ変わると指摘されています。 予算、半年で全然使えんくなってもうたんやけど
これは予実管理を考えるうえで非常に重要な視点です。
毎回ゼロから予算をつくり直す必要はない
もっとも、毎月予算をつくり直すとなれば、経理部門の負担が増えてしまいます。
その必要はありません。
売上数量、販売単価、材料価格、人件費、外注単価など、前提条件が大きく変わった部分を更新し、最新の実績を反映させればよいのです。
こうして将来の見通しを継続的に更新していく方法が、ローリングフォーキャストと呼ばれる考え方です。
資料では、大企業を中心に広がっている手法として紹介されていますが、その中身は決して難しいものではありません。実績を取り込みながら、着地見込みを定期的に更新するという考え方です。 予算、半年で全然使えんくなってもうたんやけど
むしろ経営環境の変化を受けやすい中小企業ほど、この発想は有効でしょう。
期初予算と着地見込みは役割が違う
ここで重要なのは、着地見込みをつくるからといって、期初予算が不要になるわけではないことです。
期初予算には、経営者が年度開始時点で何を目指していたのかを残す役割があります。
一方、着地見込みには、現在の情報を使って今後を予測する役割があります。
そして実績は、実際に何が起きたのかを示します。
この3つを並べることで、
当初どこを目指していたのか
現在どこに向かっているのか
実際にはどこまで進んでいるのか
が見えるようになります。
予算を1つの数字として固定するのではなく、経営判断のための情報体系として考えることが重要です。
予算はつくった瞬間から古くなる
どれほど精緻な予算をつくっても、未来を完全に予測することはできません。
むしろ問題なのは、予算が外れることではなく、外れた予算をそのまま使い続けることです。
資料には「予算はつくった日から古び始めます」という趣旨の指摘があります。そして、予実管理の肝は期初ではなく期中にあるとされています。 予算、半年で全然使えんくなってもうたんやけど
予算作成に何週間もかけながら、その後は毎月同じ差異理由を説明しているだけでは、せっかくの予算がもったいありません。
予算は守るための数字ではなく、経営を動かすための数字です。
結論
経営環境が大きく変わったとき、期初予算と実績を比較し続けるだけでは、予実管理が形骸化する可能性があります。
そこで重要になるのが、期初予算を残しながら、最新の状況を反映した着地見込みを定期的に更新することです。
期初予算は目標として残す。
着地見込みは現実に合わせて変える。
実績との差から、残された期間に何をするのかを考える。
この仕組みに変えることで、予実会議は「なぜ達成できなかったのか」を説明する場から、「これから何をするのか」を決める場へ変わります。
予算の価値は、期初にどれほど精密につくったかだけでは決まりません。
環境が変わったときに数字を更新し、次の経営判断につなげられるか。
予実管理で本当に問われるのは、予算をつくった後なのです。
参考
企業実務 2026年10月号「猫と学ぶ『経理力』の磨き方 第10話 予算、半年で全然使えんくなってもうたんやけど」