非上場株式の相続税評価を巡って国税庁が検討している新ルール案では、創業から長い会社が大きな影響を受ける可能性があります。
理由の1つが不動産です。
長く事業を続けている会社では、何十年も前に購入した本社や工場、倉庫などの土地を現在も保有していることがあります。
取得した当時と比べて土地価格が大幅に上昇していれば、会社には大きな含み益が存在します。
現在の非上場株式評価では、この含み益が自社株評価額を押し上げる場合があります。
新ルール案で簿価純資産を使うことになれば、この関係が大きく変わる可能性があります。
長く続く会社には昔取得した資産があります
創業から長い企業には、比較的新しい会社にはない特徴があります。
長い年月をかけて蓄積してきた資産です。
例えば創業者が数十年前に購入した土地に本社を建て、そのまま事業を続けている会社があります。
取得した当時は郊外だった場所が、その後の都市化によって市街地の中心になっていることもあります。
会社から見れば、土地は事業を行うために使い続けているだけです。
しかし土地そのものの価値は大幅に上昇している場合があります。
取得価額と現在の価値には差があります
例えば40年前に3000万円で購入した土地を考えてみます。
その土地の現在の評価額が2億円相当になっているとします。
会社は土地を売却していないため、値上がりした1億7000万円を現金で受け取ったわけではありません。
それでも会社が保有する土地の経済的価値は大きくなっています。
この取得時の金額と現在の価値との差が含み益です。
創業から長い会社では、この含み益が非常に大きくなっているケースがあります。
現在は含み益が自社株評価に影響します
現在の純資産価額方式では、会社の決算書に載っている帳簿価額をそのまま使うわけではありません。
土地などの資産を相続税評価額などに評価し直して会社の純資産価額を計算します。
そのため、昔安い価格で購入した土地が大幅に値上がりしていれば、その値上がりが自社株評価額を押し上げる方向に働きます。
会社には多額の現預金がなくても、土地の含み益によって自社株が高額になることがあるわけです。
これが歴史の長い中小企業の事業承継で問題になることがあります。
土地を売れない会社も少なくありません
さらに難しいのは、その土地が事業に必要な場合です。
本社の敷地や工場、店舗などとして使用していれば、相続税の納税資金をつくるために簡単に売却することはできません。
土地を売却すれば事業そのものを継続できなくなる可能性があります。
つまり会社は高額な資産を持っていますが、自由に現金化できるわけではありません。
一方、自社株評価にはその土地の価値が反映されます。
資産価値は高いのに納税に使える現金が少ないという問題が生じるのです。
新ルールでは簿価純資産を使います
国税庁の新ルール案では、評価の基礎として簿価純資産を使う考え方が示されています。
簿価純資産では、税法上の帳簿価額をもとに資産から負債を差し引きます。
現在のように不動産などを改めて相続税評価額へ置き換える作業が減ることになります。
この変更によって、昔取得した土地に大きな含み益がある会社では自社株評価額が下がる可能性があります。
昔買った土地ほど影響が大きくなる可能性があります
先ほどの例で考えてみます。
40年前に3000万円で購入した土地の現在の評価額が2億円相当だとします。
現在の評価方法では、2億円相当の土地価値が自社株評価に影響することがあります。
一方、新ルール案で税法上の簿価を基礎にするのであれば、現在の評価方法ほど1億7000万円の含み益を株価へ反映しない可能性があります。
他の条件が同じなら、この差は自社株評価額を押し下げる方向に働きます。
取得から長い時間が経過し、その間に土地価格が大幅に上昇した会社ほど影響が大きくなる可能性があります。
創業年数だけでは判断できません
ただし、創業から長い会社なら必ず自社株評価額が下がるわけではありません。
重要なのは創業年数そのものではなく、会社がどのような資産をいつ取得したのかです。
創業100年でも不動産をほとんど保有していない会社があります。
反対に創業20年でも、取得した土地が大幅に値上がりしている会社があります。
さらに借入金などの負債額も株価に影響します。
したがって、新ルールの影響を考える場合には会社の設立年を見るだけでは不十分です。
資産の取得時期と簿価、現在の価値を見る必要があります。
残余利益によって逆方向の影響もあります
さらに新ルール案では、簿価純資産だけで評価額を決めるわけではありません。
残余利益も使います。
創業から長い会社の中には、長年にわたって安定した利益を出している優良企業もあります。
不動産の含み益を現在ほど評価しなくなることで株価が下がる方向に働いても、高い収益力が残余利益として評価されれば株価を押し上げる可能性があります。
つまり不動産の含み益だけを見て、新ルールなら有利だと判断することはできません。
老舗企業ほど収益力との組み合わせが重要です
例えば昔取得した土地を持ち、現在も高収益を続けている会社を考えてみます。
簿価純資産の面では、新ルールによって評価額が下がる方向に働く可能性があります。
一方、残余利益の面では高い収益力によって評価額が上がる方向に働きます。
最終的な自社株評価額は、この両方を組み合わせた結果として決まります。
老舗企業だから新ルールで有利になるという単純な関係ではないのです。
簿価評価には別の問題もあります
簿価を使うことには評価実務を簡単にできる利点があります。
一方で、本当に会社の現在価値を適切に表しているのかという問題があります。
3000万円で取得した土地が現在2億円の価値を持っているのであれば、会社は実際には2億円相当の土地を保有しています。
取得価格が安かったという理由だけで現在の価値を十分に反映しないと、会社の経済的価値を過小評価することにもなりかねません。
専門家からも、不動産などの含み益を除いた純資産ベースでは適正な時価評価とは言いづらいとの指摘が出ています。
新制度では計算の簡便性と評価の適正さをどう両立させるかが重要になります。
事業承継では含み益の確認が重要です
新ルール案が実際に導入される場合、歴史の長い企業では自社が保有する資産の確認が重要になります。
土地をいつ取得したのか。
取得価額はいくらなのか。
税務上の簿価はいくらなのか。
現在の相続税評価額はどの程度なのか。
どれほどの含み益があるのか。
さらに過去5年間にどの程度の利益を出しているのか。
こうした数字を確認することで、新しい評価方法が自社株にどの方向の影響を与えるのかを考えやすくなります。
結論
創業から長い会社では、何十年も前に取得した土地などに大きな含み益が蓄積している場合があります。
現在の非上場株式評価では、その含み益が自社株評価額を押し上げることがあります。
国税庁が検討している新ルール案では、簿価純資産を評価の基礎に使うため、昔取得した不動産の含み益が現在ほど自社株評価へ反映されなくなる可能性があります。
そのため、長期間保有している不動産に大きな含み益がある企業では評価額が下がる可能性があります。
ただし、創業年数だけで有利不利は決まりません。
新ルールでは残余利益も評価されるため、長年高い利益を出している会社では収益力が株価を押し上げる可能性があります。
重要なのは会社の年齢ではなく、長い歴史の中でどのような資産と収益力を蓄積してきたのかです。
これからの事業承継では、自社株評価を見るときにも、決算書に表れている数字だけでなく、その背後にある不動産の含み益まで確認することが重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 非上場株の相続巡る新ルール案 中小の5割超、評価額減少
日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 企業収益力に応じ課税 計算簡単、評価額適正に