インボイス制度では、適格請求書発行事業者ではない免税事業者などから仕入れをした場合、原則として仕入税額控除が制限されます。
ただし、制度導入による影響を緩和するため、一定期間は仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。
ここで迷いやすいのが、1年分の保守料金などを短期前払費用としてまとめて支払った場合です。
サービス提供期間の途中で経過措置の控除割合が変わる場合、1年分を期間ごとに分けて計算するのでしょうか。
短期前払費用は支払った課税期間で処理できる
一定の要件を満たす短期前払費用については、消費税でも、その支出した日の属する課税期間に課税仕入れを行ったものとして取り扱うことができます。
例えば、12月決算の会社が毎年4月に、その年の4月から翌年3月までの1年分の保守料金を支払っているとします。
法人税上の短期前払費用の要件を満たし、継続して支払った事業年度の費用として処理しているのであれば、消費税についても支払った年の課税仕入れとして取り扱うことができます。
翌年1月から3月までのサービスが含まれていても、一定の場合には支払った時点で1年分をまとめて処理できます。
免税事業者からの仕入れには経過措置がある
インボイス制度では、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れについて、原則としてインボイスによる通常の仕入税額控除を行うことができません。
しかし、一定期間については経過措置があります。
例えば、令和8年4月時点では、一定の帳簿と請求書等を保存することなどを条件として、仕入税額相当額の80%を仕入税額とみなして控除できる取扱いがあります。
したがって、免税事業者との取引だからといって、直ちに仕入税額控除が0になるわけではありません。
令和8年4月に1年分を支払った場合
具体的に考えてみます。
12月決算の会社が、適格請求書発行事業者ではない取引先と保守契約を結んでいるとします。
令和8年4月に、令和8年4月から令和9年3月までの1年分の保守料金を支払いました。
この支払いについて短期前払費用の取扱いを適用している場合、消費税でも令和8年4月に1年分の課税仕入れを行ったものとして取り扱うことができます。
したがって、令和8年12月期の消費税申告では、一定の要件を満たすことを前提として、1年分の保守料金について仕入税額相当額の80%を控除する経過措置を適用できます。
サービス提供月ごとに分けるわけではない
ここが実務上重要なところです。
保守サービスそのものは令和9年3月まで続きます。
そのため、令和8年分と令和9年分に分け、それぞれの時期に適用される控除割合を使うようにも思えます。
しかし、短期前払費用として支払日の属する課税期間の課税仕入れとして取り扱う場合には、1年分について支払時点の取扱いを適用することになります。
つまり、役務提供を受ける月ごとに機械的に分割して経過措置の割合を判断するのではありません。
課税仕入れをいつ行ったものとして処理しているのかがポイントになります。
必要な書類と帳簿の保存にも注意する
経過措置を適用するためには、単に免税事業者へ代金を支払えばよいわけではありません。
区分記載請求書等と同様の一定事項が記載された請求書等を保存するとともに、経過措置の適用を受けるために必要な事項を記載した帳簿を保存する必要があります。
インボイスがないから何も保存しなくてよいという制度ではありません。
インボイス発行事業者以外との取引だからこそ、経過措置の要件を満たしているかを確認しておく必要があります。
後から料金が変わった場合はどうするのか
短期前払費用として1年分を支払った後、契約変更などによって保守料金が変わることがあります。
例えば、サービス内容を追加して料金が増えたり、契約の一部を解約して返金を受けたりする場合です。
この場合には、金額の変動が生じた課税期間で課税仕入れに係る消費税額を加算または減算することになります。
重要なのは、その調整に使用する割合です。
当初80%の経過措置を適用していたのであれば、契約変更による増減についても、原則として当初の申告で適用した80%の割合によって調整します。
後から控除割合が変わったからといって、変更時点の割合へ置き換えるわけではありません。
今後は控除割合の変更にも注意する
インボイス発行事業者以外からの課税仕入れに対する経過措置は、恒久的な制度ではありません。
令和8年度税制改正では適用期間が延長される一方、今後は控除可能割合が段階的に変化する仕組みとなっています。
そのため、長期契約や年間契約については、支払日がいつなのかによって仕入税額控除額が変わる可能性があります。
特に短期前払費用を利用している会社では、契約期間だけでなく、実際の支払日と課税仕入れを計上する課税期間を確認することが重要になります。
結論
適格請求書発行事業者ではない免税事業者などに1年分の保守料金を前払いした場合でも、一定の短期前払費用として処理していれば、その支払日の属する課税期間に1年分の課税仕入れを行ったものとして取り扱うことができます。
例えば、令和8年4月に令和9年3月までの1年分を支払い、短期前払費用の要件を満たしている場合には、一定の保存要件のもと、1年分について仕入税額相当額の80%を控除する経過措置を適用できます。
また、後から契約変更によって金額が増減した場合には、原則として当初適用した80%の割合を使って調整します。
インボイス経過措置と短期前払費用が重なる取引では、サービスを受ける期間だけを見るのではなく、消費税上いつ課税仕入れを行ったものとして取り扱うのかを確認することが重要です。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 令和8年・役に立つ消費税実務問答集