インボイス制度では、仕入税額控除を受けるために、原則として帳簿と適格請求書などを保存する必要があります。
しかし、すべての課税仕入れについてインボイスが必要になるわけではありません。
その代表例の1つが、会社が従業員に支給する通勤手当です。
一定の通勤手当については、会社が従業員からインボイスを受け取らなくても、必要事項を記載した帳簿を保存することで仕入税額控除が認められます。
通勤手当も課税仕入れになる
会社が従業員へ支払う給与そのものは、通常、消費税の課税仕入れにはなりません。
従業員は会社との雇用契約に基づいて働いており、事業者として会社に役務を提供しているわけではないからです。
ところが、通勤手当については特別な取扱いがあります。
従業員などの通勤に通常必要と認められる部分については、会社の課税仕入れに係る支払対価の額として取り扱われます。
そのため、一定の要件を満たせば仕入税額控除の対象になります。
従業員からインボイスをもらう必要はない
インボイス制度の原則だけを考えると、仕入税額控除を行うためには適格請求書を保存しなければならないように思えます。
しかし、通勤手当について従業員にインボイスを発行してもらうことは現実的ではありません。
そこで、通勤手当のうち通勤に通常必要と認められる部分については、一定事項を記載した帳簿のみを保存することで仕入税額控除を認める特例が設けられています。
つまり、会社が従業員ごとに交通機関のインボイスを必ず回収しなければならないという仕組みではありません。
通勤に通常必要な金額が対象になる
対象になるのは、従業員などが通勤するために通常必要と認められる部分です。
例えば、電車やバスなどを利用して自宅と勤務先を往復するために通常必要となる交通費が考えられます。
ここで注意したいのは、所得税で非課税となる通勤手当の限度額と、消費税の仕入税額控除における判断基準は必ずしも同じではないことです。
消費税では、通勤に通常必要と認められるものであれば、所得税法上の非課税限度額を超えているかどうかだけで仕入税額控除の可否を判断するわけではありません。
所得税の非課税通勤手当と消費税の通勤手当特例を混同しないことが重要です。
帳簿には何を記載するのか
帳簿だけで仕入税額控除を受けられるからといって、単に通勤手当の金額だけを記録しておけばよいわけではありません。
通常の課税仕入れについて帳簿に必要となる事項として、課税仕入れの相手方の氏名または名称、課税仕入れを行った年月日、課税仕入れに係る資産または役務の内容、課税仕入れに係る支払対価の額などがあります。
さらに、帳簿のみの保存による特例を利用する場合には、その取引が特例の対象となる仕入れであることが分かるようにする必要があります。
通勤手当であれば、帳簿上で通勤手当であることを確認できるようにしておくことがポイントです。
摘要欄に通勤手当と記載する
実務上分かりやすい方法が、帳簿の摘要欄に通勤手当と記載することです。
例えば、給与と一緒に通勤手当を支給している場合でも、帳簿上で通勤手当部分を確認できるようにします。
摘要欄に通勤手当と記載しておけば、帳簿のみで仕入税額控除が認められる特例に該当する取引であることを示すことができます。
インボイスが不要ということは、記録まで不要という意味ではありません。
むしろ、インボイスを保存しないからこそ、帳簿上で特例の対象であることを明確にしておく必要があります。
従業員の住所まで記載する必要はない
帳簿のみで仕入税額控除が認められる取引の中には、仕入れの相手方の住所や所在地の記載が必要となるものがあります。
しかし、通勤手当については、相手方である従業員の住所または所在地を帳簿に記載する必要はないとされています。
そのため、通勤手当については通常の帳簿記載事項に加え、通勤手当であることを明らかにしておくことが実務上重要になります。
従業員全員の住所を消費税の帳簿へ追加する必要があるということではありません。
給与と通勤手当を区別して管理する
給与と通勤手当を一緒に振り込んでいる会社は多いでしょう。
しかし、消費税上の取扱いは同じではありません。
給与そのものは通常、課税仕入れにはなりません。
一方、通勤に通常必要と認められる通勤手当については、一定の要件のもとで課税仕入れとして仕入税額控除の対象になります。
そのため、給与総額だけをまとめて会計処理するのではなく、消費税計算上は通勤手当部分を区分して把握できるようにしておくことが大切です。
結論
従業員に支給する通勤手当のうち、通勤に通常必要と認められる部分については、課税仕入れに係る支払対価の額として取り扱われます。
そして、インボイスを保存していなくても、一定事項を記載した帳簿を保存することで仕入税額控除を受けることができます。
実務上は、通常必要となる帳簿記載事項に加えて、摘要欄などに通勤手当であることを明確に記載しておくことが重要です。
また、消費税における通常必要な通勤手当の範囲は、所得税の非課税限度額だけで判断するものではありません。
インボイス制度では原則だけでなく、通勤手当のように帳簿だけで仕入税額控除が認められる特例を理解しておくことで、不要な書類収集を避けながら正しい消費税処理を行うことができます。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 令和8年・役に立つ消費税実務問答集