日本銀行の金融政策の正常化に伴い、個人向け国債の金利が上昇しています。長く続いた超低金利時代には、個人向け国債の利回りは低く、資産運用の選択肢として十分な魅力を感じにくい状況が続いていました。
しかし、2026年には日本銀行の政策金利が1.25%となり、国債市場の金利も上昇しています。2026年10月募集分の個人向け国債では、固定3年、固定5年、変動10年のいずれも表面利率が年2%を超える水準となりました。
元本の安全性を重視する個人投資家にとって、個人向け国債は再び有力な資金の運用先になっています。
特に、教育費、住宅購入資金、退職金、老後の生活予備資金など、将来使う予定があり、できるだけ元本を減らしたくない資金との相性がよい金融商品です。
ただし、個人向け国債には3種類あり、それぞれ金利の決まり方や満期までの期間が異なります。
重要なのは、現在の金利の高さだけで判断せず、今後の金利変動と資金を使用する時期を踏まえて選択することです。
個人向け国債の基本的な仕組み
個人向け国債は、日本国政府が個人投資家向けに発行する国債です。
銀行、証券会社などの取扱金融機関を通じて購入でき、最低購入金額は1万円です。購入金額は1万円単位で設定できます。
個人向け国債の大きな特徴は、国が元本と利子の支払いを行うことです。
また、発行後1年を経過すれば、原則として国の買い取りによって中途換金できます。
市場で売却する一般的な国債とは異なり、金利上昇によって市場価格が下落した場合でも、個人向け国債は額面金額を基準に中途換金できます。
ただし、中途換金時には所定の調整額が差し引かれるため、受取総額が常に額面金額と一致するわけではありません。
利子は原則として半年ごとに支払われ、利子に対して20.315%の税金が源泉徴収されます。
個人向け国債には、固定3年、固定5年、変動10年の3種類があります。
固定3年は短中期の資金管理に適している
固定3年は、購入時に決まった金利が満期まで変わらない個人向け国債です。
満期は3年で、半年ごとに同じ利率に基づく利子を受け取ります。
例えば、300万円を年2.0%の固定3年で購入した場合、年間の税引き前利子は6万円です。
半年ごとに3万円の税引き前利子を受け取る計算になります。
税引き後の年間利子は約4万7,811円で、3年間では約14万3,433円となります。
これは年2.0%の利率が適用され、満期まで保有する場合の概算です。
固定3年の利点は、比較的短い期間で満期を迎えるため、資金計画を立てやすいことです。
例えば、3年後に必要となる教育費や住宅購入資金など、使用時期が明確な資金に適しています。
一方、購入後に市場金利が上昇しても、受取利率は変わりません。
そのため、金利が大きく上昇する局面では、新たに発行される国債より低い利率で保有を続ける可能性があります。
固定5年は一定の利息を長く確保できる
固定5年も、購入時の利率が満期まで変わらない商品です。
固定3年より満期が長いため、将来の受取利息を5年間にわたって見通せることが特徴です。
例えば、500万円を年2.2%の固定5年で購入した場合、年間の税引き前利子は11万円です。
税引き後の年間利子は約8万7,653円となり、5年間では約43万8,268円になります。
これは利率を年2.2%と仮定した試算であり、実際の募集利率を示すものではありません。
固定5年の利点は、購入後に市場金利が低下した場合でも、当初の利率を維持できることです。
例えば、購入時の金利が年2.2%で、その後新規発行される国債の金利が年1.0%へ低下しても、保有している固定5年の利率は変わりません。
反対に、金利がさらに上昇した場合には、より高い利率の商品へ乗り換えたくなる可能性があります。
固定5年は、一定の利息を確保しながら、中期的な資金を管理したい場合に適しています。
変動10年は金利上昇への対応力がある
変動10年は、半年ごとに適用利率が見直される個人向け国債です。
適用利率は、基準金利に0.66を乗じる仕組みで決定されます。
そのため、市場金利が上昇すれば、受取利率も上昇する可能性があります。
例えば、当初の適用利率が年2.0%で、その後の金利見直しによって年2.5%になれば、次の利払期間から受け取る利子が増えます。
一方、市場金利が低下すれば、受取利率も低下する可能性があります。
ただし、個人向け国債には年0.05%の最低金利保証があります。
変動10年の満期は10年ですが、必ずしも10年間保有する必要はありません。
発行後1年を経過すれば、原則として中途換金が可能です。
そのため、変動10年は長期間保有する資金だけでなく、将来の金利上昇に対応しながら一定の換金性を確保したい資金にも利用できます。
ただし、中途換金時には調整額が差し引かれることを理解しておく必要があります。
3種類の金利は同じ仕組みで決まるわけではない
個人向け国債を比較する際には、3種類の金利決定方法の違いが重要です。
固定3年の利率は、基準金利から0.03%を差し引いて決まります。
固定5年の利率は、基準金利から0.05%を差し引いて決まります。
変動10年の利率は、基準金利に0.66を乗じて決まります。
それぞれ参照する基準金利の年限も異なります。
したがって、固定3年、固定5年、変動10年の利率が、常に満期の長い順に高くなるとは限りません。
市場の金利環境によっては、固定3年の利率が固定5年や変動10年を上回ることも考えられます。
個人向け国債を購入する際には、毎月公表される募集条件を確認し、その時点での利率を比較することが重要です。
中途換金では直前2回分の利子相当額が調整される
個人向け国債の中途換金では、原則として発行後1年間は換金できません。
発行後1年を経過すると、原則としていつでも中途換金できます。
ただし、中途換金時には、直前2回分の各利子の税引き前金額に0.79685を乗じた金額が、中途換金調整額として差し引かれます。
0.79685は、利子に対する20.315%の税金を考慮した係数です。
例えば、300万円を年2.0%の固定金利で保有している場合、半年分の税引き前利子は3万円です。
直前2回分の税引き前利子は6万円となり、中途換金調整額は4万7,811円です。
この場合、額面300万円から調整額を差し引いた中途換金代金は295万2,189円となります。
ただし、保有期間中に受け取った利子も含めて考える必要があります。
中途換金代金だけを見て、直ちに元本割れと判断することは適切ではありません。
また、変動10年では利率が半年ごとに変わるため、直前2回の利子額も異なる場合があります。
金利上昇局面では変動10年が有利とは限らない
金利が上昇している局面では、変動10年が有利と考えられがちです。
確かに、変動10年には金利上昇を受取利息に反映できるという特徴があります。
しかし、固定3年や固定5年の募集利率が高い場合には、固定金利商品を選ぶことにも合理性があります。
例えば、固定5年の利率が年2.5%、変動10年の当初利率が年2.0%であれば、変動10年が固定5年を上回るためには、その後の適用利率が十分に上昇する必要があります。
また、金利上昇が予想より早く終了し、その後低下に転じる可能性もあります。
したがって、金利上昇局面だからといって、すべての資金を変動10年に集中させる必要はありません。
固定金利と変動金利を組み合わせることも、金利変動への対応策となります。
購入時期を分散する方法
個人向け国債は原則として毎月募集されています。
そのため、まとまった資金を一度に購入するのではなく、複数回に分けて購入する方法があります。
例えば、600万円を個人向け国債で運用する場合、200万円ずつ3カ月に分けて購入する方法です。
購入時期を分散することで、それぞれ異なる募集利率が適用されます。
金利が上昇すれば、後から購入する国債の利率が高くなる可能性があります。
一方、金利が低下すれば、早い時期に購入した国債の方が有利になる場合があります。
購入時期の分散は、金利変動の影響を平準化する方法の一つです。
ただし、必ず運用収益が高くなるわけではありません。
購入までの待機資金をどこに置くかも含めて判断する必要があります。
教育費や住宅購入資金は満期を意識する
個人向け国債を選ぶ際には、資金を使用する時期から逆算することが重要です。
例えば、3年後に大学進学費用として300万円が必要になる場合、固定3年の個人向け国債は選択肢になります。
ただし、実際の入学金や授業料の支払日が国債の満期より早い場合には、別途資金を確保する必要があります。
5年後に住宅購入を予定している場合には、固定5年を活用する方法が考えられます。
一方、使用時期が明確ではない老後の生活予備資金については、変動10年を利用し、金利変動に対応しながら保有する方法もあります。
ただし、生活防衛資金の全額を個人向け国債に充てることは避けるべきです。
発行後1年間は原則として換金できないため、緊急時に必要な資金は普通預金などで確保する必要があります。
新窓販国債との違いにも注意する
国債には、個人向け国債のほかに、新窓販国債などの市場価格で売買される国債があります。
新窓販国債は、一般に市場金利に応じた利回りで購入でき、個人向け国債より高い利回りとなる場合があります。
ただし、満期前に売却すると市場価格によって損益が発生します。
金利が上昇すると、既に発行されている固定利付国債の市場価格は通常下落します。
そのため、途中で売却した場合には元本割れする可能性があります。
一方、満期まで保有する場合には、発行体である国が約束どおり元利金を支払うことを前提として、購入時の価格と利回りから収益を見通せます。
ただし、額面金額と異なる価格で購入した場合には、償還時の額面との差額も考慮する必要があります。
元本の安全性と中途換金時の価格変動リスクを重視する場合には、個人向け国債の特徴を理解して選択することが重要です。
退職金や老後資金への活用
退職金を受け取った場合、すべてを普通預金に置くことが最適とは限りません。
例えば、退職金2,000万円のうち、当面の生活費や医療・介護への備えとして500万円を預金で確保し、残りの一部を個人向け国債で運用する方法が考えられます。
ただし、退職後の収入、年金受給額、住宅ローンの有無、健康状態、家族構成などによって適切な配分は異なります。
個人向け国債は元本の安全性を重視する資金の運用先として有力ですが、物価上昇による購買力の低下を完全に防げるわけではありません。
長期的な老後資金については、預金、個人向け国債、株式投資信託などの役割を分けて管理することが重要です。
結論
個人向け国債は、金利上昇時代における安全資産の有力な選択肢です。
固定3年は比較的短い期間で使う予定の資金、固定5年は一定の利率を中期的に確保したい資金、変動10年は金利変動に対応しながら保有したい資金に適しています。
ただし、変動10年が常に有利というわけではありません。
今後の金利動向、購入時点の募集利率、資金を使用する時期、中途換金の可能性などを総合的に判断する必要があります。
また、購入時期や商品の種類を分散することで、金利変動の影響を抑えることも考えられます。
人生100年時代の資産管理では、資産を増やすことだけでなく、将来必要になる資金を確実に確保することが重要です。
個人向け国債の選択で大切なのは、最も高い金利の商品を探すことではなく、資金の使用目的と期間に合った商品を選ぶことです。
参考
日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「金利上昇『安全資産』を選ぶ MRFと国債、用途で使い分け」
財務省「個人向け国債の商品概要」
財務省「個人向け国債の中途換金」
財務省「国債の金利と価格の関係」
国税庁「利子所得の課税関係」