相続税や贈与税の土地評価では、私道を含む土地の評価が難しい問題になることがあります。
特に、複数の所有者がそれぞれ土地の一部を提供して道路を形成している場合には、評価単位や評価減の適用について判断に迷うことがあります。
例えば、自宅の敷地が位置指定道路の奥にあり、公道に出るためには他人が所有する私道部分を通らなければならない場合です。
このような土地について、他人の所有地を通らなければ公道に出られないことを理由に、相続税評価額を減額できるのでしょうか。
また、建物敷地と私道部分を別々に評価するべきなのか、それとも旗竿状の土地として一体評価することができるのでしょうか。
今回は、2026年度の税理士研修資料で紹介された事例をもとに、位置指定道路を構成する私道の評価方法と、評価単位の判断について解説します。
位置指定道路を構成する私道の評価事例
今回の研修資料では、位置指定道路を構成する複数の土地のうち、1筆が評価対象となっている事例が紹介されています。
評価対象地は、建物敷地と私道部分から構成されています。
建物敷地は位置指定道路に接していますが、公道に直接接しているわけではありません。
公道から建物敷地に入るためには、他人が所有する私道部分を通行する必要があります。
位置指定道路は、建築基準法第42条第1項第5号に基づく道路です。
今回の事例では、公道には路線価が設定されていますが、位置指定道路自体には路線価が設定されていません。
このような場合、他人の所有地を通行しなければならないという事情を理由に、評価額を減額できるのかが問題になります。
さらに、建物敷地と私道部分をどのような評価単位で評価するのかという問題もあります。
位置指定道路とは何か
位置指定道路とは、土地所有者などが道路を築造し、特定行政庁から道路の位置の指定を受けたものです。
建築基準法では、原則として建築物の敷地は、建築基準法上の道路に2m以上接する必要があります。
そのため、公道に直接接していない土地であっても、位置指定道路に接していれば、一定の条件のもとで建物を建築できる場合があります。
例えば、大きな土地を複数の住宅用地に分割する場合です。
各住宅用地が公道に直接接していないと、建築基準法上の接道義務を満たせないことがあります。
そこで、土地の一部を道路として整備し、位置指定道路として指定を受けることで、各住宅用地が建築基準法上の道路に接する形になります。
このような位置指定道路は、複数の土地所有者によって所有されていることがあります。
また、道路部分が複数の筆に分かれている場合もあります。
そのため、建物敷地の所有者が、道路全体を所有しているとは限りません。
他人の私道を通らなければならない場合
今回の事例では、評価対象地から公道に出るために、他人が所有する私道部分を通行する必要があります。
このような状況を見ると、土地の利用に制約があるように感じられます。
例えば、他人の土地を通行することについて、将来トラブルが発生するのではないかという不安があります。
また、道路の維持管理や補修について、他の所有者との調整が必要になる場合もあります。
そのため、他人の所有地を通らなければならないことを理由に、評価額を減額できるのではないかと考えるかもしれません。
しかし、今回の研修資料では、この事情だけを理由とする評価減は認められないという見解が示されています。
その理由は、位置指定道路の性質にあります。
位置指定道路は所有者が共同で利用する道路
位置指定道路では、複数の土地所有者が、それぞれ土地の一部を道路として提供していることがあります。
そのため、各所有者は、自分が所有する私道部分だけでなく、他人が所有する私道部分も通行して公道に出ることになります。
研修資料では、このような関係を、いわば運命共同体のようなものと説明しています。
つまり、他人の所有地を通行することは、位置指定道路を利用する所有者の多くに共通する事情です。
このような道路の利用形態を前提として建物敷地が形成されているのであれば、他人の所有する私道を通行するという理由だけで、特別な利用制約があるとは判断しにくいということです。
したがって、今回の事例では、他人の私道を通らなければならないこと自体を理由とする評価減は行わないという考え方が示されています。
ただし、実際に通行を妨げる事情がある場合や、道路の利用に特別な法的制限がある場合には、別途検討が必要になることがあります。
私道の所有権と通行の問題は区別する
ここで重要なのは、私道の所有権と通行の可否を区別することです。
例えば、道路部分の所有者が複数に分かれている場合でも、建築基準法上の位置指定道路として利用されていることがあります。
一方、位置指定道路であることだけで、すべての私法上の通行権や掘削権が無条件に認められるわけではありません。
道路の所有関係や通行に関する契約、地役権の設定状況などによって、権利関係が異なる場合があります。
したがって、相続税評価では、道路が位置指定道路であることを確認するだけでなく、実際の利用状況や権利関係を把握することが重要です。
今回の研修資料では、他人の私道を通行することが位置指定道路の通常の利用形態であり、特別な利用制約がないことを前提として、評価減を行わないという見解が示されています。
建物敷地と私道部分は別々に評価するのが一般的
次に問題になるのが、評価単位です。
今回の事例では、建物敷地と私道部分を所有しています。
この場合、建物敷地と私道部分を別々に評価する方法が考えられます。
研修資料では、一般的には、建物敷地と私道部分を別々の評価単位として評価することが多いと説明されています。
つまり、評価単位を2つに分ける方法です。
建物敷地については、宅地としての利用状況に基づいて評価します。
一方、私道部分については、道路としての利用状況や権利関係などを踏まえて評価します。
このように分けることで、それぞれの土地の利用実態を評価に反映させることができます。
ただし、建物敷地と私道部分の位置関係によっては、別の評価方法を検討する余地があります。
私道の一番奥に建物敷地がある場合
研修資料では、建物敷地が位置指定道路の一番奥にある場合について、特別な評価方法が紹介されています。
例えば、公道から細長い私道が延び、その最も奥に評価対象の建物敷地がある場合です。
このような土地では、建物敷地と私道部分を組み合わせると、旗竿状の土地に似た形状になります。
そこで、研修資料では、私道部分と建物敷地を旗竿状の土地と見立てて、一体評価する方法も考えられると説明しています。
この場合、評価単位は1つになります。
通常であれば、建物敷地と私道部分を別々に評価するところを、土地全体を一体として評価するという考え方です。
ただし、これは研修講師が示した個別事例に対する実務的な評価方針です。
財産評価基本通達において、位置指定道路の一番奥に建物敷地がある場合には、必ず一体評価できると定められているわけではありません。
実際に採用する場合には、土地の所有関係や利用状況、評価単位の合理性を慎重に検討する必要があります。
旗竿状の土地として評価する考え方
旗竿状の土地とは、道路から細長い通路部分が延び、その奥に広い敷地がある土地です。
一般的に、旗竿状の土地では、道路に面する部分が狭く、土地の形状が不整形になることがあります。
そのため、通常の整形地と比較して、利用上の制約が生じる場合があります。
相続税評価では、土地の形状などに応じて、不整形地補正を検討することがあります。
今回の研修資料では、建物敷地が私道の一番奥に位置する場合について、建物敷地と私道部分を旗竿状の土地と見立てて一体評価する方法が紹介されています。
この方法では、土地全体の形状を踏まえて、不整形地補正などを検討することになります。
ただし、私道部分が建物敷地と同じように自由に利用できるとは限りません。
そのため、単に土地が連続しているという理由だけで、一体評価が適切になるわけではありません。
建物敷地と私道部分の利用状況を確認し、評価単位としての合理性を検討する必要があります。
不整形地補正を検討する余地がある
研修資料では、今回のような土地について、不整形地補正率を用いた評価も選択肢の1つとして紹介されています。
不整形地補正は、土地の形状が不整形であることによって、利用上の制約が生じる場合に適用を検討するものです。
例えば、土地の形状が複雑で、建物の配置や土地利用に制約がある場合です。
今回のように、建物敷地と私道部分を一体として考えると、細長い通路部分と奥の敷地から構成される形状になります。
このような場合、不整形地補正を検討する余地があるという考え方です。
ただし、研修資料では、この評価方法についてグレーゾーンであることも明示されています。
したがって、不整形地補正を適用できるかどうかは、土地の形状や評価単位の判断などを踏まえて慎重に検討する必要があります。
単に評価額を下げたいという理由だけで、不整形地補正を適用することは適切ではありません。
建物敷地が私道の途中にある場合
研修資料では、建物敷地が私道の一番奥にない場合についても説明されています。
例えば、位置指定道路に沿って複数の住宅が建ち並び、評価対象の建物敷地が道路の途中に位置している場合です。
このような場合には、建物敷地と私道部分を一体として旗竿状の土地とみなすことが難しくなります。
研修資料では、建物敷地が私道の途中に位置している場合には、建物敷地と私道部分を別々の評価単位として評価する方がよいという見解が示されています。
つまり、評価単位は2つになります。
この判断では、建物敷地が私道のどの位置にあるかが重要になります。
同じ位置指定道路を構成する土地であっても、建物敷地が一番奥にある場合と、途中にある場合とでは、評価単位の考え方が異なる可能性があります。
私道部分が建物敷地と離れている場合
さらに、研修資料では、私道部分が建物敷地に隣接していない場合についても図示されています。
例えば、建物敷地とは離れた場所に、位置指定道路を構成する1筆の私道を所有している場合です。
このような場合、建物敷地と私道部分を旗竿状の土地として一体評価することは、通常、合理的ではありません。
建物敷地と私道部分が離れているため、土地全体を1つの形状として捉えることが難しいからです。
したがって、建物敷地と私道部分を別々に評価する方法が基本的な検討対象になります。
ただし、実際の評価では、私道部分の所有形態や利用状況などを確認する必要があります。
特に、私道部分が単独所有なのか、共有持分なのかによっても、評価対象となる権利の内容が異なります。
私道部分は30%評価になるのか
相続税評価では、私道について、一定の要件を満たす場合に評価減が認められています。
例えば、特定の者の通行の用に供されている私道については、原則として自用地評価額の30%相当額で評価する取扱いがあります。
一方、不特定多数の者の通行の用に供されている私道については、一定の要件のもとで評価しない取扱いがあります。
ただし、位置指定道路であるという理由だけで、必ず30%評価になるわけではありません。
実際に誰が通行しているのか、道路がどのように利用されているのかなどを確認する必要があります。
また、今回の事例で問題となっているのは、私道部分自体の評価だけではありません。
建物敷地と私道部分を別々に評価するのか、一体評価するのかという評価単位の問題もあります。
この2つは区別して検討する必要があります。
なお、今回の研修資料では、建物敷地と私道部分の評価単位について実務的な提案が示されていますが、個別の私道部分について具体的な30%評価の適用可否まで一律に確定しているわけではありません。
評価単位によって評価額が変わる可能性がある
ここで、仮定の事例を考えてみましょう。
建物敷地の面積が150㎡、私道部分の面積が30㎡あるとします。
建物敷地と私道部分を別々に評価する場合には、それぞれの利用状況に応じて評価額を算出します。
一方、建物敷地と私道部分を一体評価する場合には、合計180㎡の土地について、旗竿状の形状を踏まえた評価を検討することになります。
この場合、不整形地補正などの適用によって、評価額が変わる可能性があります。
ただし、どちらの方法が必ず低い評価額になるとは限りません。
また、評価額が低くなる方法を自由に選択できるわけでもありません。
評価単位は、土地の利用状況や権利関係などに基づいて合理的に判断する必要があります。
研修資料では、建物敷地が私道の一番奥にある場合について、別々に評価する方法と一体評価する方法を試算し、評価額の妥当性を検討するという実務的な考え方が示されています。
ただし、実際の申告では、採用した評価方法が財産評価基本通達の考え方と整合しているかを確認することが重要です。
実務では位置指定道路の図面を確認する
今回のような土地を評価する場合には、位置指定道路の状況を正確に把握する必要があります。
まず、建築基準法上の道路種別を確認します。
次に、位置指定道路の指定図などを確認し、道路の位置や幅員を把握します。
さらに、土地の登記事項証明書や公図などを確認し、建物敷地と私道部分の所有関係を調べます。
また、私道部分が単独所有なのか、共有持分なのかを確認することも重要です。
建物敷地と私道部分の位置関係については、現地調査を行う必要があります。
特に、建物敷地が私道の一番奥にあるのか、途中にあるのか、私道部分と隣接しているのかといった点が重要になります。
これらの情報は、評価単位を判断するための基礎資料になります。
通行や掘削に関する権利関係も確認する
位置指定道路では、通行だけでなく、水道管や下水道管などの埋設について問題が生じる場合があります。
例えば、建物の建て替えに伴って、水道管を新たに設置する必要がある場合です。
その際、他人が所有する私道部分を掘削する必要が生じることがあります。
このような場合には、道路の所有関係や利用に関する契約などを確認することが重要です。
ただし、通行や掘削について他の所有者との調整が必要になるという事情だけで、直ちに相続税評価額を減額できるわけではありません。
具体的な権利関係や利用上の制約を確認し、評価に影響する事情があるかどうかを検討する必要があります。
また、民法上の隣地使用やライフライン設備の設置に関する規定などが関係する場合もあります。
実務では、必要に応じて司法書士や弁護士などの専門家に確認することも考えられます。
評価方法を採用した理由を明確にする
今回の研修資料では、位置指定道路を構成する私道について、複数の評価方法が紹介されています。
一般的には、建物敷地と私道部分を別々に評価する方法です。
一方、建物敷地が私道の一番奥に位置する場合には、旗竿状の土地と見立てて一体評価する方法も検討できるとされています。
また、不整形地補正を用いることについても、実務的な選択肢として紹介されています。
ただし、これらの方法には、個別の土地条件によって判断が分かれる部分があります。
そのため、実際の申告で採用する場合には、評価方法の合理性を説明できるようにしておく必要があります。
例えば、建物敷地と私道部分を一体評価する場合には、なぜ一体として評価することが適切なのかを説明する必要があります。
また、不整形地補正を適用する場合には、その補正が土地の利用上の制約を適切に反映していることを確認する必要があります。
評価額の計算結果だけでなく、その評価方法を採用した理由を整理しておくことが重要です。
結論
位置指定道路を構成する私道の相続税評価では、他人の所有する私道を通行しなければならないという事情だけで、評価減が認められるわけではありません。
今回の研修資料では、位置指定道路は複数の所有者が共同で利用する道路であり、他人の私道を通行することは通常の利用形態であるため、それ自体を理由とする評価減は行わないという見解が示されています。
一方、建物敷地と私道部分の評価単位については、土地の位置関係によって判断が異なる可能性があります。
一般的には、建物敷地と私道部分を別々に評価する方法が考えられます。
しかし、建物敷地が私道の一番奥に位置する場合には、旗竿状の土地として一体評価する方法も、実務的な選択肢として紹介されています。
また、不整形地補正についても検討する余地があります。
ただし、これらの方法は、すべての位置指定道路に一律に適用できるものではありません。
実際の評価では、建物敷地と私道部分の位置関係、所有関係、道路の利用状況などを確認する必要があります。
相続税の土地評価では、登記上の筆数だけでなく、土地がどのように利用されているかを把握することが重要です。
特に、位置指定道路を含む土地については、建物敷地と私道部分の関係を正確に確認し、合理的な評価単位を判断することが求められます。
適正な評価額を算出するためには、道路の法的な位置付けと土地の実際の利用状況を踏まえ、評価方法を慎重に検討することが重要なのです。
参考
東京税理士会 2026年8月13日 令和8年度第16回会員研修会資料 相続・贈与の土地評価実務Q&A
国税庁 財産評価基本通達 私道の用に供されている宅地の評価
国税庁 財産評価基本通達 不整形地の評価
建築基準法 第42条第1項第5号