企業経営では、売上を伸ばすことが重要ですが、それ以上に大切なのが「売上代金を確実に回収すること」です。どれほど優れた商品やサービスを提供しても、代金が回収できなければ利益は失われ、資金繰りにも深刻な影響を与えます。
近年は物価上昇や人件費の増加、金利の上昇などを背景に、企業倒産件数は増加傾向にあります。昨日まで問題なく取引していた会社が、突然経営危機に陥ることも珍しくありません。
だからこそ、経営者には「倒産してから対応する」のではなく、「倒産の兆候を早期に察知する」視点が求められます。
今回は、取引先の倒産リスクを見抜くために押さえておきたい五つのポイントをご紹介します。
第一のポイント 支払条件の変化に注意する
取引先が資金繰りに苦しみ始めると、最初に表れやすいのが支払条件の変化です。
例えば、
・支払日を延ばしてほしいと依頼される
・分割払いを希望する
・振込予定日がたびたび変更される
・入金遅延が増える
こうした変化は、一時的な事情による場合もありますが、継続して発生する場合は資金繰りが悪化している可能性があります。
小さな変化を見逃さないことが重要です。
第二のポイント 経営者や幹部の動きを観察する
会社の経営状態は、経営者の行動にも表れます。
例えば、
・担当者や役員が短期間で交代する
・連絡が取りにくくなる
・経営者が資金調達の話ばかりする
・重要な意思決定が遅くなる
こうした変化が重なる場合は、社内で何らかの問題が発生している可能性があります。
数字だけでは見えない情報も、与信管理では大切な判断材料になります。
第三のポイント 決算書や業績の変化を見る
継続的な取引先であれば、可能な範囲で決算情報にも目を向けたいところです。
例えば、
・売上が大きく減少している
・赤字が続いている
・借入金が急増している
・自己資本が減少している
このような変化は、経営体力が弱まっているサインかもしれません。
一つの数字だけで判断するのではなく、数年分を比較して傾向を見ることが大切です。
第四のポイント 業界全体の動向を確認する
倒産リスクは、その会社だけの問題とは限りません。
例えば、建設業、飲食業、運送業、小売業などは、景気や原材料価格、人手不足の影響を受けやすい業種です。
業界全体が厳しい状況にある場合には、優良企業であっても資金繰りが悪化することがあります。
新聞や業界紙などから業界全体の動向を把握しておくことも、重要なリスク管理になります。
第五のポイント 日頃のコミュニケーションを大切にする
最も価値のある情報は、実は日頃のやり取りの中にあります。
営業担当者との会話や訪問時の雰囲気、工場や店舗の稼働状況、従業員の様子などから、小さな異変を感じ取れることがあります。
また、取引先との信頼関係が築けていれば、資金繰りや経営課題について率直に相談を受けることもあります。
数字だけでは分からない情報を得られることが、日頃のコミュニケーションの大きな価値です。
与信管理は営業活動の一部である
与信管理というと、経理部門だけの仕事と思われがちです。
しかし実際には、営業担当者が最前線で得る情報こそが重要になります。
営業、経理、経営者が情報を共有し、「少し気になる」という段階から対応を始めることで、大きな損失を防げる可能性が高まります。
与信管理は、会社全体で取り組むべき経営課題なのです。
リスクをゼロにはできない
どれほど慎重に管理していても、倒産リスクを完全になくすことはできません。
だからこそ、
・取引先を分散する
・与信限度額を設定する
・売掛金残高を定期的に確認する
・必要に応じて前払いなどの条件を検討する
といった対策を組み合わせることが重要になります。
「回収できないかもしれない」という前提で備えることが、結果として会社を守ることにつながります。
結論
取引先の倒産は、突然起きるように見えても、多くの場合は何らかの兆候があります。
支払条件の変化、経営者の動き、決算内容、業界動向、そして日頃のコミュニケーション。この五つの視点を持つことで、リスクを早期に察知し、適切な対応を取れる可能性が高まります。
与信管理は、売上を守るためではなく、会社の未来を守るための経営活動です。変化の激しい時代だからこそ、日頃から情報を集め、小さな異変を見逃さない姿勢を持つことが、安定した経営への第一歩となるでしょう。
参考
税のしるべ 2026年7月6日
連載「不良債権に係る税務上の取扱いの再確認」税理士・東辻 淳次 第1回/個別評価金銭債権に係る貸倒引当金