転職するときには給与や役職、勤務地などを比較する人が多いでしょう。
しかし、忘れてはいけないのが企業年金です。
勤務先に確定給付企業年金であるDBや企業型確定拠出年金であるDCがある場合、退職によってそれまで積み上げてきた年金の扱いが変わります。
企業年金は退職したら消えてしまうわけではありません。
一方で、何もしなくても自動的に次の会社へ移るとは限りません。
DBとDCでは、転職時の年金資産の持ち運び方にも違いがあります。
企業年金にはポータビリティがある
企業年金を転職先などへ持ち運ぶ仕組みをポータビリティといいます。
かつてのように一つの会社で定年まで働くことを前提とするなら、企業年金を会社間で移す必要性はそれほど大きくありませんでした。
しかし転職が一般的になれば事情が変わります。
30代や40代で勤務先を変え、その後さらに別の会社へ転職することもあります。
企業年金も働き方の変化に合わせて、自分の老後資産を継続して管理できる仕組みが重要になります。
DCは個人別に資産が管理されている
企業型DCでは、会社などが拠出した掛金が加入者ごとの資産として管理されています。
従業員自身が運用商品を選び、その運用結果も個人別の資産残高に反映されます。
そのため転職するときには、それまで積み立てた資産を次の制度へ移換するという考え方が比較的分かりやすくなっています。
転職先に企業型DCがあれば、その制度へ資産を移換できる場合があります。
転職先の制度などによってはiDeCoへ移換する方法もあります。
勤務先が変わっても、それまで形成した老後資産を引き継いでいくことができます。
DCでは手続きが重要になる
ただし、企業型DCは転職すれば自動的に次の制度へ資産が移るとは限りません。
必要な移換手続きを確認することが重要です。
退職するときには、現在加入している企業型DCの資産をどこへ移せるのかを確認します。
次の勤務先に企業型DCがあるのか。
iDeCoへ移換する必要があるのか。
どのような手続きが必要なのか。
こうした点を退職時に確認しておく必要があります。
転職では健康保険や年金、税金など多くの手続きがありますが、企業型DCも忘れてはいけません。
資産を移すと運用商品も変わることがある
企業型DCを転職先の企業型DCへ移換した場合、それまでとまったく同じ商品を保有し続けられるとは限りません。
企業型DCの商品ラインアップは勤務先によって異なるからです。
前の会社では利用できた投資信託が、新しい会社の企業型DCにはない場合があります。
その場合には、新しい制度で用意されている商品の中から改めて運用先を考える必要があります。
企業型DCのポータビリティとは、同じ金融商品をそのまま持ち運ぶことではなく、老後資産としての価値を次の制度へ引き継ぐという意味で考えると分かりやすいでしょう。
DBでは給付を受ける権利を確認する
DBの場合は仕組みが異なります。
DBでは従業員ごとの資産を本人が直接運用しているわけではありません。
給与や勤続年数、ポイントなど、制度で定められたルールによって将来の給付額を計算します。
そのため退職時には、それまでの加入期間などに応じてどのような給付を受けられるのかを確認する必要があります。
退職時に一時金として受け取る方法がある場合もあれば、一定の条件のもとで将来年金として受け取る仕組みもあります。
勤務先のDBの規約によって取り扱いが異なります。
企業年金連合会へつながる場合もある
DBを中途退職した人の企業年金について重要な役割を持つのが企業年金連合会です。
企業年金連合会は、DBなどを中途脱退した人の年金資産を引き継ぎ、将来年金として支給する役割を担う場合があります。
若い時期に退職した会社の企業年金が、何十年も後に企業年金連合会から支給されることもあります。
転職を何度か経験すると、過去の勤務先で加入していた企業年金の存在を忘れてしまうことがあります。
退職時に受け取った企業年金関係の書類は長期間保管しておくことが重要です。
転職先の制度も確認する
転職するときには、現在の企業年金をどうするかだけでなく、転職先にどのような企業年金があるのかも確認したいところです。
転職前の会社にはDBとDCの両方があったのに、転職先にはDCしかない場合もあります。
反対に、転職先に充実したDBが用意されている場合もあります。
毎月の給与が同じでも、企業年金の内容が違えば長期的な待遇には差が生じます。
転職時の年収比較では見えにくい部分ですが、企業年金も報酬の一部と考える必要があります。
転職で老後資産を分断しない
転職回数が増えると、老後資産が複数の制度に分かれる可能性があります。
公的年金があります。
以前の勤務先のDBがあります。
現在の勤務先の企業型DCがあります。
さらにiDeCoを利用している人もいるでしょう。
それぞれを別々に考えていると、自分が老後にどの程度の資産や年金を受け取れるのか分かりにくくなります。
転職を機に、自分の老後資産を一度整理することには大きな意味があります。
ポータビリティはDCが増える理由の一つ
2026年3月末時点で、企業型DCの加入者数はDBの加入者数を上回りました。
DCが広がっている理由の一つとして、転職時に資産を持ち運びやすいことが挙げられています。
一つの会社に長期間勤務することを前提としない働き方が広がれば、企業年金にも柔軟性が求められます。
DCは個人別に資産が管理されているため、勤務先が変わっても老後資産として継続しやすい特徴があります。
企業年金制度も雇用の流動化に合わせて変化しているといえます。
退職時に確認したいこと
転職するときには、退職する会社の企業年金制度を確認することが重要です。
DBなのかDCなのか。
DBであれば将来どのような給付を受けられるのか。
DCであれば資産をどこへ移換するのか。
転職先にはどのような企業年金があるのか。
必要な手続きの期限はいつなのか。
企業年金は金額が大きく、受給まで数十年ある場合もあります。
退職時に制度と手続きを整理しておくことが将来の老後資産を守ることにつながります。
結論
転職しても、それまで積み上げた企業年金が単純になくなるわけではありません。
ただし、DBとDCでは持ち運び方が異なります。
企業型DCでは加入者ごとに資産が管理されており、一定の手続きを行うことで転職先の企業型DCやiDeCoなどへ移換できる場合があります。
DBでは、退職時までの加入期間などに応じた給付を確認し、制度によっては企業年金連合会などを通じて将来の年金につなげることになります。
転職が一般的になるほど、給与だけでなく企業年金を途切れさせずに管理することが重要になります。
転職時には年収や仕事内容とともに、これまでの企業年金をどうするのか、そして次の会社にどのような企業年金があるのかまで確認しておきたいところです。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 インフレ下の企業年金(1)「企業、給付額増を検討」