人生100年時代の老後資金設計 iDeCo・NISA・退職金・公的年金をどう組み合わせるか

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2026年12月から、個人型確定拠出年金(iDeCo)の制度が大幅に拡充されます。

企業年金のない会社員の掛金上限は月額2万3,000円から6万2,000円へ、自営業者やフリーランスなどは国民年金基金の掛金などと合わせて月額6万8,000円から7万5,000円へと引き上げられます。

また、一定の条件を満たす人については、70歳未満まで加入できるようになります。

これにより、老後資金を税制優遇の下で積み立てる選択肢が広がります。

しかし、老後資金の準備はiDeCoだけで完結するものではありません。

公的年金、勤務先の退職金、企業年金、NISA、預貯金などを組み合わせ、長期間にわたる生活費を確保する必要があります。

特に人生100年時代には、60歳や65歳で資産形成を終了し、その後は資産を取り崩すという従来の考え方だけでは対応しにくくなっています。

働く期間、年金を受け取る時期、資産を取り崩す順番まで含めた総合的な資金計画が重要です。

今回のiDeCo拡充を踏まえ、人生100年時代の老後資金設計について考えます。

老後資金設計の出発点は公的年金

老後資金を考える際、最初に確認したいのが公的年金の受給見込額です。

日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金を基本としています。

会社員や公務員は原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取ります。

一方、自営業者やフリーランスなどは、原則として老齢基礎年金が中心になります。

ただし、過去に厚生年金に加入していた期間があれば、その期間に応じた老齢厚生年金を受け取れる場合があります。

公的年金の大きな特徴は、原則として生涯にわたって受給できることです。

長生きするほど生活資金が必要になる人生100年時代において、終身給付である公的年金は老後生活の重要な基盤になります。

まずは、ねんきん定期便やねんきんネットなどを利用し、自分自身の年金受給見込額を確認することが重要です。

老後の生活費と公的年金の差額を把握

公的年金の受給見込額を確認したら、次に老後の生活費を見積もります。

例えば、夫婦2人の生活費が月額30万円、公的年金の手取り収入が月額22万円の場合を考えます。

毎月の不足額は8万円です。

年間では96万円になります。

この不足額が25年間続くと、単純計算で2,400万円が必要になります。

30年間では2,880万円です。

ただし、これは生活費や年金額が一定であると仮定した概算です。

実際には物価上昇や医療費、介護費用、住宅修繕費などによって支出が変わります。

また、年齢が上がるにつれて生活費の内訳が変化することもあります。

重要なのは、老後資金の必要額を一律に考えるのではなく、自分自身の生活費と公的年金の差額から計算することです。

退職金は老後資金の重要な柱

会社員にとって、退職金は老後資金の重要な財源です。

しかし、退職金制度の内容は勤務先によって大きく異なります。

退職一時金制度がある会社もあれば、企業型確定拠出年金や確定給付企業年金を導入している会社もあります。

また、退職金制度そのものがない会社もあります。

そのため、老後資金計画を立てる際には、勤務先の退職給付制度を確認することが必要です。

特に50代以降は、退職金の見込額だけでなく、受給時期や受給方法も重要になります。

退職一時金には原則として退職所得控除が適用されます。

一方、企業年金を年金方式で受け取る場合には、公的年金等控除が関係することがあります。

退職金は受取額だけでなく、税引後の手取り額を把握することが重要です。

iDeCoは老後資金を積み増す制度

iDeCoは、公的年金や退職金を補完するための私的年金制度です。

掛金の全額が所得控除の対象になり、運用期間中の利益も非課税になります。

2026年12月の制度拡充によって、企業年金のない会社員は年間最大74万4,000円を拠出できるようになります。

例えば、月額5万円を20年間積み立てると、掛金の合計は1,200万円になります。

年率3%で運用できたと仮定すると、20年後の資産額は約1,642万円です。

これは毎月末に積み立て、一定の利回りで運用できたとする概算であり、手数料などは考慮していません。

実際の運用成果は市場環境によって変動します。

また、iDeCoは原則として60歳まで資産を引き出せません。

そのため、住宅購入や教育費など、老後より前に必要となる資金をiDeCoに振り向けることは適していません。

iDeCoは、老後まで使わない資金を計画的に積み立てる制度として位置付けることが重要です。

NISAは老後資金の柔軟性を高める

NISAは、運用益が非課税になる資産形成制度です。

年間投資枠は、つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円の合計360万円です。

非課税保有限度額は取得価額ベースで1,800万円です。

NISAの大きな特徴は、必要に応じて保有資産を売却できることです。

iDeCoと異なり、原則60歳まで引き出せないという制約はありません。

そのため、老後資金だけでなく、住宅修繕費や介護費用など、将来のまとまった支出にも対応しやすい制度です。

ただし、投資信託や株式などには価格変動リスクがあります。

必要な時期に市場が下落している場合には、損失を確定して売却する可能性があります。

そのため、近い将来に必要となる資金までNISAで運用することは避ける必要があります。

NISAは、資金の自由度を確保しながら中長期の資産形成を行う制度として活用することが重要です。

預貯金は生活防衛資金として確保

老後資金設計では、iDeCoやNISAだけでなく、預貯金も重要です。

預貯金は、原則として必要なときに利用できることが大きな特徴です。

例えば、急な医療費や介護費用、住宅設備の故障などが発生した場合、預貯金があれば金融商品を売却せずに対応できます。

一方、預貯金には物価上昇によって実質的な購買力が低下するリスクがあります。

そのため、老後資金のすべてを預貯金で保有することが必ずしも適切とは限りません。

重要なのは、資金の使い道に応じて預貯金と運用資産を使い分けることです。

日常生活費や近い将来の支出に備える資金は預貯金で確保し、長期間使わない資金はiDeCoやNISAなどで運用する方法が考えられます。

60歳から65歳までの生活資金を準備

老後資金設計で見落としやすいのが、60歳から65歳までの生活資金です。

多くの人にとって、公的年金の受給開始は原則65歳です。

一方、60歳で定年退職する場合には、公的年金を受け取るまでの期間に生活費が必要になります。

例えば、60歳で退職し、65歳まで働かない場合を考えます。

年間生活費が360万円であれば、5年間で1,800万円が必要になります。

もちろん、配偶者の収入や預貯金、退職金などによって必要額は異なります。

また、60歳以降も再雇用や転職によって働く場合には、給与収入で生活費の一部を賄えます。

そのため、老後資金計画では、60歳から65歳までの収入と支出を別に考えることが重要です。

公的年金の受給開始前に資産を大きく取り崩してしまうと、65歳以降の生活資金が不足する可能性があります。

公的年金の繰下げ受給という選択肢

公的年金は、原則として65歳から受給できますが、受給開始時期を繰り下げることができます。

繰下げ受給では、1か月当たり0.7%の増額率が適用されます。

70歳まで繰り下げた場合、増額率は42%です。

75歳まで繰り下げた場合、増額率は84%になります。

例えば、65歳から年間180万円の老齢年金を受け取れる人が、70歳まで繰り下げた場合、単純計算では年間255万6,000円になります。

ただし、加給年金額など繰下げ増額の対象にならない部分があり、実際の受給額は個別に異なります。

また、繰下げ期間中は対象となる年金を受け取れません。

そのため、生活費を給与や預貯金などで賄えることが前提になります。

公的年金の繰下げ受給は、長生きした場合の年金収入を増やす方法ですが、すべての人に有利になるわけではありません。

健康状態や家族構成、税金、社会保険料などを考慮して判断する必要があります。

退職金とiDeCoの受給時期を調整

退職金とiDeCoを受け取る際には、税金の取扱いに注意が必要です。

iDeCoを一時金で受け取る場合には、原則として退職所得控除が適用されます。

しかし、勤務先の退職金とiDeCoの一時金を受け取る時期によって、退職所得控除の調整が必要になることがあります。

2026年からは、iDeCoの一時金を先に受け取った場合について、後から受け取る退職金との調整対象期間が拡大されています。

また、会社の退職金を先に受け取り、その後にiDeCoの一時金を受け取る場合には、別の調整ルールが適用されます。

そのため、退職金とiDeCoの受給時期を単純に数年間ずらせば、必ず税負担が軽減されるわけではありません。

一方、iDeCoを年金方式で受け取る場合には、公的年金等控除が関係します。

公的年金や企業年金の受給額が多い人は、iDeCoの年金受給によって所得税や住民税、社会保険料が増える可能性があります。

老後資金の受給計画では、税引後の手取り額を比較することが重要です。

70歳まで働く場合の資産形成

人生100年時代には、65歳以降も働く人が増えています。

2026年12月からは、一定の条件を満たす人について、iDeCoの加入可能年齢が70歳未満まで拡大します。

これにより、60歳以降も給与所得や事業所得を得ながら、老後資金を積み増す機会が広がります。

例えば、65歳から70歳までの5年間、生活費を就業収入で賄うことができれば、その期間の資産取り崩しを抑えられます。

さらに、加入資格を満たす場合には、iDeCoへの掛金拠出を継続できる可能性があります。

ただし、長く働くことを前提にしすぎることには注意が必要です。

健康状態や家族の介護、勤務先の雇用方針などによって、予定より早く仕事を辞める場合もあります。

そのため、65歳以降も働く計画を立てる場合には、就業収入が継続するケースと、途中で収入がなくなるケースの両方を想定することが重要です。

老後資金の取り崩し順序を考える

老後資金を準備する際には、積立方法だけでなく、取り崩す順序も重要です。

例えば、65歳以降の生活費を公的年金である程度賄える場合、預貯金やNISAの資産を必要に応じて取り崩す方法が考えられます。

一方、公的年金の繰下げ受給を選択する場合には、受給開始までの生活費を退職金や預貯金などで賄う必要があります。

また、iDeCoの一時金を受け取る場合には、退職所得控除との関係を考える必要があります。

NISAの資産は必要に応じて売却できますが、市場下落時に大きく取り崩すと、その後の資産回復の機会が小さくなる可能性があります。

そのため、短期的な生活費を預貯金で確保し、中長期の資産を運用しながら必要に応じて取り崩す方法が考えられます。

ただし、最適な取り崩し順序は、年齢や資産構成、公的年金の受給額、税負担などによって異なります。

一律の方法ではなく、自分自身の生活設計に合わせて判断することが重要です。

夫婦で考える老後資金設計

老後資金は、本人だけでなく夫婦単位で考えることも重要です。

夫婦では、年齢差や公的年金の受給額、退職時期などが異なる場合があります。

例えば、夫が65歳で退職しても、妻が引き続き働く場合には、世帯全体の収入が継続することがあります。

一方、夫婦の一方が亡くなった場合には、世帯の公的年金収入や生活費が変化します。

遺族年金の受給要件や金額も確認する必要があります。

また、夫婦それぞれがNISAやiDeCoを利用している場合には、資産の保有状況や受給開始時期を整理することが重要です。

特にiDeCoは本人名義の制度であり、掛金の所得控除も原則として本人の所得に対して適用されます。

そのため、夫婦の所得水準によって、iDeCoの所得控除による節税効果が異なります。

世帯全体の税負担と老後資金を考え、制度を組み合わせることが重要です。

老後資金計画は定期的な見直しが必要

老後資金計画は、一度作成すれば終了するものではありません。

給与や事業所得、家族構成、住宅ローン、医療費、介護費用などは、時間の経過とともに変化します。

また、税制や年金制度、金融市場の状況も変わります。

そのため、少なくとも数年ごとに資産状況や収支見通しを確認することが重要です。

特に50歳、55歳、60歳、65歳といった節目では、働き方や年金受給開始時期を含めて見直すことが望まれます。

例えば、50代では退職金の見込額とiDeCoの拠出額を確認します。

60歳前後では、退職後の給与収入や生活費、退職金の受給方法を検討します。

65歳以降は、公的年金の受給開始時期と金融資産の取り崩し方を考えます。

人生100年時代の老後資金設計では、制度を利用すること自体よりも、生活の変化に合わせて計画を修正し続けることが重要です。

結論

2026年12月のiDeCo拡充によって、老後資金を税制優遇の下で積み立てる選択肢が大きく広がります。

企業年金のない会社員や自営業者、60歳以降も働く人にとって、今回の制度改正は老後資金形成を見直す重要な機会になります。

しかし、iDeCoだけで老後資金の問題が解決するわけではありません。

老後生活の基盤となるのは、生涯にわたって受給できる公的年金です。

そのうえで、退職金や企業年金、iDeCo、NISA、預貯金などを組み合わせ、不足する生活資金を準備する必要があります。

また、資産形成の段階だけでなく、退職金やiDeCoの受給時期、公的年金の繰下げ受給、金融資産の取り崩し順序まで考えることが重要です。

特に長寿化が進む社会では、資産を増やすことと同じくらい、資産を長く維持することが求められます。

税制優遇を最大限利用することだけを目的とせず、生活費や医療費、介護費用などに対応できる資金の自由度を確保する必要があります。

人生100年時代の老後資金設計とは、公的年金を基盤に、働き方と資産形成、資産の取り崩しを一体として考えることです。

今回のiDeCo拡充を、将来の生活を支える資金計画を総合的に見直す機会にすることが重要です。

参考

日本経済新聞 2026年11月1日 朝刊

「iDeCoが12月大幅拡充、利用拡大へ『企業年金弱者』加入が焦点」

厚生労働省「確定拠出年金制度」

国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」

金融庁「NISAを知る」

日本年金機構「ねんきんネット」

日本年金機構「年金の繰下げ受給」

国税庁「退職金を受け取ったとき(退職所得)」

国税庁「公的年金等の課税関係」

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