二重目的組織とは何か 利益と社会的目的を同時に追求する企業編

経営

企業には利益を上げるという重要な目的があります。しかし近年は、それだけではなく、環境問題や地域社会、人権、社会課題の解決などにも取り組むことが求められるようになりました。このように経済的目的と社会的目的という異なる二つの目的を同時に追求する組織を「二重目的組織」と呼びます。パーパス経営が広がるなか、この二つをどう両立させるかが企業経営の重要なテーマになっています。

二重目的組織とは何か

二重目的組織は、英語ではデュアルパーパス組織などと呼ばれます。

大きな特徴は、

「経済的目的」

と、

「社会的目的」

という性質の異なる二つの目的を同時に追求することです。

一般的な企業であれば、売上や利益を増やし、企業価値を高めることが重要です。

一方、社会的な目的を持つ組織では、環境保護、地域活性化、貧困対策、雇用創出、教育支援など、社会課題の解決も重要になります。

二重目的組織では、この両方を同時に実現しようとします。

利益を上げるだけでもありません。

社会貢献だけでもありません。

事業を持続させながら社会的価値も生み出すところに特徴があります。

経済的目的とは何か

企業にとって経済的目的は欠かせません。

売上を確保し、費用を上回る利益を生み出し、投資した資本に見合った収益を上げる必要があります。

企業が利益を上げることについて、社会貢献と対立するもののように考えることがあります。

しかし利益は企業活動を続けるために必要です。

利益がなければ従業員に給与を払い続けることも、新しい設備に投資することも、研究開発を続けることもできません。

金融機関からの借入金も返済できなくなります。

株主から資本を調達することも難しくなるでしょう。

したがって二重目的組織でも、経済的目的がなくなるわけではありません。

むしろ社会的目的を継続的に実現するためにも、経済的な持続可能性が必要になります。

社会的目的とは何か

もう一つが社会的目的です。

企業活動を通じて社会にどのような価値を提供するのかという考え方です。

例えば環境問題であれば、二酸化炭素排出量の削減や資源循環への貢献があります。

地域社会であれば、地域雇用の創出や地域産業の活性化が考えられます。

医療や介護であれば、人々の健康や生活の質を高めることが社会的目的になるでしょう。

社会的目的は単なる寄付や慈善活動とは限りません。

重要なのは、本業そのものを通じて社会的価値を生み出そうとする点です。

社会課題を解決する商品やサービスを提供し、その対価として収益を得る。

その収益を再び事業に投資し、さらに社会的価値を生み出す。

この循環をつくることが理想になります。

なぜ二つの目的は衝突するのか

二重目的組織の最大の難しさは、経済的目的と社会的目的が必ずしも一致しないことです。

例えば環境負荷を大幅に減らせる設備があるとします。

導入すれば社会的価値は高まります。

しかし設備投資に多額の資金が必要であれば、短期的な利益は減少します。

従業員の賃金を大幅に引き上げる場合も同じです。

従業員にとっては大きなメリットがありますが、人件費が増加するため利益率は低下するかもしれません。

地域社会の雇用を守るため、不採算工場を維持するというケースも考えられます。

社会的目的からみれば意味があります。

しかし経済的目的から考えれば工場を閉鎖した方が合理的かもしれません。

このように、

「社会的には正しいが、経済的には厳しい」

という状況が発生します。

反対に、

「利益は増えるが、社会的には望ましくない」

という経営判断もあります。

二重目的組織では、この矛盾から逃れることができません。

どちらか一方を優先すればよいわけではない

問題が起きたとき、

「利益を優先する」

あるいは、

「社会貢献を優先する」

と決めてしまえば判断は簡単です。

しかし、それでは二重目的組織とはいえません。

経済的目的だけを優先すれば、一般的な利益追求型企業に近づきます。

反対に社会的目的だけを優先し、赤字を無制限に受け入れれば、企業として事業を継続することが難しくなります。

重要なのは、

「二つの目的をどのように両立させるか」

です。

例えば環境投資によって短期的には利益が減っても、エネルギーコストの削減やブランド価値の向上によって長期的な収益につなげることが考えられます。

従業員への投資についても、人件費というコストだけでなく、生産性向上や離職率低下による経済的効果まで考える必要があります。

社会的価値と経済的価値を別々に考えるのではなく、両者を結びつけるビジネスモデルをつくることが重要になります。

組織内部でも意見が分かれる

二重目的組織では、経営者だけでなく組織内部でも対立が起きやすくなります。

例えば営業部門は売上を増やしたいと考えます。

財務部門は投資効率を高めたいと考えるでしょう。

サステナビリティー部門は環境負荷を減らしたいと考えます。

人事部門は従業員への投資を増やしたいかもしれません。

それぞれの主張には合理性があります。

しかし会社の資金や人材には限りがあります。

すべてを同時に最大化することはできません。

そのため、

「何をどこまで優先するのか」

について組織内部で調整する必要があります。

二重目的組織では、この調整能力そのものが重要な経営能力になります。

目標のヒエラルキーが必要になる

複数の目的を持つ企業では、目標に一定の優先順位をつける必要があります。

例えば、

安全性だけは利益より優先する。

環境投資は一定の収益性を満たす範囲で実施する。

社会課題への投資は中長期的な事業成長につながる分野を優先する。

といった判断基準です。

これが目標のヒエラルキーです。

すべての目標を同じ重要度にしてしまうと、現場は判断できなくなります。

「利益も最大化してください」

「環境負荷も最小化してください」

「従業員満足度も最大化してください」

と指示されても、現実にはどこかでトレードオフが発生します。

だからこそ経営者は、会社として何を優先するのかを明確にする必要があります。

数字だけでは調整できない

経済的目的については比較的数字で管理しやすいという特徴があります。

売上高、営業利益、ROE、ROICなどの指標があります。

一方、社会的目的は必ずしも簡単に数値化できません。

地域社会への貢献をどのように測るのか。

顧客からの信頼をどのように測るのか。

従業員の働きがいをどのように評価するのか。

企業の存在が社会に与えている価値を完全に数字に置き換えることは難しいでしょう。

だからこそ二重目的組織では、KPIを設定するだけで問題が解決するわけではありません。

数字では表せない価値についても議論する必要があります。

現場の本音のコミュニケーションが重要になる

二重目的組織では、正式な会議や制度だけでは調整が難しい場合があります。

公式の場では、それぞれの部門が自分の役割に基づいて主張するからです。

財務部門は収益性を主張します。

サステナビリティー部門は社会的価値を主張します。

営業部門は顧客や売上を主張します。

それぞれが正論を主張すると、かえって議論がまとまらないことがあります。

そこで重要になるのが、現場での率直なコミュニケーションです。

「理想としてはここまでやりたい」

「しかし現在の利益水準では難しい」

「この部分なら今年実施できる」

「ここは数年かけて取り組もう」

といった現実的な調整です。

制度や規則だけではなく、対話によって異なる目的を調整することが必要になります。

パーパス経営との関係

二重目的組織という考え方は、パーパス経営と非常に深い関係があります。

パーパスとは、

「企業は何のために社会に存在するのか」

を示すものです。

パーパス経営を本気で実践すれば、企業は利益だけではなく社会的価値を追求することになります。

つまり多くの企業は、パーパス経営を進めるほど二重目的組織としての性格を強めていくことになります。

ここで重要なのは、パーパスが二つの目的を調整する判断基準になることです。

例えば利益を上げられる新規事業があったとしても、自社のパーパスから大きく外れているのであれば参入しないという判断があり得ます。

反対に短期的な利益率は低くても、パーパスの実現につながり、将来の成長事業になるのであれば投資するという判断も考えられます。

パーパスは単なる企業理念ではなく、

「利益と社会的価値が衝突したときにどう判断するのか」

という経営上の基準になるわけです。

パーパスを掲げるほど経営は難しくなる

パーパス経営という言葉には前向きな印象があります。

しかし実際には、パーパスを本気で実践するほど経営判断は難しくなります。

利益だけを目的にすれば、

「どちらの選択肢がより儲かるか」

で判断できます。

社会的目的を加えると、

「どちらがより儲かるか」

だけではなく、

「どちらが自社の存在意義に合っているか」

「社会にどのような影響を与えるか」

「長期的な企業価値につながるか」

まで考える必要があります。

判断軸が増えるからです。

だからこそパーパス経営では、きれいな企業理念をつくることより、矛盾する目的をどう調整するかという経営の仕組みづくりが重要になります。

結論

二重目的組織とは、利益などの経済的目的と、社会課題の解決などの社会的目的を同時に追求する組織です。

パーパス経営が広がるにつれて、多くの企業が実質的に二重目的組織として経営することを求められるようになっています。

ただし、社会的目的と経済的目的は常に一致するわけではありません。

環境投資を増やせば利益が減る。

賃金を上げればコストが増える。

地域雇用を守れば事業効率が低下する。

こうした対立は避けられません。

重要なのは、どちらか一方を捨てることではなく、両者を持続可能な形で組み合わせることです。

そのためには、目標の優先順位を明確にし、数字による管理だけではなく、経営者と現場が率直に議論できる仕組みも必要になります。

パーパス経営の本当の難しさは、立派な存在意義を掲げることではありません。

社会的価値と経済的価値という、ときに矛盾する二つの目的を日々の経営判断の中でどう両立させるのか。

そこにパーパス経営の成否を分ける重要なポイントがあるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年8月10日朝刊
エコノミクス トレンド
企業のパーパスを再考する
若林直樹・京都大学教授

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