不動産を多く持つ会社は新ルールで有利になるのか 時価から簿価へ変わる影響を考える編

税理士
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非上場株式の相続税評価を巡って国税庁が検討している新ルール案では、会社が保有する不動産の扱いが大きな注目点になります。

現在の評価方法では、土地などの資産を相続税評価額に置き換えて会社の純資産価額を計算する場合があります。

そのため、何十年も前に取得した土地の価格が大きく上昇している会社では、その含み益が自社株評価額を押し上げることがあります。

これに対して新ルール案では、簿価純資産を評価の基礎に使う方向が示されています。

では、不動産を多く保有する会社は新ルールによって自社株評価額が下がるのでしょうか。

現在は不動産の値上がりが自社株に影響します

非上場株式の現在の評価方法の1つに純資産価額方式があります。

純資産価額方式では、会社の資産と負債をもとに1株当たりの価額を計算します。

重要なのは、単純に決算書に記載されている帳簿価額を使うわけではないことです。

土地や有価証券などについて、相続税評価額などに評価し直して会社の純資産を計算します。

そのため、会社が保有する土地の価値が取得時より大きく上昇していれば、その値上がりが自社株評価に影響します。

含み益とは何か

ここで重要になるのが含み益です。

例えば会社が昔1000万円で購入した土地を保有しているとします。

帳簿上では取得価額を基礎とした金額で計上されています。

しかし現在、その土地の価値が5000万円相当になっているとすれば、帳簿上には直接表れていない大きな値上がりがあります。

これが含み益です。

会社が土地を売却していなくても、純資産価額方式による自社株評価では土地の現在の評価額が影響することがあります。

その結果、会社には現金が増えていないのに、自社株評価額だけが高くなることがあります。

創業から長い会社ほど差が大きくなりやすくなります

特に影響を受けやすいのが、創業から長い企業です。

何十年も前に本社や工場、倉庫などの土地を取得している会社では、取得時の価格と現在の土地価格に大きな差が生じていることがあります。

都市部など地価上昇の大きい地域では、その差がさらに拡大します。

事業を長く続けてきた結果として不動産に大きな含み益が蓄積し、それが事業承継時の自社株評価を押し上げることがあるのです。

新ルールでは簿価純資産を使います

国税庁の新ルール案では、簿価純資産と残余利益を組み合わせて非上場株式を評価する考え方が示されています。

簿価純資産では、税法上の数値をもとに会社の資産から負債を差し引きます。

現在の純資産価額方式のように、保有する不動産などについて改めて時価に近い評価を行う作業が減ることになります。

この違いが、不動産を長期間保有している会社の株価を大きく変える可能性があります。

土地の含み益が評価から外れる可能性があります

先ほどの例で考えてみます。

1000万円で取得した土地の現在の価値が5000万円相当になっているとします。

現在の評価方法では、その値上がり部分が自社株評価に反映されることがあります。

一方、新ルールで税法上の簿価を基礎にするのであれば、この4000万円の含み益を現在と同じ形で評価へ反映しないことになります。

その結果、他の条件が同じであれば、自社株評価額を押し下げる方向に働く可能性があります。

不動産の含み益が大きい会社ほど、この影響も大きくなる可能性があります。

評価実務も簡単になる可能性があります

簿価純資産を使うメリットとして、評価額だけでなく実務負担の軽減も指摘されています。

現在は土地などの資産について相続税評価を行う必要があるため、評価作業に時間がかかります。

土地であれば所在地や形状、接道状況などを確認しなければならない場合があります。

新ルール案で税法上の簿価を利用できれば、こうした作業の一部が不要になります。

専門家からは、申告までの期間を短縮できる可能性があるとの指摘も出ています。

不動産を持っていれば必ず有利とは限りません

ただし、不動産を多く持つ会社なら新ルールで必ず自社株評価額が下がると考えるのは早計です。

新ルール案では簿価純資産だけで株価を決めるわけではありません。

もう1つの重要な要素として残余利益があります。

会社が高い利益を継続的に出していれば、その収益力が残余利益として企業価値に反映されます。

不動産の含み益が評価されにくくなることで株価が下がる方向に働いても、残余利益が大きければ株価を押し上げる可能性があります。

最終的には両方を見る必要があります。

賃貸不動産を持つ会社では収益力も重要です

例えば会社が多数の賃貸不動産を保有しているケースを考えてみます。

不動産に大きな含み益があれば、簿価純資産を使うことで評価額が下がる方向に働く可能性があります。

一方、その不動産から毎年多額の賃料収入を得て高い利益を出しているのであれば、その収益力は残余利益に影響します。

つまり不動産会社では、不動産の含み益が評価から外れる方向だけを見ることはできません。

その不動産がどれだけ利益を生み出しているのかも重要になります。

資産管理会社には別の議論があります

さらに注意したいのが資産管理会社です。

国税庁の有識者会議では、資産管理会社など特定の企業に適用する計算方法についても今後議論する予定とされています。

不動産や有価証券を保有することを主な目的とする会社と、商品やサービスを提供して利益を得る一般的な事業会社では、企業価値の性質が異なります。

簿価純資産をそのまま使えば、大きな含み益を持つ資産管理会社の株式評価額が大幅に下がる可能性も考えられます。

そのため、一般の事業会社とまったく同じ計算方法になるとは限りません。

簿価だけで本当に適正なのかという論点もあります

新ルール案には別の視点からの指摘もあります。

例えば、1000万円で取得した土地が現在1億円の価値を持っている場合を考えてみます。

会社がその土地を所有しているという経済的な事実は変わりません。

それにもかかわらず、取得時の簿価を中心に株価を評価すれば、現在の会社の財産価値を十分に反映していないのではないかという問題が生じます。

専門家からも、不動産などの含み益を除いた純資産ベースでは適正な時価評価とは言いづらいという指摘が出ています。

評価実務を簡単にすることと、会社の経済的価値を適切に測ることのバランスが重要になります。

斟酌率によっても結果は変わります

さらに最終的な評価額には斟酌率も関係します。

国税庁の試算では、還元率を8パーセントと仮定し、斟酌率を1.0から0.7まで変えた複数のケースが示されました。

斟酌率を小さくすれば評価額は下がる方向に働きます。

したがって、不動産の簿価への変更だけを見ても最終的な影響は分かりません。

簿価純資産、残余利益、還元率、斟酌率を合わせて考える必要があります。

結論

国税庁が検討している非上場株式の新ルール案では、簿価純資産を評価の基礎に使う方向が示されています。

これによって大きな影響を受ける可能性があるのが、不動産を長期間保有している会社です。

昔取得した土地の価格が大きく上昇している会社では、現在の評価方法ではその含み益が自社株評価額を押し上げることがあります。

新ルールで簿価を基礎にすれば、その影響が小さくなり、自社株評価額が下がる可能性があります。

しかし、不動産を持つ会社なら必ず有利になるわけではありません。

会社の収益力を示す残余利益も評価されるからです。

さらに資産管理会社については、別の計算方法が設けられる可能性もあります。

新ルールを見るときに重要なのは、不動産をいくら持っているかだけではありません。

その不動産をいつ、いくらで取得したのか。

現在どの程度の含み益があるのか。

そして、その資産を使ってどれだけ利益を生み出しているのか。

資産と収益力の両方を見ることが、新しい非上場株式評価を理解するポイントになります。

参考

日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 非上場株の相続巡る新ルール案 中小の5割超、評価額減少

日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 企業収益力に応じ課税 計算簡単、評価額適正に

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