不動産は今が売り時なのか――鑑定価格を上回る物件売却とJ-REITの投資判断

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不動産投資信託(J-REIT)の世界で、保有物件を積極的に売却する動きが注目されています。

これまでJ-REITは、優良な不動産を取得し、長期間保有することで安定した賃貸収入を確保することが基本的な経営戦略でした。

しかし、不動産価格が高値を維持する一方、金利上昇によって資金調達環境が変化する中で、保有物件を売却して利益を確定することの合理性が高まっています。

日本経済新聞が紹介した集計によると、2026年にJ-REITが売却した物件の価格は、鑑定評価額を平均16.3%上回っています。

この数字は、不動産の評価額と実際の売買価格との間に大きな差が生じていることを示しています。

もっとも、不動産を高値で売却できるからといって、すべての物件を売却することが最善とは限りません。

将来の賃料収入、物件価格の上昇余地、借入金の状況、売却資金の使い道などを総合的に判断する必要があります。

不動産の鑑定評価額と売却価格の違い

不動産の価値を考えるうえで重要なのが、鑑定評価額と実際の売却価格の違いです。

鑑定評価額は、不動産鑑定士が物件の立地、収益力、建物の状態、市場動向などを分析して算定する価格です。

J-REITでは、保有物件の価値を把握するために不動産鑑定評価が利用されています。

一方、売却価格は、実際に買い手と売り手が合意した取引価格です。

例えば、鑑定評価額100億円の物流施設が116億円で売却された場合、売却価格は鑑定評価額を16%上回ります。

ただし、この16億円がそのまま会計上の売却益になるわけではありません。

売却益は、売却価格から帳簿価額や売却に伴う費用などを差し引いて計算します。

仮に帳簿価額が80億円、売却費用が2億円であれば、売却益は34億円です。

鑑定評価額との差額と会計上の売却益は異なるため、区別して理解することが重要です。

なぜ鑑定評価額を上回る価格で売却できるのか

不動産が鑑定評価額を上回る価格で売却される背景には、複数の要因があります。

第一に、優良物件に対する投資需要の強さです。

物流施設、都心のオフィスビル、賃貸住宅などでは、安定した賃貸収入を期待する国内外の投資家が取得を希望する場合があります。

第二に、物件の希少性です。

立地条件が良く、建物の品質が高く、長期契約のテナントが入居している物件は、同じ条件の物件を新たに取得することが難しい場合があります。

第三に、将来の賃料上昇期待です。

現在の賃料が市場水準より低ければ、契約更新時の賃料改定によって収益が増加する可能性があります。

第四に、買い手ごとの投資戦略の違いです。

長期保有を目的とする投資家と、短期間で資産価値を高めることを目指す投資家では、同じ物件に対する評価が異なる場合があります。

こうした要因が重なることで、鑑定評価額を上回る取引価格が形成されることがあります。

ただし、実際に売却された物件は買い手が見つかった物件であり、すべての不動産が同様の条件で売却できるとは限りません。

NOI利回りから考える不動産の収益力

不動産の売却判断で重要な指標が、NOI利回りです。

NOIは「Net Operating Income」の略で、純営業収益を意味します。

賃貸収入などから、物件の維持管理費、修繕費、固定資産税などの運営費用を差し引いて求めます。

一般に、借入金の支払利息や減価償却費はNOIの計算には含めません。

例えば、年間賃貸収入が6億円、物件運営費用が1億円の物流施設を考えます。

この場合、NOIは5億円です。

物件価格が100億円であれば、NOI利回りは5%となります。

同じ物件の価格が125億円に上昇すれば、NOI利回りは4%に低下します。

つまり、賃貸収益が変わらなくても、不動産価格が上昇すると取得利回りは低下します。

不動産価格が高騰している局面では、新たな物件を取得しても十分な収益性を確保できない可能性があります。

このことが、J-REITによる物件売却を後押しする要因となっています。

キャップレートと不動産価格の関係

不動産投資では、キャップレートという指標も重要です。

キャップレートは、不動産のNOIを物件価格で割って求める利回りです。

単純化すると、不動産価格はNOIをキャップレートで割って求められます。

例えば、年間NOIが5億円の物件について、キャップレートが5%であれば、理論上の価格は100億円です。

キャップレートが4%に低下すると、価格は125億円になります。

反対に、キャップレートが6%に上昇すれば、価格は約83億円に低下します。

このように、不動産価格は要求利回りの変化によって大きく動きます。

金利上昇局面では、投資家が不動産に求める利回りも上昇する可能性があります。

その結果、将来の不動産価格に下押し圧力がかかることがあります。

もっとも、キャップレートは金利だけで決まるわけではありません。

立地、建物の品質、賃料成長率、空室リスク、投資需要なども影響します。

したがって、金利が上昇したからといって、不動産価格が必ず下落するわけではありません。

今売却する場合と保有を続ける場合の比較

不動産の売却判断では、現在の売却価格と将来の収益を比較する必要があります。

例えば、現在120億円で売却できる物流施設を考えます。

年間NOIは5億円で、今後も同じ水準が続くと仮定します。

5年間保有すれば、単純計算で25億円のNOIを得られます。

しかし、5年後の物件価格が100億円に下落していれば、売却価格は現在より20億円低くなります。

一方、賃料上昇によってNOIが増加し、5年後の物件価格が140億円になれば、保有を続けた方が有利になる可能性があります。

実際の判断では、将来のNOI、修繕投資、税金、売却費用、借入金利、資金の時間価値なども考慮する必要があります。

現在の売却価格が高いという理由だけで売却するのではなく、保有を続けた場合の収益と比較することが重要です。

売却資金の使い道が投資主価値を左右する

J-REITが物件を売却した場合、その資金には主に3つの使い道があります。

第一に、新たな物件の取得です。

売却した物件よりも収益性や成長性の高い物件を取得できれば、ポートフォリオ全体の質を改善できます。

第二に、借入金の返済です。

金利上昇局面では、借入金を削減することで支払利息を抑え、財務健全性を高める効果があります。

第三に、自己投資口の取得です。

NAV倍率が1倍を下回る局面では、割安な投資口を買い戻すことで、1口当たり純資産価値を改善できる可能性があります。

例えば、物件売却によって100億円の資金を得た場合、新規物件取得、借入金返済、自己投資口取得のどれが最も有利かは、その時点の市場環境によって異なります。

重要なのは、物件を高値で売却すること自体ではありません。

売却によって得られた資金を、どのように活用するかという資本配分の判断です。

ラサールの物件売却戦略が注目される理由

ラサールロジポート投資法人は、保有物件の売却と自己投資口取得を組み合わせた「逆外部成長」を進めています。

2026年9月には、「ロジポート柏沼南」や「犬山物流センター」など4物件を今後3期にわたって売却する方針を発表しました。

同時に、100億円を上限とする自己投資口取得も示しています。

2027年2月期中には、物件売却で得られる資金の約8割を自己投資口取得に充てる方針です。

同法人は、自己投資口取得による効果をNOI利回りに換算すると約6%になるとの試算を示しています。

新たな不動産を取得して同程度の収益性を確保することが難しいのであれば、自己投資口取得を優先する判断には合理性があります。

ただし、保有物件を売却すれば、将来の賃料収入や資産価値上昇の機会を失う可能性もあります。

このため、物件売却による資本効率改善と、将来の収益力維持のバランスが重要になります。

物件売却が分配金に与える影響

J-REITが物件を売却すると、売却益が発生する場合があります。

売却益は、その決算期の利益を押し上げ、分配金の増加につながる可能性があります。

しかし、売却益は通常、一時的な収益です。

売却した物件から得られていた賃貸収入は、翌期以降には発生しなくなります。

例えば、年間NOI5億円の物件を売却して20億円の売却益が発生した場合、売却した期の利益は増加します。

一方、翌期以降は年間5億円のNOIが失われます。

そのため、売却益によって分配金が増加しても、その水準が継続するとは限りません。

個人投資家は、分配金の増加が継続的な賃貸収益によるものなのか、一時的な売却益によるものなのかを区別する必要があります。

個人投資家が確認したい物件売却の評価ポイント

J-REITが物件売却を発表した場合、売却価格の高さだけで評価することは適切ではありません。

まず、売却価格と鑑定評価額の関係を確認します。

次に、売却価格と帳簿価額との差額から、会計上の売却益がどの程度発生するかを確認します。

さらに、売却物件のNOI利回りや稼働率、将来の賃料成長余地を確認します。

収益性の低い物件を高値で売却できれば、ポートフォリオの改善につながる可能性があります。

一方、収益性の高い優良物件を売却する場合には、将来の収益力低下に注意が必要です。

加えて、売却資金を借入金返済、新規物件取得、自己投資口取得のどれに充てるのかも重要です。

老後資金の運用では、一時的な売却益による高い分配金よりも、長期的に安定した賃貸収益を確保できるかどうかを重視することが望まれます。

結論

不動産価格が高値を維持する局面では、J-REITが保有物件を売却することに経済的な合理性が生まれます。

2026年には、J-REITの物件売却価格が鑑定評価額を平均16.3%上回ったと報じられており、優良物件に対する投資需要の強さがうかがえます。

しかし、不動産を高値で売却できることと、売却が最善の経営判断であることは同じではありません。

売却によって得られる利益と、将来失われる賃貸収入や資産価値上昇の機会を比較する必要があります。

また、売却資金をどのように活用するかによって、投資主価値への影響は大きく変わります。

ラサールロジポート投資法人の「逆外部成長」は、不動産を保有し続けることだけでなく、適切な時期に売却して資本を再配分することも重要な経営戦略であると示しています。

今後のJ-REIT投資では、保有物件の数や資産規模だけでなく、物件ごとの収益力、売却判断の合理性、売却資金の使い道を総合的に評価することが重要になると考えられます。

参考

日本経済新聞 2026年10月30日 朝刊「ラサールのREIT『今はあえて縮小』の波紋 資本改善と拡大のジレンマ」

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