株式上場というと、一度審査に合格して上場すれば、その後はずっと上場企業でいられるように思えるかもしれません。
しかし、実際にはそうではありません。
上場企業には、上場した後も満たし続けなければならない条件があります。
それが上場維持基準です。
東京証券取引所では2022年に市場区分を再編し、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場という三つの市場に分けました。
それぞれの市場には上場企業として維持すべき基準が設けられています。
基準を満たせなくなった企業が一定期間内に改善できなければ、最終的には上場廃止になる可能性があります。
最近、上場廃止企業が増えている背景を理解するうえで、この上場維持基準は重要な仕組みです。
上場維持基準とは何か
上場維持基準とは、上場企業が証券取引所で株式の売買を続けるために満たさなければならない条件です。
上場するときだけ厳しい審査を行い、その後は何の条件も設けないのであれば、株式市場の品質を維持することは難しくなります。
例えば、ほとんど株式が市場に出回っていない会社が上場し続けていたとします。
売買できる株式が少なければ、少しの売買だけで株価が大きく動く可能性があります。
投資家が売りたいと思っても買い手が見つからないかもしれません。
そこで証券取引所は、上場した後についても一定の条件を設けています。
上場は一度取得すれば永久に保証される資格ではないのです。
どのような基準があるのか
上場維持基準は市場によって異なります。
代表的な項目には、
株主数
流通株式数
流通株式時価総額
流通株式比率
売買代金
純資産
などがあります。
ここでポイントになるのが、単純に会社の売上高や利益だけを見ているわけではないことです。
株式市場として十分に株式を売買できる状態になっているかどうかも重視されています。
証券取引所は企業を評価するだけの場所ではありません。
投資家が株式を売買する市場でもあるからです。
時価総額とは何か
上場維持基準を理解するときに知っておきたい言葉の一つが時価総額です。
基本的には、
株価に発行済み株式数を掛ける
ことで求められます。
例えば、株価が1000円で発行済み株式数が1000万株なら、時価総額は100億円です。
株価が500円まで下落すれば、ほかの条件が同じなら時価総額は50億円になります。
会社の工場や店舗が突然半分になったわけではありません。
しかし、株式市場から見た会社の評価額は半分になります。
このように時価総額は株価によって変動します。
企業自身が利益を増やして企業価値を高める努力をすることはもちろん重要ですが、株式市場からどのような評価を受けるかも上場企業にとって無視できません。
流通株式とは何か
もう一つ重要なのが流通株式です。
上場会社が発行している株式のすべてが、実際に市場で活発に売買されているわけではありません。
例えば、大株主や会社の役員などが長期的に保有し、市場にほとんど出てこない株式があります。
そこで、市場で実際に流通する可能性のある株式に注目します。
これが流通株式です。
発行済み株式数が多くても、その大部分を特定の大株主が保有していれば、市場で売買できる株式は少なくなります。
そのため、東証では流通株式数だけでなく、流通株式時価総額や流通株式比率なども上場維持基準として設けています。
なぜ流通株式が重要なのか
理由は株式の流動性です。
投資家にとって重要なのは、株式を買えることだけではありません。
必要なときに売れることも重要です。
市場に出回っている株式が極端に少ないと、売りたい人と買いたい人を結びつけにくくなります。
例えば、ある投資家が大量の株式を売却しただけで株価が急落する可能性があります。
反対に、大量の買い注文によって株価が急騰する場合もあります。
一定量の株式が市場で流通していることは、公正で円滑な価格形成を行うために重要なのです。
新規上場基準とは何が違うのか
ここで混同しやすいのが、新規上場基準と上場維持基準です。
新規上場基準は、これから株式市場へ入ろうとする企業が満たすべき条件です。
IPOを目指す企業は審査を受け、必要な条件を満たしたうえで上場します。
一方、上場維持基準は、すでに上場している企業が市場に残り続けるための条件です。
つまり、
入口で確認するのが新規上場基準
入った後も確認されるのが上場維持基準
と考えると分かりやすいでしょう。
上場審査を通過したという過去の実績だけで、その後永久に上場が保証されるわけではありません。
基準を満たさなくなったらすぐ上場廃止になるのか
ここは誤解しやすいところです。
上場維持基準を満たさなくなったからといって、原則としてその瞬間に株式の売買ができなくなるわけではありません。
一定の改善期間が設けられる仕組みがあります。
企業はその間に基準を満たすための対応を進めます。
例えば流通株式比率が不足しているのであれば、大株主が保有する株式の一部を市場へ売却することなどが考えられます。
企業価値を高めて株価が上昇すれば、時価総額に関する基準を満たせる場合もあります。
重要なのは、基準未達だから即退場という単純な制度ではないことです。
改善する機会を設けながら、それでも基準を満たせない場合に上場廃止へ進む仕組みになっています。
東証の市場再編が大きな転換点になった
日本の株式市場にとって大きな転換点となったのが2022年4月の市場区分再編です。
それまでの市場第一部、市場第二部、マザーズ、JASDAQという市場区分から、プライム、スタンダード、グロースという三つの市場へ再編されました。
問題は、新市場が始まった時点ですべての企業が新しい上場維持基準を満たしていたわけではなかったことです。
そこで一定の企業には経過措置が設けられました。
いわば新しい基準へ移行するための猶予期間です。
しかし、経過措置がいつまでも続けば、新しい基準を設けた意味が薄れてしまいます。
このため経過措置は順次終了し、本来の上場維持基準が適用されていきます。
これが上場廃止企業の増加につながる要因の一つになっています。
上場企業を減らすことが目的ではない
上場維持基準を厳しくすると聞くと、東証が上場企業を減らそうとしているように感じるかもしれません。
しかし、本来の目的は企業数を減らすことそのものではありません。
重要なのは株式市場の質です。
上場企業には投資家から資金が集まります。
その企業が資金を有効に使い、利益を生み、企業価値を高めれば、投資家にも利益が還元されます。
逆に、上場しているという看板だけを維持し、株式がほとんど売買されない企業が大量に存在すれば、株式市場全体の魅力を高めることにはつながりません。
上場企業数という量よりも、上場企業の質を高める方向へ市場改革が進んでいると考えることができます。
上場廃止には二つの流れがある
現在の上場廃止増加を見る場合、二つの流れを分けて考える必要があります。
一つは、上場維持基準を満たせず市場から退出する企業です。
もう一つは、MBOや企業買収などによって自ら株式を非公開化する企業です。
同じ上場廃止でも意味は大きく異なります。
業績不振や基準未達によって市場から退出する場合もあれば、経営改革を進めるため戦略的に上場をやめる場合もあります。
したがって、上場廃止というニュースを見ただけで、
この会社は経営に失敗した
と判断することはできません。
なぜ上場廃止になるのかという理由まで確認する必要があります。
結論
上場維持基準とは、上場企業が証券取引所に残り続けるために満たさなければならない条件です。
株主数、流通株式、時価総額、売買状況など、株式市場として十分に機能するためのさまざまな基準があります。
新規上場基準が株式市場への入口をチェックする仕組みだとすれば、上場維持基準は上場した後も市場に残る資格があるかを継続的に確認する仕組みといえます。
2022年の東証市場再編後は経過措置が設けられましたが、その猶予期間も順次終了していきます。
その結果、基準を満たせない企業の上場廃止が増える可能性があります。
一方、MBOなどによって自ら非公開化を選択する企業も増えています。
これから上場廃止のニュースを見るときには、単に会社が市場から消えると考えるのではなく、
上場維持基準を満たせなかったのか
それとも企業自身が非公開化を選んだのか
という違いを見ることが重要です。
上場は一度認められれば永久に続く資格ではありません。
上場企業には、市場に残り続けるための条件を継続的に満たすことが求められているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月7日朝刊 上場廃止、3年連続で最多更新へ
日本取引所グループ 上場維持基準