三菱重工とIHIは再評価されるのか 防衛予算拡大とPER低下から考える防衛関連株の投資価値

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高市早苗政権の成長戦略で、重要な位置を占めているのが防衛産業です。

日本政府は安全保障環境の変化を背景に、防衛力の強化と防衛産業の生産基盤整備を進めています。

その中心的な企業として注目されているのが、三菱重工業とIHIです。

ところが、株式市場では意外な動きが起きています。

2025年9月末から2026年10月にかけて、日経平均株価が32%上昇した一方、三菱重工業の株価は3%下落し、IHIも7%下落しました。

政府の重点投資分野でありながら、株価は市場平均を大きく下回ったのです。

さらに、三菱重工業の予想PERは2026年1月の71倍台から33倍台まで低下しました。

この変化は、防衛関連株の成長期待が後退したことを意味するのでしょうか。

それとも、過熱した株価が調整され、長期投資の機会が生まれつつあるのでしょうか。

今回は、防衛予算、受注残高、利益率、PER、キャッシュフローという5つの視点から、三菱重工業とIHIの投資価値を考えます。

防衛産業が国策の中心となった背景

日本の防衛政策は、近年大きな転換期を迎えています。

2022年12月に策定された国家安全保障戦略などの安全保障関連3文書では、防衛力の抜本的な強化が打ち出されました。

2023年度から2027年度までの5年間における防衛力整備計画の規模は、43兆円程度とされています。

これは、従来の防衛関係予算と比較して大幅な拡大です。

防衛予算の増加は、装備品の調達だけでなく、研究開発、生産設備、維持整備、弾薬備蓄など幅広い分野に影響します。

防衛関連企業にとっては、中長期的な需要拡大につながる可能性があります。

特に重要なのが、防衛産業を国家安全保障上の重要な生産基盤として位置付ける考え方です。

防衛装備品は、必要になったときに海外から必ず調達できるとは限りません。

国際情勢の悪化によって輸出制限や供給網の混乱が発生する可能性があるためです。

そのため、国内で一定の生産能力や技術力を維持することが、安全保障上の課題となっています。

三菱重工業やIHIは、こうした政策の恩恵を受ける可能性がある企業です。

三菱重工業が持つ防衛産業としての強み

三菱重工業は、日本を代表する総合重工業メーカーです。

航空機、艦艇、ミサイル、宇宙機器、エネルギー関連設備など、多様な事業を展開しています。

防衛分野では、戦闘機関連、誘導弾、艦艇、各種防衛システムなどを手掛けています。

同社の強みは、単一の装備品だけでなく、複数の防衛分野にまたがる技術基盤を持っていることです。

例えば、航空機の開発には、材料技術、制御技術、エンジン関連技術、電子機器など多様な技術が必要になります。

こうした技術は、防衛分野だけでなく、民間航空機や宇宙、エネルギー関連事業にも応用されます。

つまり、防衛関連の研究開発が、他の事業分野の競争力向上につながる可能性があります。

また、防衛装備品は開発から製造、維持整備まで長期間にわたる事業となることが一般的です。

一度受注すれば、その後の保守や改修など継続的な収益機会が生まれる場合があります。

ただし、長期契約であることが必ずしも高い利益率を保証するわけではありません。

開発費の増加や部品価格の上昇、納期の遅延などによって、採算が悪化する可能性もあります。

防衛事業の拡大を評価する際には、受注金額だけでなく、利益率の改善が伴っているかを確認する必要があります。

IHIの航空エンジン技術と成長可能性

IHIも、日本の防衛産業において重要な役割を担っています。

同社の特徴は、航空エンジンや関連する高度な技術を保有していることです。

航空エンジンは、高温、高圧、高速回転という厳しい条件の下で作動するため、高度な材料技術や精密加工技術が必要になります。

こうした技術は、短期間で容易に獲得できるものではありません。

長年にわたる研究開発と製造経験の蓄積が競争力の源泉になります。

IHIは防衛用航空エンジンに加えて、民間航空機向けエンジン事業にも関わっています。

そのため、防衛需要だけでなく、世界の航空需要の動向も業績に影響します。

航空機エンジン関連事業では、新規製造に加えて、整備や交換部品などのアフターマーケットが重要な収益源になります。

航空機の運航が増加すれば、整備需要の拡大が期待できます。

一方、航空エンジン事業には、開発負担や品質問題、整備費用の増加などのリスクもあります。

IHIの投資価値を判断する際には、防衛事業と民間航空関連事業を分けて分析することが重要です。

なぜ防衛関連株は市場平均に負けたのか

防衛予算が拡大する方向にあるにもかかわらず、三菱重工業とIHIの株価は市場平均を下回りました。

その理由の一つとして考えられるのが、将来の成長期待が早い段階で株価に織り込まれていたことです。

株式市場では、企業の利益が増加する前から将来の成長を期待して株価が上昇することがあります。

しかし、株価が大きく上昇した後は、実際の業績が期待に届かなければ、株価が調整されることがあります。

特に成長期待の高い企業では、利益が増加していても、株価が下落する場合があります。

これは、企業の成長と株式投資の収益率が必ずしも一致しないことを意味します。

また、防衛関連企業は政府予算の影響を受けるため、政策の具体化が遅れれば、投資家の期待が後退する可能性もあります。

防衛予算が増加しても、企業が実際に受注し、製品を納入し、利益を計上するまでには時間がかかります。

政策発表と企業収益の実現には時間差があるのです。

三菱重工業のPER71倍から33倍への変化

三菱重工業の株価評価を考えるうえで、特に注目したいのが予想PERの変化です。

2026年1月には71倍台まで上昇していた予想PERが、2026年10月には33倍台まで低下しました。

PERは、株価を1株当たり予想利益で割って求める指標です。

例えば、1株当たり予想利益が100円で、株価が7,100円であれば、予想PERは71倍になります。

同じ予想利益100円に対して株価が3,300円であれば、予想PERは33倍です。

ただし、実際のPERは株価と予想利益の両方によって変化します。

したがって、PERが71倍から33倍に低下したという事実だけで、株価が半分以下になったと判断することはできません。

予想利益が増加した場合にも、PERは低下するためです。

また、PER33倍という水準が割安かどうかは、将来の利益成長率によって異なります。

高い利益成長が長期間続く企業であれば、PER33倍が正当化される可能性があります。

一方、利益成長が鈍化する企業にとっては、依然として高い評価水準かもしれません。

重要なのは、PERの絶対水準だけでなく、利益成長率と比較することです。

受注残高は将来の売上高を考える手掛かり

防衛関連企業の業績を分析する際には、受注残高が重要な指標になります。

受注残高とは、すでに受注しているものの、まだ売上高として計上されていない契約の残高です。

例えば、企業が1兆円の防衛装備品を受注しても、契約時点で全額が売上高になるわけではありません。

製造や納入の進捗に応じて、一定の会計基準に従い売上高が計上されます。

したがって、受注残高の増加は、将来の売上高を見通すうえで重要な材料になります。

しかし、受注残高が増加しているだけでは十分ではありません。

確認すべきなのは、受注案件の採算性です。

例えば、受注残高が2兆円あっても、営業利益率が3%であれば、単純計算で営業利益は600億円です。

一方、受注残高が1兆円でも、営業利益率が10%であれば、営業利益は1,000億円になります。

もちろん、実際の利益計上時期や費用構造は案件によって異なります。

それでも、受注金額の大きさだけでなく、利益率を重視すべきことは明らかです。

防衛関連企業の評価では、受注残高の増加と採算性の改善が同時に進んでいるかを確認することが重要になります。

キャッシュフローが投資価値を左右する

防衛関連企業では、売上高や営業利益に加えて、キャッシュフローの分析も欠かせません。

大型装備品の開発や製造には、多額の資金が必要になるためです。

例えば、受注が増加しても、製造設備の増強や部品の調達に多額の資金を投入しなければならない場合があります。

売上高や利益が増加していても、手元資金が十分に増えないことがあります。

特に重要なのが、営業キャッシュフローと設備投資額の関係です。

営業キャッシュフローから設備投資などを差し引いたフリーキャッシュフローは、企業の資金創出力を考える際の参考になります。

ただし、大規模な成長投資を実施している時期には、フリーキャッシュフローが一時的に減少することもあります。

そのため、単年度の数字だけで判断するのではなく、複数年度の推移を確認することが重要です。

防衛関連企業では、研究開発費、設備投資、在庫、前受金、売掛金などの動きが資金繰りに影響します。

受注拡大が実際の現金創出につながっているかを確認することで、企業の成長の質を評価しやすくなります。

防衛予算拡大が利益拡大に直結しない理由

防衛関連株への投資で注意したいのは、政府の防衛予算が増加しても、企業の利益が同じ割合で増加するわけではないことです。

第一に、防衛予算には人件費や施設整備費など、装備品メーカーの売上高に直接つながらない支出も含まれています。

第二に、防衛装備品の開発には長期間を要するため、予算措置から売上高計上まで時間差があります。

第三に、原材料価格や人件費の上昇によって、受注増加が利益率改善につながらない可能性があります。

第四に、生産能力を拡大するための設備投資や人材確保が必要になります。

さらに、防衛関連事業では、政府との契約条件や価格算定の仕組みも収益性に影響します。

企業が十分な利益を確保できなければ、生産能力の維持や研究開発への再投資が難しくなります。

そのため、政府にとっても、防衛産業の持続可能な収益基盤を整えることが重要になります。

投資家は、防衛予算の総額だけでなく、企業の収益構造がどのように変化するかを確認する必要があります。

日本成長戦略実行計画が再評価の契機になる可能性

2026年末にかけて策定される日本成長戦略実行計画は、防衛関連株の評価を左右する材料になる可能性があります。

この計画では、今後5年間の投資の道筋や政府の支援内容、必要な予算額などが具体化する見通しです。

防衛分野では、継続的な予算措置に加えて、生産基盤の強化や技術開発への支援が注目されます。

政策の方向性が明確になれば、企業が中長期の設備投資計画を立てやすくなります。

また、投資家にとっても、将来の受注や収益を予測する材料が増えることになります。

ただし、政策の具体化が必ず株価上昇につながるとは限りません。

市場がすでに政策内容を予想している場合、発表後に利益確定売りが出る可能性もあります。

重要なのは、実行計画の内容が市場の事前予想を上回るかどうかです。

さらに、政府支援が実際の受注や利益成長につながるまでには時間が必要です。

短期的な株価変動と中長期的な企業価値の変化を区別することが求められます。

個人投資家が確認したい5つの指標

三菱重工業やIHIへの投資を検討する際には、複数の指標を組み合わせて判断することが重要です。

第一に、受注残高の推移です。

防衛関連の受注が継続的に増加しているかを確認します。

第二に、営業利益率です。

売上高の拡大に伴って採算性が改善しているかが重要です。

第三に、予想PERです。

将来の利益成長に対して株価が過大評価されていないかを確認します。

第四に、営業キャッシュフローです。

利益の増加が実際の資金創出につながっているかを分析します。

第五に、政府予算への依存度です。

政策変更による影響をどの程度受けるのかを確認します。

これらに加えて、海外市場への展開可能性、研究開発力、生産能力、人材確保なども重要な評価項目です。

特に三菱重工業とIHIは、防衛以外の事業も展開しています。

企業全体の株価を評価する際には、防衛事業だけでなく、エネルギー、航空、宇宙など他の事業の収益性も分析する必要があります。

結論

三菱重工業とIHIは、日本の防衛産業を支える重要な企業です。

安全保障環境の変化や防衛予算の拡大を背景に、中長期的な事業機会が広がる可能性があります。

一方、2025年9月末から2026年10月にかけての株価は、日経平均株価を大きく下回りました。

三菱重工業の予想PERも、2026年1月の71倍台から33倍台まで低下しています。

この変化は、株価に織り込まれていた成長期待が調整された可能性を示しています。

しかし、PERが低下したことだけで、投資の好機が訪れたと判断することはできません。

今後の利益成長率、受注案件の採算性、キャッシュフローの改善などを確認する必要があります。

防衛関連企業の長期的な成長を考えるうえで重要なのは、政府予算の拡大が持続的な利益成長につながるかどうかです。

また、防衛産業は安全保障上の重要性が高い一方、企業経営としては収益性と資本効率が求められます。

政府による継続的な支援と企業自身の経営改革が両立して初めて、持続的な企業価値の向上が期待できます。

2026年末に向けて具体化する日本成長戦略実行計画は、防衛関連企業の将来を考える重要な判断材料となるでしょう。

防衛関連株の再評価が実現するかどうか。

その鍵を握るのは、防衛予算の金額そのものではなく、受注拡大を利益とキャッシュフローの成長につなげられるかという企業の実力です。

参考

日本経済新聞 2026年10月20日 高市トレード勝率2割 どう使う370兆円、三菱重やIHIに再評価余地

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